『組織罰を実現する会』では,来年5月の刊行を目指して,『組織罰とは何か』ブックレットを作成中です。
そのブックレット刊行の露払いではないのですが,河北新報が以下の社説を掲載してくれました。
組織罰導入の是非/本格的に議論すべき時期だ
法人の事業活動で市民が重大事故に巻き込まれるたびに、刑事上の「組織罰」の制度化を求める声が上がる。しかし、その訴えが届く範囲は主に、同じ苦しみを経験した被害者遺族の一部にとどまる。国民が広く関心を持ち、議論を深めたい。
記憶に刻まれる重大事故の事例として、JR福知山線脱線(2005年4月、兵庫県)や東京電力福島第1原発の電源喪失による水素爆発(11年3月、福島県)、笹子トンネル天井崩落(12年12月、山梨県)などが挙げられる。
いずれも、経営幹部による業務上過失致死傷事件として捜査は進められた。極めて甚大な被害結果が生じながら、不起訴または無罪判決(東電旧経営陣の裁判は係争中)により、刑事責任が認定されたケースはない。
福知山、笹子両事故の遺族が中心となって16年4月に発足した「組織罰を実現する会」は、個人にしか問えない業務上過失致死罪に両罰規定を導入し、法人も罪に問えるようにする特別法の創設を提案する。
法人の業務に関連した事故を対象とし、代表者や従業員らが必要な注意を怠り、人を死亡させたときは法人を罰金刑に処す-というものだ。
安全確保のためのコンプライアンスが徹底される中、回避困難な事情で事故が起きたと認められる場合は免責される。その立証責任は、法人側に課すことを想定する。
遺族らが組織罰の導入を模索する背景には、原因・真相の解明や企業責任の追及、厳重な処罰を願う被害感情と、誰も刑事責任を問われない現実という大きなギャップが存在する。
企業活動の下で起きた事故は加害者を特定するのが難しく、個人の過失責任を問うハードルは高い。権限が社内で細かく分散され、複雑なシステムや資機材を扱う大企業ともなれば、なおさらだ。
さらに、予見、結果回避それぞれの可能性が争われる過失犯の真相は残念ながら、遺族らが期待するほどつまびらかにはならない。
実現する会が提案する組織罰のメリットは、事故の原因を最も知り得る立場にある加害側の法人が刑事訴訟の矢面に立ち、積極的に免責の立証に関わる点だろう。
法人は「事故防止のための措置義務違反」の責めを負わないよう、日頃から対策に神経をとがらせる。社会にとっては、安全性がより担保できるようになると推測される。
一方で慎重論も根強い。結果の認識がある過失と未必の故意とは、微妙な相関関係にある。法律的な見地に加え、法人の責任追及に伴う証拠隠滅といった懸念材料があるからだ。
組織罰に関する検討課題は少なくない。まずは重大事故を防ぎ、次の安全につなげることを主眼に法人処罰を真剣に考える機運を高めたい。