柴田トヨさんも100歳を迎えられました。みずみずしい感性に曇りはないようです。言葉を紡ぎながら「誰かの心に糸を結ぶことができる」力は,健在です。これからもお元気で,思いを込めた澄んだ言葉を紡いでいってほしいと思います。
第二詩集『百歳』<飛鳥新社 刊>を読みながら,第一詩集『くじけないで』で味わった世界をまた思い出しました。これまでの人生を通して浄化された思いが,一つ一つの言葉の内から伝わってきて,私自身も浄化されていくような気持ちになるのです。年齢を重ねることで,人間の業のようなものが解き放され,かんじんなものだけが見えてくる,悟りのような詩の世界だと思います。
今回の詩集で特に心に残ったのが,『道(あなたに)』という詩です。生きていく上での応援歌になりそうな詩に思えます。
好きな道なら
でこぼこ道だって
歩いて行けるわ
辛くなったら
少し休んで 空を見て
まっすぐ
歩いていくのよ
付いて来るわよ
あなたの影が
がんばれって
言いながら
好きな道をまっすぐ,時には空を見上げながら,あわてず急がず,歩いていきたいものです。でこぼこ道も平坦な道に比べたら,歩きにくくても変化があって楽しいのかもしれません。一緒に付いてくる影は,妻であり・家族であり・友であり・もう一人の自分であり・求める理想 かもしれません。「がんばれ」の励ましに感謝しながら,笑顔で歩き続けていきたいと思います。
震災に心を痛め,次のような詩も書いています。
被災者の皆様に
あぁ なんという
ことでしょう
テレビを見ながら
唯 手をあわすばかりです
皆様の心の中は
今も余震がきて
傷痕がさらに
深くなっていることと思います
その傷痕に
薬を塗ってあげたい
人間だれしもの気持です
私も出来ることは
ないだろうか? 考えます
もうすぐ百歳になる私
天国に行く日も
近いでしょう
その時は 陽射しとなり
そよ風になって
皆様を応援します
これから 辛い日々が
続くでしょうが
朝はかならず やってきます
くじけないで!
トヨさんの 被災者の皆さんのことを気遣う 優しさや温かさが ひしひしと伝わってきます。辛いことの後に 何度も 朝を見てきた トヨさんだからこそ 言葉にできるのだと思います。希望の朝が訪れることを信じ,被災者の方がくじけないで生きていくことを,私も心から応援していきたいと思います。詩の中の言葉の一つ一つが,トヨさんが与えてくださる 陽射しとなり,そよ風となって 被災者の方の心に 届くことと思います。
『流行』という詩には,「やさしさの インフルエンザが / 流行しないかしら / 思いやりの症状が まんえんすればいい 」 という一節がありました。戦争やいじめを憂いた一節ですが,やさしさが流行し思いやりがあふれた世界になったら,誰もが幸せを感じとることができるのではないでしょうか。
詩集を読んで,自分が前より少しだけやさしくなったような気がしました。