「我兵に限り有り、官軍に限り無し。一旦の勝ち有るといえどもそれ必敗に終わる、鄙夫(ひっぷ)すらこれを知る。しかるに吾れ任ずる所に敗れるは、すなわり武夫の恥なり。身を以ってこれに殉ずるのみ」
(大野右仲『函館戦記』にある土方歳三の言葉。相川司/菊池明『新選組実録』本文より)
小説ではなく、史実の新選組について少し詳しく知りたいと思っている方におすすめ。文章も読みやすいし、ボリュームは軽めなのに情報量は十分。
著者のお2人は、司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』から新選組に興味をもたれたというだけあり、痒いところに手が届くような嬉しい本でした。史実に沿って淡々とこの組織の変遷を追いつつ、肉声やエピソードもたっぷり交えてあって読んでいて飽きません。参考文献が明らかにしてある点も嬉しい。
箱館戦争終結時を新選組の最後とするなら、この組織の最後の2~3年のめまぐるしさは信じがたいほどです。時代の急流にのまれ息つく暇もないままその最後まで駆けぬけてゆく。
京都時代のみならず箱館時代についてもしっかり触れられています。
そして「あとがき」で紹介されている新選組生き残り隊士の言葉とそれに対する著者の感想が印象的でした。
(明治39年に新選組研究家から照会を受けた元隊士近藤芳助は、)「新選組の事跡、またその歴史は江湖にいささかも残らざるよう、迂生(自分)等の希望するところなり。何故とならば、たとえ僅かに美挙あるも大体において大義を誤る蛮勇者の集合と云うよりほかに名義なし」「今日無事に生存致し、誠に往時を思えば、長き悪しき夢を視ており申し候」と感慨をこめて回想している。だが、近藤芳助の書簡は数メートルにもおよぶ長文であり、そこには右記のネガティブな表現とは裏腹に「血気夢中時代」とも記され、青春の情熱がほとばしっているように感じられる。
これが全てではないはずだけれど、明治後このような複雑な思いを抱えて生きた隊士はきっと多かっただろうと思う。明治の世に生きる身には新選組時代はそれこそ悪夢のようにも思えただろう。けれどそこには若さにあふれた自分達が確かにいて、明治の世にはない生々しい生と死の緊張感があった。幕末という激動の時代が生んだこの組織の光と影。その一面を垣間見たような気がした。
※写真:清水寺から臨む京の夜景