「タイムズ」紙 1865年8月2日(水曜日) 第9面
『日本人のベッドフォード訪問』 (Visit of Japanese to Bedford)
英国の農業や工業の知識を習得するために、サツマ候(Prince Satsuma)から派遣された日本人の一団が、土曜日、ベッドフォードの英国製鉄所(The Britannia Ironworks)を訪問した。ロンドン大学のウィリアムソン教授、グラスゴー大学の物理学の教授、ほかに彼らの研究の指導にあたっている優秀な科学者たちが、彼らに同行していた。日本人たちは、体格が蒙古人そっくりで、人々の興味をひいたが、彼らは工場の諸機械及びさまざまの操作過程に非常な興味を示し、種々の細部にまで驚くほどすばやい理解を示した。彼らは、工場を大変離れがたい様子であった。しかし、最新式蒸気船の機関が動き出すと、およそ15名ほどの日本人たちは、地歩を占められる所ならどこへでも殺到して行った。どれほど大喜びで彼らがこの工場の広い敷地を縦横に動きまわったか、それはひどく楽しい光景であった。
ここで三時間を過ごした後、彼らはベッドフォード市長のジェームズ・ハワード(James Howard)氏と昼食を共にし、クラファム(Clapham)にあるハワード農園の蒸気鋤の見学に出かけた。彼らの驚きは頂点に達したように見えた。その操作が、考えていたよりもはるかに簡単であることがわかったのである。刈取機の操作も速やかに、しかも器用にこなした。引続き一行は、チャールズ・ハワード(Charles Howard)氏の、有名な短角牛と羊を見学するためにバイデンハム(Bidenham)を訪れた。そこで市長と晩餐をとった後、ベッドフォード訪問が実に楽しかったことを述べ、英国人たちの親切なもてなしに感謝の意を表して、最終列車でロンドンへ向かった。
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一行は、午後9時半発車の最終列車でベッドフォード市を発ち、ロンドンに着いた時には、すでに11時半をまわっていた。
(犬塚孝明『薩摩藩英国留学生』より)