最近では釣り雑誌などでも、「男波、女波」という言葉を使うことが当たり前のようになってきました。
けれども実際、このような男波・女波を意識して釣っても、案外成果は上がらないことが多いような気がします。ビックリするぐらい速い流れで食ってくることもあるし、盛期でも止水みたいな場所で釣れたりもしますしね…。
セオリーでは「山女魚・天女魚は女波で餌を食う」ということになっていますが、郡上釣り四天王の一人、恩田さんは男波を釣るのが得意だったというし、与一マも、「男波で食う流れもある」(※1)と言っています。いったいどうなってるのでしょうか!?
ちょっとここでは、男波・女波という言葉はひとまず置いといて、ちょっと視点を変えて川の“波”というものをみてみたいと思います。男波・女波で理解しようとすると、ますます訳がわからなくなってしまいますから。
さて、それでは“流れ”なり“波”をどう説明すればいいのかってことになると思うんですけど、ここで便宜的に、川の水を水圧よって切り分けてみてみると、水圧の高い流れと低い流れに分けられると思います。
低圧流は常に水底や岩など障害物と接触している流れ、高圧流はそういった障害物の妨害を受けていない流れです(図A)。
この高圧流は、単純に上流から下流へと向かう、直線的な流れです。常に後ろから押されてますから、急に曲がることができないということは、すぐに分かると思います。ですから、急にカーブしたところには、高圧流の一部が派生して、渦を作ったり、流速の弱まった中圧流を作ります。信玄堤ですね(図B)。
一方、高圧流の一部には、障害物とは関係なく、ひとりでに流速が落ちていくものがあるはずです(図C)。
クルマと同じで、水も急には止まれませんから、勢いを持った水は、エネルギーを発散させながら、徐々に減速していきます。その過程で、多様で複雑な流れ、渦、脈動が生まれ、そのうちで餌をゴミと区別するのに都合の良い波を、餌を選り分ける“ふるい”として、魚達は利用していると思われます。
そこで、渓流釣りの代表的なポイントである“落ち込み”の淵について見てみましょう(図D)。
落ち口から押し出されるように斜めに流れていった水は、勢いを保ったまま流れていきますが、一部は、垂直に落ちていったん底の方まで潜り、弱まってから、再び上がってきます。
このような中圧流でも流速の違いがあり、上がってくるタイミングには幅があります。けれども上がってくる時には、落ち込みというポイントの特性上、集中する点ができます。これが、ちょうど万サの言う「食い波」に相当するのではないかと思います(※2)。
中圧流が高圧流から大きく離れることで、ポケットになるところができます。このポケットは、魚が餌を見つけるうえで、大きな役割を果たしていると考えています。
しばた和さんが「ニュートラルを狙え」と言っていますが、このことではないでしょうか?ポケットで食うわけではないんですが…。
また、一部の中圧流は、底から上がってきた後、勢いで水面を突き破ります。テンカラで釣れるのはだいたいこのようなスポット(テンカラ波)です。
次に、ブッツケの淵を見てみましょう。ブッツケでは、落ち込みと違って落ち口の「段差」の部分がありません。ブッツケの淵の流れ込みは“サモト”と呼ばれます。
“落ち込み”では水の位置エネルギーが底を掘り下げる力になっていましたが、“ブッツケ”では岩盤にぶつかった流れが向きを変えて水底をえぐり取ることで、淵を形成しています。つまり、例外なく岩盤にぶつかって折り返す流れが存在していることになります(図E)。
「段差」がちょっとでもあれば「食い波」が発生しているのですが、ここでは段差がまったくない特殊な淵を想定しています。食い波がないわけですから、山女魚・天女魚はやむを得ず淵尻のカケアガリまで流れてくるのを待つか、もしくはサモトに突っ込んでエサを食うことになります。
同じように、落ち込みの淵でも渇水した時などはやっぱり食い波が発生しなくなり、食い方が変わります。
