アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

シモーネ・ヤング 激震!

2018-07-14 23:00:00 | 音楽/芸術

新日本フィル定期公演ルビーも最終回。今回は猛暑が続く中、トリフォニーまで出向いてきた。そして締めに相応しい、アントンKにとっては大変感動し印象に残る演奏会になった。

今回の目的は、何といってもシモーネ・ヤングのブルックナー演奏。何年越しで待ち望んでいた演奏会だけに大きな期待を持って会場へと足を運んだ。ヤングのブルックナー演奏は、ハンブルク・フィルを振った録音でおよそ知っており、最近の指揮者の中では、ブルックナーの響きを熟知しているようにお見受けしていた。録音でも、おいしい番号のみの片手間なものではなく、番号の付かないヘ短調交響曲までをも含んだ11曲を一気に演奏して残していて、かなりブルックナーへの造詣も深いと考えていた。

さて今回のブルックナーは、第4交響曲の初稿版の演奏だった。これは取り立てて驚くべきことではなく、ヤングの全集録音でも第3・第4・第8番では初稿版での演奏だったから、おそらくブルックナーについても深い持論をお持ちなのだろう。こだわりを感じて心強い。アントンKには、さほど使用する楽譜は大して問題にはならず、それよりも本物だと思わせるブルックナートーンを感じることができ、それに身を浸すことの方が重要なのだ。

それにしても今回の第4交響曲は、近年ベスト演奏だったと言えるのではないか。少なくとも初稿版としては、録音を含めても最も良かったと感じた。実演では、過去にインバル/都響で2回ほど第4初稿の経験があるが、粗さばかり目立ってしまい、楽曲の構成が初稿だから仕方がないという考えを持ってしまったが、今回の演奏を鑑賞してみると、第2稿にはない素朴なブルックナーの原木を見た気がしている。もちろん、2007年12月の録音での演奏よりも遥かにほりが深く、表情付けが濃く魅力に勝っていた。全体的に印象深いのは、改訂でカットされてしまった、弦楽器に現れる転調を伴うハーモニーの美しさ。各楽章に目立たず存在していた、ほんの数小節ではあるが、これぞブルックナーだと思わせる響きの世界。それは、かつて九州五島列島の田舎の小さな教会でみた、ステンドグラスの輝きを思い出し、目頭が自然と熱くなったほど。アントンKは、そんな数秒にブルックナーを感じ、同時に生きる歓びを感じてしまうのである。

緩徐楽章のテンポも最良の足取りではなかったか。森の散策に相応しく、深い森の中に身を置き、小道を行くブルックナー自身の姿が目に浮かんできた。意味のあるピッチカートの響きや、木管の主張は想像力をさらに高めていく。そして後半にかけての音楽の大きさ、この世のものとはとても思えないTrbの主題の強調とTmpの雄弁さ。この楽章がここまで大きく魅力的に思えたのは初めてだったのだ。

第3楽章のスケルツォは、第2稿のものとは別の音楽。Hrnの安定した響きには恐れ入ったが、弦楽器群の次々に重なり合う構成力には圧倒される。これは全体を通して言えることなのだが、今回の演奏の白眉は、間違いなく弦楽器群だった。演奏に接するたびにエネルギーを享受頂いているコンマスの崔氏だが、彼から発せられる気が、今回はVlaにもVcにも、弦楽器群全体から感じられ、大きく身体を揺さぶられる感覚になった。たとえ音楽が大きく膨れ上がり、トゥッティで最強奏になっても、しっかり弦楽器群の1本線の通った音色がそこにはあり、音楽の土台が構築されていたのだ。最強奏でも、うるさい響きではなく、全体に渡るきめの細かさは指揮者ヤングの指示なのか。特に印象に残っているのは、第1から第4楽章で見られた楽器群の統一性。音楽の主部が管楽器に移り、弦楽器が伴奏に回った場面でも譜面に忠実な演奏で、音色が雄弁で統一感があり素晴らしい。管楽器のロングトーンの主題が安定して乗っているのは、エンドレスで続く長い弦楽器の刻みであり、そこにはしっかりとした足取りを感じて、この構成感こそがブルックナーのだいご味であり、普段は見逃してしまいがちな事を今回の演奏から再認識できたと思っている。昔、誰かがブルックナーはロック音楽のようだと書いていたが、まさにこの演奏では、全編に渡って見られる弦楽器の刻みが、ドラムのリズムのように感じられ、そんな解釈を思い出させるような演奏だった。おそらく限られた練習時間の中、相当な集中力と精神力を使いながら、本番を迎えたはずだが、よくぞここまで、と称賛したい気持ちで今はいっぱいだ。

終演後、灼熱地獄であろう会場外へ飛び出たものの、不思議なほど、暑さは感じなかった。これはさらに熱い演奏に心が反応し、外気の暑さなど感じなくなっていた証拠であり、しばらくスカイツリーを見ながら気持ちを静めていた。それにしても大好きなブルックナーでここまで熱くなったのは久しぶりのこと。一音も聞き逃すまいと、こちらも演奏者とともに極限まで集中していたから、心地よい疲れが身に染みたが、不思議なことに、聴き終った直後にまた聴きたくなるのが、ブルックナーの音楽であり、連日あった公演に行けなかったことを少し後悔している。

第16回 新日本フィル定期演奏会 ルビー

ブルッフ   ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op26

ブルックナー 交響曲第4番変ホ長調 「ロマンティック」 1874年初稿版

指揮      シモーネ・ヤング

ヴァイオリン  木嶋 真優

コンマス    崔 文洙

2018年7月14日  すみだトリフォニーホール