われらギリシャ人、われらには必要なのだ・・・
ワインが、音楽が、太陽が、海が、そしてわれらの神々が必要なのだ。
(『ディオニソス組曲』より)
昨年12月にマリインスキー・バレエ団の来日公演に感動した夜に勢いのままチケットを購入したモーリス・ベジャール・バレエ団の来日公演を、本日観てまいりました。
定時と同時に職場を飛び出し、上野着18時20分。エキナカで20分で夕飯を掻き込み、文化会館へGO♪
演目は、「ディオニソス組曲」「シンコペ」「ボレロ」の3つ。
『ディオニソス組曲』
ベジャールの代表的な作品の一つ『ディオニソス』からの抜粋版とのこと。
例によって「ディオニソスとは何ぞや?」くらいは知っておかねばと、昨夜になり予習を始めた私。
ギリシャ神話はこれまで幾度も挑戦し、そのたびにカタカナの名前の前に挫折した、私にとっては結構高いハードルでございます。
が、ディオニソスが「酒と演劇と狂気の神」という思いきりツボな神様であったために今回は案外すんなり入ることができ、それどころかギリシャ神話が楽しくて仕方がなくなってしまい、ゼウス、アポロン、ヘルメス・・・と今回の演目には全く関係のない方向に興味が行きながらも、テンションだけはすっかり上がって迎えた当日。
よかったです!!
今回はボレロ目的で買ったチケットでしたが、思わぬ良い作品に出会えて感激。
なによりディオニソス役のオスカー・シャコンが素晴らしかった。
最初のタベルナ(居酒屋)の場面では神というより普通の若者という感じで水夫や女達に混じって楽しそうに踊り、白いドレスのマヌーラ・ムウ(リザ・カノ)との場面では子供のように眠りに落ちる姿がなんとも愛おしく儚げで(このときの少し寂しそうな表情がまた・・・)、ラストのバッカス賛歌の場面では鮮やかなオーラを放つ神になる。
特にラストの真っ赤なヴェルサーチの衣装を身に纏った男性群舞の踊りを、最初は離れたところから一人面白そうに眺めていて(足を崩して座る後ろ姿も様になってます)、そして機が熟した頃にサッと軽やかにその輪の中に躍り出て、彼らの中心となってしなやかに踊るそのカッコよさ!
イタズラっ子のような表情も、いかにもディオニソス。
ただ時々その外見と振付が相まってM.ジャクソンに見えて困りましたが・・・^^;(←私だけですかね)
しかし本当に鮮やかで綺麗な踊りだったー。薄い目の色も綺麗。
あと、若者役の大貫真幹さんと、水夫役の那須野圭右さん、この二人の日本人ダンサーも素晴らしかったです。
男性群舞のときの大貫さん、高速再生してるようなスピードで踊っても、まったくぶれてない。キレも迫力もあって、とてもすっきりと洗練された踊りをするダンサーですね。なのに味もあって。いいもの見させてもらいました~。
ギリシャ神話一夜知識のおかげでゼウス(ハリソン・ウィン)&セメレー(ポリーヌ・ヴォアザール)の踊りの振付の意味も理解できたし。ゼウスの衣装は微妙だったけど…(あの斜めの襷みたいのって必要…?)。
那須野さんが中盤でディオニソス&ギリシャ人と三人で踊るときの白い衣装も、なんだかオリンピックの体操選手みたいに見えてしまった。あれは水夫が上着を脱いでる姿ということなのかしら。。
そういえばヴェルサーチも同性愛者でしたね。あの赤の衣装はよかったなー。汗で光った裸の上半身の筋肉が赤に映えて実に美しく、オスカーなんてギリシャ彫刻を見てるみたいだった。
最後に横尾忠則さんの絵ですが・・・、絵そのものの良し悪しはともかく、このバレエ作品にとってはあまり良い効果を生み出していないように私には感じられました。バレエって言いたいことは可能な限り「踊り」で表現すべきだと思うのですが、この絵は絵自体が具体的な主張をしすぎていて、踊りと合わさるとちょっとクドイというか、過多に感じたというのが正直なところ。まぁベジャールさんはそうは感じなかったのでしょうけれど。
『シンコペ』
こちらはベジャールではなく、ジル・ロマン氏による振付の作品。
「シンコペーション」とは医学用語で「心臓停止」を意味し、人間が意識喪失に陥ったとき脳では何が起こっているのか?に思いを至らせた作品とのことですが、日本人の私にはその世界は飛び過ぎていて。。。面白味はあるのだけれど、どうにも無機質に感じられ。。。
ディオニソス組曲とボレロはどちらか単体でもチケットを買いたいと思う作品だけど、これは・・・。
でもネットでは「よかった」と言っている方も多いので、単に私の好みと合わないだけかと。
二つの濃い演目の間のほどよい息抜きにはなりました(超失礼ですね、すみません^^;)。
『ボレロ』
今回の来日公演はエリザベット・ロスとジュリアン・ファヴローが交互にメロディを踊るのですが、本日はジュリアンの日。
ジュリアンはすでに2日の日にボレロを踊っておりまして、それを観た方々のネットの感想が「地味」「固い」「大人しい」とネガティブな言葉ばかりが並んでいたので、覚悟して行った私でしたが――。
とても、心に響くボレロでした。
おそらくジュリアンのボレロは多くの人達が「ボレロ」に期待しているものを、くれないのだと思います。
「リズム」を惹きつけ奮い立たせる求心力、カリスマ性、官能性。円卓の上で孤高の存在としてリズムを支配するメロディ。
殆どの観客がメロディに対して期待しているのは、おそらくそういうものだと思います。
ですがジュリアンのメロディは、まったく違います。
