DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

遍歴者の述懐 その44

2012-12-20 13:46:55 | 物語

宇宙の真理

「カリンポンやカトマンズにあるチベット寺院を訪れると、多くの老若男女がマニ車(マニコロ)を回している姿が見られます。時計回りに1回まわすと、内側にある経文を1回読んだことになるらしいですね。同時に、『Om Mani Padme Hum (オム・マニ・ペメ・フム)』というマントラを唱えます。マントラというのは中国では『真言』と訳されていて、お祈りという意味です。」

晃のことばに熱がこもってきた。

「英語では『Hail to the Jewel in the Lotus Flower』と訳されることが多いようですね。マニ車は108個あって、108の煩悩を超越して涅槃の境地に入る、つまり生き仏になるという信仰ですね。密教で説く『入我我入』や、エホバ神がモーゼに説いた『我は在りて有る者』という自存意識とも共通するのかもしれません。」

話の内容が、だんだん難しくなってきた。

「ヒッピーやヨガの聖者が憧れる『バガヴァド・ギーター』という詩を知っていますか。ヒンドゥー教の重要な聖典の一つですね。叙事詩『マハーバーラタ』の中に出ているのですが、自我を捨てて勤めを果たしなさい、と諭しています。存在するものすべては、この宇宙に必要なものです。すべてが、絶対的な価値と使命を持っています。そのことを悟り、宇宙と一体になりなさい。そうすれば何と幸福なことだろうか。ヒマラヤの山々を見ていると、そんな宗教の教えが何となく理解できそうな気がするから不思議です。」

晃は、決して宗教家ではないし哲学者でもない。彼は、れっきとしたビジネスマンであり、第一次世界大戦と第二次世界大戦を果敢に生き抜いた有徳の人である。ただ少しばかり他人より好奇心が旺盛であったことから、中国語、マレー語、英語、オランダ語、ドイツ語に堪能となり、ヘブライ語やサンスクリット語まで習得していた。華僑からフリーメイソン、ユダヤの民まで幅広い人脈を持ったがゆえに、多くの宗教と触れあった。自らをコスモポリタンと呼ぶ所以でもある。

「イラン中部に起こった『バハイ教』は、釈迦やキリスト、マホメットなどは、同一の神から派遣された聖人であると言っています。そのために他の宗教から迫害もされているのですが、彼らの信仰の中に『白馬に乗った救世主(メシヤ)が東方から来て世を救う』という教えがあります。実に興味深い予言です。日本で『世界宗教者平和会議』が生まれたのもわかる気がします。問題は、白馬に乗るのは誰か、ということですが。」

と言って、晃は笑った。

つづく


12月19日(水)のつぶやき

2012-12-20 05:00:52 | 物語