判決内容に疑問を感じたので、取り上げる。判決全文は見つけられなかったので、記事からだけしか判らない。
日赤に賠償命令 男児感染死で説明怠る 姫路
(以下に一部引用)
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
この記事から判ることで、重大なことが2つありますので、それを順に見ていきます。
1)研究会加入の問題とその告知義務
①「小児白血病研究会」なる団体があって、それに加入していなかった
②その団体が作成していた治療実施計画書を用いて治療を行っていた
③未加入ゆえ、病院は団体に「意見を求められない」
④当該団体未加入であることを告知する義務があった
⑤研究会参加の病院でならば「高度な治療を受けられた」
①について:
今回初めて知りましたが、「小児白血病研究会」なる団体があるのですね。裁判所が認定するのであるから、「医学的には権威ある団体」ということなのでしょうか。つまり、当該団体に未加入であれば「小児の白血病治療を行う」べきでない、ということになります。しかし、これは日本全国でそうしたことを信じている医師は殆どいないのではないかと思えます。本格的に「権威を認められた」団体であれば、「学会」として多くの医師たちに認められるからです(日本医学会?加盟の、だったか)。中には「?」な学会も勿論存在しているようですが、「研究会」というレベルであると「勉強会」といった意味合いが強くなりますので、どうなんでしょうか。出発点として、裁判官の思い込みがあるのではないかと思えます。つまり、団体加入の医師は「能力がはるかに高い」が、未加入の医師は「能力が低い」ということです。それは、裁判官に立証責任があるでしょう。「小児白血病研究会」未加入の医師は必然的に「能力が低い」と信じている医師が、一体どこにいるんでしょう?
②について:
研究会が作成していた「治療計画書」というのは実態がよく判りませんけれども、恐らく治療マニュアル的なものなのではなかろうか、と思います。一応、それを想定して述べていきます。
これに類似した「治療指針」「ガイドライン」「診断基準」「治療マニュアル」等はたくさんあります。例えば、有名なところでは、「厚生労働(旧厚生)省~~研究班」などが作成した「治療指針」とか「難病診断基準」なんかは多数あるでしょう。高血圧症の診断と治療などは「日本高血圧学会」が作っていた治療指針みたいなのが標準的です。救急蘇生関連なんかだと、AHA(American Heart Association)の定めるCRP、日本のBLSとかACLSなど、いくつかありますね。こういうのは、使いやすいとかあると便利というものであって、「絶対基準」なんかではないし、その場その場で外れてることだってあるでしょう。もしもマニュアル通りに全て上手くいくのであれば、殆どの医者なんていらないわけです(笑)。マニュアル通りにできる「誰か」が存在してさえいればいいんですから。
基本的な考え方として、これら指針やガイドラインというのは、所謂「集合知」を活かせるということなんですよね。一人の医者だけで考えると、「経験数が不足しがち」「考えが偏りがち」「自分というバイアス」なんかの可能性は高くなるでしょう。そういうのを回避し、エラーの確率を低くしていく為に複数の専門家たちが膨大な論文などを検証したり、議論して作られていることが多いでしょう。それが一般的な医療現場の中で「標準化」されたモデルとして取り入れられる、ということですよね。でも、医療機関ごとに「若干の付け加え」とか変更とか、そういう独自の工夫がなされるかもしれませんけど。でも、「絶対的な正解」なんかではありませんよ。あくまで「参考解答」でしかありません。そんなに人間というのは単純じゃないんですよ。
③について:
