「…心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」
きつねが、王子さまに語る秘密の内容です。
目に見えるものだけにとらわれてしまって、かんじんなものを見失ってしまったことが私自身にも何度かあります。日々の忙しさの中で見失うことがないよう、時には立ち止まって、かんじんなものを心で見つめる時間をもちたいものです。
教育の仕事に関わったこともあり、特に印象的な場面(「ぼく」が王子さまと出会う初めの場面)があります。王子さまに頼まれ、「ぼく」がヒツジの絵を描く場面です。どうしても王子さまの求めるヒツジの絵が描けないので、「ぼく」はのぞき穴のある箱の絵を描き、その中に王子さまのヒツジがいると話します。王子さまは、のぞき穴の向こうにほしいヒツジがいたのでうれしくなります。
私はこの場面を読んだ時、教育の仕事は、子どもたちにとって自分の求めるものが見えるようなのぞき窓をつくってあげることなのではないかと考えました。その考えを実践できたかどうかは全く疑問ですが、どんなのぞき窓をつくってあげたらいいかとあれこれ悩みながら取り組んできたことだけは確かです。
この他、心に残る言葉がたくさん出てきますが、3つ書き出してみます。
○ だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、たった一輪の花が好きだったら、その 人は、そのたくさんの星をながめるだけでしあわせになれるんだ。…
○ 砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ…
○ だけど、目ではなにも見えないよ。心でさがさないとね。
話の中に、王様、うぬぼれ男や実業屋、点灯夫や学者が住む星が出てきますが、私の好きなのは呑み助の住む星です。私が呑み助だというわけではありませんが(確かに酒は好きですが…) 呑み助が酒を飲むのは、恥ずかしいのを忘れたいため。何が恥ずかしいかというと酒を飲むのが恥ずかしいから…なんとも矛盾した論理ですが、そういった矛盾の中に生きること自体が人間なのではないかと考えるからです。人間だれしも長所があり短所があります。一つの価値観や尺度だけで見極められないところに、人間としての存在の振幅があり、それがまた魅力であるように思います。大切なのは、そのことを意識しているかどうかというところにあるように思います。矛盾を抱えているからこそ、悩みながら人として生きている。そう考えるのも勝手すぎるかもしれませんが…。
こんなところから、『星の王子さま』は私の人生のバイブルなのです。