風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

きけ わだつみのこえ (4)

2006-08-09 18:46:53 | 

死んでいった人達はもちろんだけれど、こんな形で愛する者が死んでゆくのを見送るしかなかった人達の辛さはいかばかりだろうと思う。特に母親は……。お腹を痛めて産み、色々な思いをしながら23歳まで育てた息子からこんな手紙を受け取り、しかもそれを読むときには息子はすでにこの世にいないだなんて……。

戦争は悲劇しか生み出さない。
戦争を起こしていい正当な理由など、決してない。

(林 市造 1945年4月12日 特攻隊員として沖縄沖で戦死 23歳)

昭和二十年三月三十一日
……母チャンが私をたのみと必死でそだててくれたことを思うと、何も喜ばせることが出来ずに、安心させることもできず死んでゆくのがつらいのです。私は至らぬものですが、私を母チャンに諦めてくれ、ということは、立派に死んだと喜んでください、と言うことはとてもできません。けど余りこんなことは言いますまい。母チャンは私の気持をよく知っておられるのですから。……

この手紙は出撃を明後日にひかえてかいています。ひょっとすると博多の上をとおるかもしれないのでたのしみにしています。かげながらお別れしようと思って。……

母チャン、母チャンが私にこうせよと言われた事に反対して、とうとうここまで来てしまいました。私として希望どおりで嬉しいと思いたいのですが、母チャンのいわれるようにした方がよかったかなあと思います。……

千代子姉さん博子姉さんもおられます。たのもしい孫もいるではありませんか。私もいつも傍にいますから、楽しく送って下さい。お母さんが楽しまれることは私が楽しむことです。お母さんが悲しまれると私も悲しくなります。みんなと一緒にたのしく暮らしてください。…… ともすればずるい考えに、お母さんの傍にかえりたいという考えにさそわれるのですけど、これはいけない事なのです。……

お母さんだけは、また私の兄弟たちは、そして友達は私を知ってくれるので私は安心して征けます。…… もうすぐ死ぬということが何だか人ごとのように感じられます。いつでもまたお母さんにあえる気がするのです。あえないなんて考えるとほんとに悲しいですから。……
出撃前日

(『きけ わだつみのこえ』より)