アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

崔 文洙氏の「英雄の生涯」

2020-01-26 19:00:00 | 音楽/芸術

昔からクラシック音楽は大好きで、若い頃は時間さえ出来れば、レコードを掛けまくっていたアントンKだが、今ではそれもなかなか叶わず、音楽への向き合い方も随分と変わってしまった。しかしそんな状態ではあるが、何十年も前から好きで、今も好きで密かに大事にしている楽曲がいくつかある。その中の一つが、今回大阪まで聴きに行ってきたR.シュトラウスの「英雄の生涯」という交響詩なのだ。

この「英雄の生涯」にも、一時はハマりまくり、海賊盤まで含めて何十ものCDを買いあさり、徹底的に聴いていた時代がある。同じR.シュトラウスには、アルプス交響曲という楽曲があり、それとペアでいつも鳴らしていたが、どちらも独特の世界観があり今にして思えば一種の中毒症状だったのかもしれない。今ではその中毒症状も緩和されたが、聴き込めば聴き込むほどに奥が深く面白く、病みつきになるのは変わらない。今回の指揮者大植英次氏のアルペンを、何年か前に同じ大阪フィルで聴いた時の印象がとてもよく、いずれ機会を見つけて「英雄の生涯」も聴きたいと思い続けていた。ただ今回大阪まで聴きに行く最大の目的は、大阪フィルのソロ・コンサートマスターである崔文洙氏の「英雄の生涯」をどうしても聴きたかったからなのだ。コンマスが楽曲全体に渡ってソロで活躍する「英雄の生涯」を、是非とも崔氏のヴァイオリンで聴きたいと懇願していたことに他ならないのである。

ご本人曰く、「コンマスにとって特別な楽曲」と言わしめた「英雄の生涯」だが、やはりそれを裏付けるような、とてつもない感動的な演奏だった。それは過去に数回の実演体験や何百回と聴きまくった数知れない録音とは比較にならず、圧倒的に精神性の高い旋律が身体中を巡り、どこかへ連れて行かれるような錯覚を覚えた。最も活躍する第三曲「英雄の伴侶」では、まるで言葉を交わしているような旋律で、時にヒステリックになったかと思えば、優しく愛撫する音色に感じられ、アントンKの想像を遥かに超えていった。だが今回の演奏で最も印象的だったのは、第七曲「英雄の引退と成就」だった。作曲者自身を「英雄」とし、自らの生き様を音楽にしたこの楽曲で、人生のはかなさを語っているようなこの部分、安堵と安らぎを感じ取れるが、ここでのコンマス崔氏の枯れた切ない想いの表現は絶品であり、さすがのアントンKもわが身とダブってしまい感涙してしまった。旋律が上へ上へと高みを目指す部分は一生の宝となった。崔氏の演奏ではいつもそう感じるが、音色が深く濃く、思い入れの桁が半端ない。そう響かせるためなのか、フレーズの間を大切にしているように思えてならないのである。こんな色合いは、どんなに優秀な録音でも感じられず、目の前で生まれて、すぐに消えていく音楽芸術の醍醐味がここにあったのだ。

指揮者大植英次氏も、期待通りの演奏解釈で楽しめたが、コンマスの崔氏をはじめ、他の弦楽器群の健闘、もちろん管楽器の奮闘ぶりはさすが大フィルと讃えたいし、数日前のブルックナーの時に聴いた音色とはまた一味違い、その好調ぶりを目の当たりにした思いだ。

大植 英次x「英雄の生涯」

指揮者 大植 英次

大阪フィルハーモニー交響楽団

コンマス 崔 文洙

ベートーヴェン 交響曲第7番 イ長調 OP92

R.シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」 OP40

2020年1月25日 大阪 ザ・シンフォニーホール