「はるかな歌」―わが妻の生まれし日のうた― まどみちお
みなみのくにの さつまのくにの
井戸があつて みかんの木のある
一軒家
しづかな障子
大安日(だいあんにち)か さんりんぼか
あたたかい日に
鶏(とり)なく日に
妻よお前はついたのか
はるかな旅からついたのか
母も覚(おぼ)えず 父さへ解(げ)せぬ
もはやはるかな方言(くにことば)で
アヲアヲアヲ アヲアヲアヲ
たどりついたといふ挨拶(あいさつ)ばかり
母でもなく
父でもない
とほくのとほくへ呼んだのか
障子のむかふの田のむかふ
すはうのくにの 海のほとりの
海に映つたひなたの村の
杏樹(あんず)の下に
菜畠(なばたけ)に
その日の俺の一年生
きよげにひかる耳殻(みみたぶ)は
風にふかれて遊んでゐた
風にふかれて遊んでゐた
みなみのくにの さつまのくにの
井戸があつて みかんの木のある
一軒家
しづかな障子
大安日(だいあんにち)か さんりんぼか
あたたかい日に
鶏(とり)なく日に
妻よお前はついたのか
はるかな旅からついたのか
母も覚(おぼ)えず 父さへ解(げ)せぬ
もはやはるかな方言(くにことば)で
アヲアヲアヲ アヲアヲアヲ
たどりついたといふ挨拶(あいさつ)ばかり
母でもなく
父でもない
とほくのとほくへ呼んだのか
障子のむかふの田のむかふ
すはうのくにの 海のほとりの
海に映つたひなたの村の
杏樹(あんず)の下に
菜畠(なばたけ)に
その日の俺の一年生
きよげにひかる耳殻(みみたぶ)は
風にふかれて遊んでゐた
風にふかれて遊んでゐた
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