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名も無きねこに

気になった一節 『金閣寺』 柏木のことば

2007-11-21 13:00:07 | わたし
「人の苦悶と血と断末魔の呻きを見ることは、人間を謙虚にし、人の心を繊細に、明るく、和やかにするんだのに。俺たちが残虐になつたり、殺伐になつたりするのは、決してそんなときではない。俺たちが突如として残虐になるのは、たとへばこんなうららかな春の午後、よく刈り込まれた芝生の上に、木洩れ陽の戯れてゐるのをぼんやり眺めてゐるときのやうな、さういふ瞬間だと思わないかね。
 世界中のありとあらゆる悪夢、歴史上のありとあらゆる悪夢はさういふ風にして生まれたんだ。しかし白日の下に、血みどろになって悶絶する人の姿は、悪夢にはつきりした輪郭を与へ、悪夢を物質化してしまふ。悪夢はわれわれの苦悩ではなく、他人の烈しい肉体的苦痛にすぎなくなる。ところで他人の痛みは、われわれには感じられない。何といふ救ひだらう!」

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