未加入ゆえ病院は意見を「団体に求められない」というのは、殆どの場合そうですよね。上に例示した「高血圧症」の指針に基づいて治療していく時、仮に個別の患者で困ったことがあった時に「日本高血圧学会で答えを教えてくれ」みたいなことはありませんよ。治療指針を作った厚生労働省の研究班でも、個別の症例について「こうしなさい」とか「これが正解です」などと答えてはくれませんよ。少なくとも、「小児白血病研究会」より厚生労働省の研究班の方が、治療指針や診断基準に関しての権威はかなり上だと思いますけど。AHAの基準で治療していく時、AHAに未加入だったら「答えを聞けなくて」、加入している医師ならば「個別の症例について正解を教えてもらえる」なんてこともありませんね。団体に参加していさえいれば「答えを知る事ができる」というのは、裁判官の空想か錯覚です。裁判官は、どうやら「研究会」が治療してくれる、と思っているフシがありますね。ならば、日本を5ブロックくらいに分けて、それぞれ研究会を一つ作り、研究会の人たちだけが治療をやればいいのではないでしょうか(笑)。それならば、裁判官のご希望に沿うことが可能になるかと思います。
④について:
本判決のクライマックスでもありますが、当該団体未加入の告知義務という新たな義務を追加してきました。これまでの法学分野で「医科系の学会に加入しているか否かについての告知義務」というのがある、というのは既出なのでしょうか?あれですか、「当店は日本チェーンストア協会加盟です」とか「東京商工会議所加盟です」といった告知義務を課しているのでしょうか?日本調理師協会加盟でなければ、「協会加盟の、もっと美味い店で食べる権利を有していたのに、店側が告知義務を果たさなかったので義務違反につき損害賠償せよ」となってしまう、と?(例示したこれら団体はあくまで架空です。仮に実在しても何ら関係ありません)
患者またはその家族には、医師や医療機関に関しての「全てを知る権利」は存在していないと思います。最低限告知すべき義務とは、「医療法に規定されている内容」だろうと思います(診療科名とか医師名とか時間とか、・・・そういうようなヤツだったはず)。正式な「学会」だけでも日本医学会加盟団体は100以上あったはずです。それらについて、患者側が必ず正確に判断できるということを想定してはいない為、逆に「~~学会」といった怪しげな権威付けによって患者側が騙されてしまうという不利益の方が問題になるでしょう。恐らく医療法上での想定というのは、「過剰な広告」を禁止する旨だったと思いますけれども、こうした欺瞞に引っ掛かりやすいという患者側の特性があって、患者側利益を保護する意味合いの方が優先されている為だろうと思われます。「振り込め詐欺」で「法務省~~」とか「財務局~~」みたいな「権威付け」名称に、アッサリと引っ掛かってしまっている人々が多く存在していることが明らかです。「あるある~」の納豆騒動でも同じです。何かの権威付けによって、「簡単に騙されてしまう」ということなんですよ。危険性の方が問題だろうと思えます。
こうした研究会だのといった団体加盟の有無について告知義務が法的にあるとは思えません。個別に聞かれた場合には、「答える」というのが常識的であると思います。
参考までに、「健康エコナ」だかの「食用油」のテレビCMがありますよね?あれの「日本人間ドック学会」推薦(?だったと思うがうろ覚えだ)という「権威付け」が行われていますが、「日本人間ドック学会」は「日本医学会」の加盟団体ではありません。「小児白血病研究会」もそうです。裁判官は健康診断を受ける際などに、医療機関が「日本人間ドック学会」に未加入なのかどうかを聞いて回っているのでしょうか?そうした場合に、「日本人間ドック学会未加入の病院を受診し、告知義務を果たされなかった結果、高度な健康診断を受けられなかった」と主張するんですね?仮に、明日にでも「日本高齢者高度先進医療研究会」みたいなのがボコボコと誕生し、告知義務を果たして「ウチは研究会加入の素晴らしい医療機関です」みたいにやってくれ、と、こういう主張をするんですね?