このように食い波が発生していない場所では、魚はジェット機が離陸するように急速に前進し、後退しながらエサを捕食します。このような魚は釣り上げるのが難しいです。そして、うまいです。
それでは次に、チャラ瀬のハミ場に出ている状況を見てみます(図F)。
チャラ瀬では水深が浅いので、いわば、上波と底波しかない状況です。このような状況では、魚は上下ではなく専ら左右に動いてエサを食べます。捕食するタナは、上波と底波の境目です。詳しい説明は次回にでも改めてしようと思いますが、水面の水が上波と底波の境界に向かっていく間に、魚はエサを認識しているようです。
チャラ瀬はこんなふうに楽に釣れる(しかも縄張りがないから群れている)流れですので、ポイントに接近する時に水際を歩くのは、すごくもったいないと思います。
以上の3つが、ヒラタカゲロウが生息している川での3大パターンです。しかし実際は、ほとんどのポイントは、3つの要素を備えた、複合したポイントなんです。どのポイントもよく見れば他の要素を持っているということですね。
クロカワ虫主体の川でも、ヒラタさえいれば、このポイントの見方でまず大丈夫です。
こんなふうに水圧を手がかりにみていくと、男波・女波とか、ICパターンとか、ドラグドリフトとか、難しい理論を知らなくても、魚が食うピンスポットさえわかっていればいいわけで、この方が応用が利きますし、推理しながら釣るのも楽しいですよ。
※1 菱田与一・昇著『郡上職漁師のアマゴ釣り』86ページ。
※2 柴田勇治著『アマゴ釣りの原点』89ページ「…落ち込んだ流れが一ヶ所に集まって吹き上がるところが出来る。そこへエサが流れ出ることをよ、魚は下から見て知っとるんや。アマゴは、虫が流れてくるのを泡の下や流れの上流から見て、ついて来よる。ほうして餌をくわえるところが食い波の場所なんや。/それは、左右にぶれ、常に上下に変化しとるから、また水の状態や天候の具合で同じでないから、口で言うても分かりにくいんや。」(古田万吉氏)
けれども実際、このような男波・女波を意識して釣っても、案外成果は上がらないことが多いような気がします。ビックリするぐらい速い流れで食ってくることもあるし、盛期でも止水みたいな場所で釣れたりもしますしね…。
セオリーでは「山女魚・天女魚は女波で餌を食う」ということになっていますが、郡上釣り四天王の一人、恩田さんは男波を釣るのが得意だったというし、与一マも、「男波で食う流れもある」(※1)と言っています。いったいどうなってるのでしょうか!?
ちょっとここでは、男波・女波という言葉はひとまず置いといて、ちょっと視点を変えて川の“波”というものをみてみたいと思います。男波・女波で理解しようとすると、ますます訳がわからなくなってしまいますから。
さて、それでは“流れ”なり“波”をどう説明すればいいのかってことになると思うんですけど、ここで便宜的に、川の水を水圧よって切り分けてみてみると、水圧の高い流れと低い流れに分けられると思います。
低圧流は常に水底や岩など障害物と接触している流れ、高圧流はそういった障害物の妨害を受けていない流れです(図A)。
この高圧流は、単純に上流から下流へと向かう、直線的な流れです。常に後ろから押されてますから、急に曲がることができないということは、すぐに分かると思います。ですから、急にカーブしたところには、高圧流の一部が派生して、渦を作ったり、流速の弱まった中圧流を作ります。信玄堤ですね(図B)。
一方、高圧流の一部には、障害物とは関係なく、ひとりでに流速が落ちていくものがあるはずです(図C)。
クルマと同じで、水も急には止まれませんから、勢いを持った水は、エネルギーを発散させながら、徐々に減速していきます。その過程で、多様で複雑な流れ、渦、脈動が生まれ、そのうちで餌をゴミと区別するのに都合の良い波を、餌を選り分ける“ふるい”として、魚達は利用していると思われます。
