「雨宮は、今も幸せなんだろうか」
「それはそうだろうよ。幸せになることは簡単なことなんだ」
京極堂が遠くを見た。
「人を辞めてしまえばいいのさ」
捻くれた奴だ。ならば、一番幸福から遠いのは君だ。そして、私だ。
(京極夏彦 『魍魎の匣』)
京極堂シリーズ全作品の中で『魍魎の匣』が今でも私の中で一番な理由は、このラストシーンがあるから。大好きな場面です。
このシリーズは魅力的なキャラの宝庫だけれど、やっぱり京極堂と関口君の間で交わされる会話がとても好きです。
「あちら側」と「こちら側」の境界は限りなく曖昧で、「あちら側」へ行ってしまうことはとても簡単。一体どちらが幸福なのか。
「あちら側」の甘い誘惑にどうしようもなく惹かれつつ、それでも彼らは「こちら側」に踏みとどまり、生きてゆくのです。