もつれ蝶 原よし志
癩者の肉体は着ている衣より早く損ね変貌し、一夜の中に昨夜の面影を失うこともたびたびである。そして、その肉体の変化につれて、お互の友情にも微妙なる動きがある。
会う度に縺れあい
縺れあう度に深まる友情であったが
なぜか
いつのまにか
顔をそむけるようになった
たまたま訪れた日
花園には
薔薇が咲き
香りが甘くただよっていても
二人のへだたりは
どうすることもできなかった
二人は
あじさい色のしじまの底に
深く深く沈んで行くのだった
かつて「チューレリイ宮の噴水が欲しいね」と
読みあった小説の風景を
いっしょに描いたのも
とうとうむかしの思い出になってしまった
ぼくはやわらかな午後の風をうけて
もつれた蝶が
遠くへとんで行くのをながめながら
時間について考えた