藤井聡太七段が史上最年少でタイトルを奪取したニュースが駆け巡りましたが、これは序の口、ここから藤井聡太を巡っての壮大なスペクタクルドラマが、日本中を巻き込んで開始されると言っても過言ではありません。棋聖位奪取の際、NHKのインタビューに対して、藤井七段が「盤上の物語は無限」と答えた報道がありましたが、この言葉は、自分にとってはデジャヴーの瞬間でした。
というのも、今から10年以上前に、ある財界の会合で、羽生善治氏に講演を依頼して、講演後のQAで、私から「なぜ羽生さんは、先に仕掛ける将棋が多いのか?」と聞いた時に、羽生氏は「将棋の可能性は無限であり、その無限の先を切り開いていくためには、自分で仕掛けて、棋譜の主導権を握る必要があると考えているからです」と答えられました。単に、勝ち負けの戦術論ではなく、無限の先を切り開く先導役としての自覚を語られたのを記憶しています。
一方で、渡辺明氏の考え方をまとめた本「渡辺明の思考 盤上盤外問答」の中で、私が応募した「質問」が採用されたのですが、その質問「将棋の神様がいるとして、一つだけ答えてくれるとしたら、何を訊ねてみたいですか?」に対して、渡辺明氏は「将棋に神様はいません。最後まで読み切った方が勝つのです」という返答。すなわち、将棋は有限の世界だから、すべてを読み切る力を身に付ければ負けないという、自らの戦闘スタイルに対する意志表示でした。
この2つのスタンスの違いが判りますか? 前者は、大局的な戦略論であり、後者は局地的な戦術論なのです。藤井聡太新棋聖は、羽生永世七冠の後を継ぐ存在だということが、このことからも明らかなのだと思います。