「犯罪被害者支援」とは何か(その1)
~犯罪被害者支援事件で,被害者等から解任されないために
犯罪被害者支援委員会委員長 坂本哲
弁護士が犯罪被害者やその家族(以下「被害者等」と言います。)から,様々な場面でのサポートを頼まれたケースにおいて,弁護士が事件処理を行う過程で,依頼者である犯罪被害者等との方向性の不一致,意見対立等から,解任されることが多いのです。
なぜ,こうなってしまうのか,私なりに考えてみました。そのことと弁護士にはどのような活動が期待されているかについて,以下,書いてみます。
第1 なぜ弁護士は解任されるのか
なぜ弁護士は被害者等から解任されることが多いのか。
この問いの答えは,人によって様々だと思われますが,私は,弁護士が被害者等に共感できず,刑事(けいじ)弁護(べんご)脳(のう)のまま事件を処理しようとするからだと思います。
なお,ここで,刑事弁護脳とは,「無罪の推定」「疑わしきは被告人の利益に」「刑法の厳格解釈の原則」等々の憲法及び刑事訴訟法の基本原則は守られるべきとの発想を持っていることを指します。
1 被害者等への「共感」が大切
被害者支援事件に限りませんが,被害者等(依頼者)への共感が大切です。これがないと,どんな優れたスキルを持っていても,被害者等には,この弁護士に依頼してよかった,とはならないのです。
では,「共感」とはどういうことでしょうか。
共感とは,一言で言うと,被害者等の立場に立つということです。自分が被害者になったとしたら,自分の家族が被害者になったとしたら,どう行動するかを考えるということです。
そして,共感するためには,被害者等の心情を理解するよう不断に努めることが必要です。よく弁護士は,簡単に「貴方のお気持ちはわかります。」と言います。しかし,被害者等の気持ちを被害者ではない弁護士がわかるわけがないのです。でも,弁護士も,被害者等の気持ちを理解するよう努力し続けることはできるのです。
2 刑事弁護脳を捨て去ろう
弁護士は,司法試験を受けるために,憲法,そして刑事訴訟法を学び,司法研修所では,「刑事弁護」科目を受講します。そのために,「無罪の推定」「疑わしきは被告人の利益に」等々の刑事訴訟の原理原則が頭にこびりついてしまっています。他方,一般市民,そして,被害者等は,「無罪の推定」など知りません。
だから,弁護士は,無意識のうちに,被害者等ら無知な人間に教えるのだという態度を取ってしまうのです。
しかし,「無罪の推定」は,中世の嫌疑刑(嫌疑があるだけで刑が科される)に対するアンチテーゼとして出てきたモノであり,あらゆる権力から独立した裁判官が被告人とされた者に対して有罪の確信を持つまでは,無実の者として扱うべきという国の義務を標語化したモノでしかなく,本当に被疑者・被告人が無罪と推定されるわけではないのです。
しかも,我が国では,被疑者が起訴されると,99.9パーセント有罪となるのですから,むしろ,被告人は有罪であると事実上推定されているのです。
そこで,被害者支援事件を担当する際は,弁護士は「無罪の推定」等を頭の中から一掃して,被害者の視点から,事件を見るべきなのです。被害者の視点に立って,被害者等をサポートしていく必要があるのです。(以下次号)