2019年のドイツ映画です。
ドイツの絵本作家のジュデュス・カーの自伝的小説を映画化したものです。
ナチスドイツ下におけるユダヤ人家族の物語というと、戦争中の弾圧や収容所の問題がよく映画化されますが、この映画はそれよりも前のナチスが政権を奪取した1933年から1934年にかけての物語です(児童文学的に言うと、ケストナーの「飛ぶ教室」(関連する記事を参照してください)が書かれた頃です)。
生まれ育ったドイツ(ベルリン)からスイス、フランス(パリ)、イギリス(ロンドン)と、迫害や貧困を逃れるために流転するユダヤ人家族の生活を、10才ぐらいの主人公の女の子の目を通して描かれています。
ナチスに批判的だった演劇評論家の父は、逮捕されるのを避けて(実際にその後指名手配されて懸賞金がかけられます)スイスに亡命し、ひそかに家族(母、中学生ぐらいの兄、主人公)を呼び寄せます。
しかし、そこでは収入を得る道がなくて、家族はパリへ移住します。
そこでの主人公たちの困難な生活(スイスではドイツ語が通じましたが、パリでは子供たちは全く知らないフランス語を使わなければなりません)が、この作品ではメインに描かれています(主人公はフランス語のハンディキャップに負けずに、作文で賞金を得るまでになりますし、兄は成績で一番になります)。
しかし、ここでも父が十分な収入を得られなかったために、父が書いた戯曲が売れたロンドンへ引っ越すところでこの物語は終わります(今度は、英語を覚えなければなりません)。
いろいろな困難の中で、時にはぶつかり合いながらも、たくましく生きていく主人公や家族の姿が、過度に感傷的にならずに淡々と描かれているのが好感が持てました。
また、当時の風物を再現した映像が素晴らしく、作品にリアリティを与えています。
変わったタイトルは、ベルリンの実家から逃れるときに荷物が制限されたために、主人公が一緒に連れて来られず、その後、当局に没収されてしまった愛するピンクのうさぎのぬいぐるみからきています。