そこで、渓流釣りの代表的なポイントである“落ち込み”の淵について見てみましょう(図D)。
落ち口から押し出されるように斜めに流れていった水は、勢いを保ったまま流れていきますが、一部は、垂直に落ちていったん底の方まで潜り、弱まってから、再び上がってきます。
このような中圧流でも流速の違いがあり、上がってくるタイミングには幅があります。けれども上がってくる時には、落ち込みというポイントの特性上、集中する点ができます。これが、ちょうど万サの言う「食い波」に相当するのではないかと思います(※2)。
中圧流が高圧流から大きく離れることで、ポケットになるところができます。このポケットは、魚が餌を見つけるうえで、大きな役割を果たしていると考えています。
しばた和さんが「ニュートラルを狙え」と言っていますが、このことではないでしょうか?ポケットで食うわけではないんですが…。
また、一部の中圧流は、底から上がってきた後、勢いで水面を突き破ります。テンカラで釣れるのはだいたいこのようなスポット(テンカラ波)です。
次に、ブッツケの淵を見てみましょう。ブッツケでは、落ち込みと違って落ち口の「段差」の部分がありません。ブッツケの淵の流れ込みは“サモト”と呼ばれます。
“落ち込み”では水の位置エネルギーが底を掘り下げる力になっていましたが、“ブッツケ”では岩盤にぶつかった流れが向きを変えて水底をえぐり取ることで、淵を形成しています。つまり、例外なく岩盤にぶつかって折り返す流れが存在していることになります(図E)。
「段差」がちょっとでもあれば「食い波」が発生しているのですが、ここでは段差がまったくない特殊な淵を想定しています。食い波がないわけですから、山女魚・天女魚はやむを得ず淵尻のカケアガリまで流れてくるのを待つか、もしくはサモトに突っ込んでエサを食うことになります。
同じように、落ち込みの淵でも渇水した時などはやっぱり食い波が発生しなくなり、食い方が変わります。
このように食い波が発生していない場所では、魚はジェット機が離陸するように急速に前進し、後退しながらエサを捕食します。このような魚は釣り上げるのが難しいです。そして、うまいです。
それでは次に、チャラ瀬のハミ場に出ている状況を見てみます(図F)。
チャラ瀬では水深が浅いので、いわば、上波と底波しかない状況です。このような状況では、魚は上下ではなく専ら左右に動いてエサを食べます。捕食するタナは、上波と底波の境目です。詳しい説明は次回にでも改めてしようと思いますが、水面の水が上波と底波の境界に向かっていく間に、魚はエサを認識しているようです。
チャラ瀬はこんなふうに楽に釣れる(しかも縄張りがないから群れている)流れですので、ポイントに接近する時に水際を歩くのは、すごくもったいないと思います。
以上の3つが、ヒラタカゲロウが生息している川での3大パターンです。しかし実際は、ほとんどのポイントは、3つの要素を備えた、複合したポイントなんです。どのポイントもよく見れば他の要素を持っているということですね。
クロカワ虫主体の川でも、ヒラタさえいれば、このポイントの見方でまず大丈夫です。
こんなふうに水圧を手がかりにみていくと、男波・女波とか、ICパターンとか、ドラグドリフトとか、難しい理論を知らなくても、魚が食うピンスポットさえわかっていればいいわけで、この方が応用が利きますし、推理しながら釣るのも楽しいですよ。
※1 菱田与一・昇著『郡上職漁師のアマゴ釣り』86ページ。
※2 柴田勇治著『アマゴ釣りの原点』89ページ「…落ち込んだ流れが一ヶ所に集まって吹き上がるところが出来る。そこへエサが流れ出ることをよ、魚は下から見て知っとるんや。アマゴは、虫が流れてくるのを泡の下や流れの上流から見て、ついて来よる。ほうして餌をくわえるところが食い波の場所なんや。/それは、左右にぶれ、常に上下に変化しとるから、また水の状態や天候の具合で同じでないから、口で言うても分かりにくいんや。」(古田万吉氏)