「村」 石垣りん
ほんとうのことをいうのは
いつもはずかしい。
伊豆の海辺に私の母はねむるが。
少女の日
村人の目を盗んで
母の墓を抱いた。
物心ついたとき
母はうごくことなくそこにいたから
母性というものが何であるか
おぼろげに感じとった。
墓地は村の賑わいより
もっとあやしく賑わっていたから
寺の庭の盆踊りに
あやうく背を向けて
ガイコツの踊りを見るところだった。
叔母がきて
すしが出来ている、というから
この世のつきあいに
私はさびしい人数の
さびしい家によばれて行った。
母はどこにもいなかった。
ほんとうのことをいうのは
いつもはずかしい。
伊豆の海辺に私の母はねむるが。
少女の日
村人の目を盗んで
母の墓を抱いた。
物心ついたとき
母はうごくことなくそこにいたから
母性というものが何であるか
おぼろげに感じとった。
墓地は村の賑わいより
もっとあやしく賑わっていたから
寺の庭の盆踊りに
あやうく背を向けて
ガイコツの踊りを見るところだった。
叔母がきて
すしが出来ている、というから
この世のつきあいに
私はさびしい人数の
さびしい家によばれて行った。
母はどこにもいなかった。