そもそも、顔が思っていたよりも老けていて、「あら、ただの地味なおっさん?」と最初は思っておりました、私(しかし、そんな彼より私の方が更に一歳おばはんであることをここに白状いたします…)。
赤い円卓の上で静かに踊り始めるメロディ。このときのジュリアンは、まるでリズムが一人だけ円卓に上がってしまったような目立たなさ、心もとなさです。そんなメロディにまったく関心を示さないリズム達。それでもただ一人、踊り続けるメロディ。やがてリズムが一人、二人と共鳴し始めます。メロディの踊りには、どこかリズムを反応させるものがあるからです。しかしそれは「ふん、なんか面白そうな奴がいるじゃん」と超上から目線でメロディを値踏みしつつ、一人で踊ってるメロディがなんか気になるっていう感じ(ツンデレ笑)。けれどメロディも男、リズムも男なので、それだけではありません。僅かでもメロディに隙あらばいつでも食らい付こうと彼らは目を光らせています。メロディは踊り続けます。また一人、二人と立ち上がるリズム。次第にメロディとリズムの間に不思議な共感のような友情のようなものが現れ始め、互いに共鳴し合いつつ上がっていくテンション。どこか必死に、大切な何かを求めるように踊り続けるメロディ。それは確実に死へと向かっていますが、彼は踊るのをやめません。そして最高潮に達し、ついにはリズム達に「ちっ、ったくしゃーねぇなぁ。わぁったよ。俺たちも一緒に死んでやるよ!」って思わせてしまうメロディ。
ってな感じです笑。
そんな風に彼らを突き動かす何かが、ジュリアンのメロディにはありました。リズムが放っておけないメロディというか。
まさかこういうボレロを観ることになるとは予想外。最高。
前半が静かで大人しいだけに、ラスト5分のジュリアンの踊りはキました。
なんて表情して踊るのよー、ジュリアン…泣
観ていて切なくて泣きそうになった。
赤と黒の舞台の上で、白い肌と金髪と青い目が透き通っていて、本当に綺麗で。
あんな表情、あんな踊り、反則。
帰りの電車の中でも、家に帰った今も、あの踊りと表情が頭から離れなくて困る。
またカーテンコールがカッコよくて!
ジュリアンが、本当に本当に嬉しそうで。
一番最後にジュリアン&リズムが手を繋ぎ「おー!」って雄叫びを上げて挨拶したカーテンコール、迫力あって素敵だった~。
今までyoutubeでしか観たことがなかったので気づきませんでしたが、「ボレロ」ってメロディと同じくらいにリズムの踊りもカッコいいんですね!那須野さん、すごく良かったです!
☆アフタートーク(ジル・ロマン&ジュリアン・ファヴロー)☆
本日は、公演後にジル&ジュリアンによるアフタートークがありました。
ジュリアンはお着換え中なため、先にジルだけ登場。
私はBBLは今日が初めてなので詳しくないのですが、ジルっていつもああいうニヒルな雰囲気なんでしょうか?
司会の佐藤友紀さんが「ジルさんは嫌がられているところを無理にお連れしました~。っていうのは冗談ですが(笑)」みたいなことを最初に仰っていましたけど、冗談に見えないんですけど・・・^^;
で、ジルがディオニソス組曲について話しているうちに、ジュリアンがお着替え終了。
舞台から袖に向かって「ジュリアーン!」と呼ぶジル、カッコよかったです(*^_^*)
そしてラフな格好に着替えたジュリアン登場~。
ジュリアン、性格よさそう~。
ジルが話してる間何度も客席の方を興味津々に眺めて、お客さんと目が合うとニコッって笑顔。
「あなたにとって“ボレロ”とは?」という質問には、ベジャールの振付に忠実に踊るように心がけてること、毎回メロディの踊りは違うけれど今日はリズムとの関係性を大事にしたこと、ベジャールは「メロディは幕が開いた瞬間から死に向かっている」と話していて、メロディは最初から自分の死がわかっていること、そんな彼が獲物を狙うようなリズム達と戯れ、共に死に向かってゆく関係性を意識した、などなど興味深い話も聞けました(パンフに載ってるインタビューと殆ど同じ内容でしたけど、笑)。
また、ジュリアンのメロディは最後の方で「は!」と声を上げるのですが、それは何かという質問には、「今際の叫びのようなもので、意識せずに出ていた声」と答えていました。
ジュリアンが息もつかずに話して酸欠気味になってるところに「深呼吸して」と笑うジルは、優しいお兄さんって感じでした。いいなぁ、この二人の雰囲気。
最後に舞台を去るときは、ジルは司会&通訳の女性を先に行かせるレディーファースト。もしかしてジルってシャイなだけとか?でも、やっぱりちょっと表情がコワイよ・・・^^;
一方ジュリアンは、拍手で見送る観客に向かって両手を前で合わせて笑顔でペコッってお辞儀。
かっ…可愛い…っ。
周囲の人たちも「可愛いお辞儀!」って^^
ジュリアン、ペットボトルの水を飲むときも両手で飲んでて、可愛かった。
最後は袖に入る直前まで手を振ってくれて、すっかり今日一日でジュリアンのファンになってしまいました。
明日(5日)は、エリザベット・ロスのボレロを観に行ってきます!
思わずチケットを追加購入しちゃったのですよ。。4階席だけど。
楽しみです♪
ディオニソスももう一度観られて嬉しいな。
また感想あげますね~。
★Aプロ(3月5日)の感想はこちら
★Bプロ(3月10日)の感想はこちら
※『ディオンソス組曲』について那須野さんのインタビュー
※『ボレロ』についてジュリアンのインタビュー
ベジャール・バレエ団 ポスト・トーク(G.ロマン/J.ファヴロー)