⑤について:
「小児白血病研究会」というのがどういった団体なのかは、私には全く判りません。熱心な先生方が頑張って治療ガイドラインみたいなものを一生懸命作成していて、それは携わっている医師たちにとって「とても有り難い」ものなのかもしれません。小児の白血病自体、絶対数がそんなに多いとも思えませんし(症例数=経験数が少ないと知見も乏しくなりがちなんだろうな、とは思うので)。そうであるとしても、研究会に未加入な医師や医療機関が「未熟」であり、加入していると「高度」である、ということを「一般原則」と認めるには相当の根拠を必要とするでしょう。裁判官はこの立証を行う義務がありますよ。これは同じく、「~学会」加入と未加入においても、同義ですよね?つまりは、全ての団体について「同じ傾向がある」ということを立証せねばならないでしょう。例えば、「日本人間ドック学会」加入だと、未加入の医師や医療機関よりも「高度」なんですね?著名な医療機関はみな「小児白血病研究会」に参加しているハズなんですよね?本当なのでしょうか。
2)肺炎予防の薬を内服しやすい環境を作る義務
肺炎の原因や治療経過などについてはよく判りませんけれども、「内服しやすい環境を作る義務」というのはどうなんでしょうか。血液疾患だけに、肺炎の合併は避けがたいものであったかもしれず、「結果的に」肺炎になってしまったら義務違反、というのがあらゆる場面で認定されてしまいます。
例えば、変性疾患などの場合、死亡原因のかなりの割合に「肺炎」というのがあると思いますが、こうした時でも主たる疾患Xがあって、そのありがちな合併症として「肺炎」になってしまうと、「予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったから」肺炎になってしまったのだ、ということになってしまいます。普通に薬の副作用なんかで「間質性肺炎」などもあるわけですが、こうした時でも「肺炎が合併することは十分予期できたのに、肺炎を予防する薬を内服しやすい環境を作っていなかったから義務違反だ」となってしまいます。つまり、肺炎の発症は、「薬を内服しやすい環境になっていなかったから」というのがその重要な要因と認定している、と思われるのです。これは誤解ではないかと思われます。「内服しやすい環境」になっていてもいなくても、無関係に「肺炎」は生じてしまいます。そして、時には致死的となってしまうのです。肺炎は死亡原因の中で、稀な疾患なんかではないいのです。むしろ上位と言えるでしょう(高齢になればなるほど死亡数は増える)。免疫異常などが元々疾患としてあるのであれば、そのリスクは高まります。エイズだって、エイズそのもので死ぬわけではありません。多くは肺炎などの別な「感染症」で死亡するのです。そうした時、「予防する薬を内服”しやすい”環境」を作っていなかったからだ、と裁判官は仰るわけです。これは極めて深刻な事態を招きます。念のため、「肺炎予防の薬を内服しやすい環境」とはどのような環境であるのか、必要な要件を法的解釈に基づいて規定してみて下さい。>法曹の方々なら、誰でも可能なのですよね?
これと同じような理屈を、広い範囲で用いることができてしまいます。
「糖尿病が悪化したのは、糖尿病の悪化を予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったからだ。義務違反につき、損害賠償せよ」というのも可能ですね。これは医療側の問題というより、「患者側努力」に関わる面であっても、責任を負わされる、ということでもあります。「糖尿病の薬をちゃんと飲んでいないと、悪くなったら大変だからね」とか言っても、患者が怠けて飲んだり飲まなかったりしていて、そのうち「病状悪化で腎不全」になっちゃったりすれば、「飲まなければ人口透析になるなんて聞いてなかった」とか主張するってことなんですよ。で、「内服しやすい環境になってなかった」という理屈が適用されてしまうのです。本気で患者を医師にするくらいの教育を施さないと、「義務違反」地獄からは逃れられないとしか思えません。
こんなに次々と義務を課されるということであれば、パソコンのトリセツみたいな分厚いやつに、こと細かに書いて全部読んでもらうとかしないと無理だ。それか、前に書いたけど、双方治療前に代理人を立てて契約を締結した方がいいよ。
日赤に賠償命令 男児感染死で説明怠る 姫路
(以下に一部引用)
悪性リンパ腫と診断され姫路赤十字病院(姫路市)に入院、肺炎に感染し死亡した同市内の男児=当時(9つ)=の両親が、病院に過失があったとして、日本赤十字社(東京都)などに約九千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十六日、神戸地裁であった。下野恭裕裁判長は「医師らは治療について、両親に説明する義務を怠った」として、赤十字社に一千万円の支払いを命じた。判決によると、男児は一九九九年十一月、悪性リンパ腫の治療で入院。抗がん剤を使う化学療法で症状が改善したとして、入退院を繰り返しながら治療を続けたが、〇〇年十月、入院中に肺炎に感染し死亡した。
同病院は当時、悪性リンパ腫の治療実施計画書を作成した小児白血病研究会に参加してなかったが、下野裁判長は判決理由で「被告は研究会に参加してないことを患者側に告げる義務があった。研究会に参加してない病院では何か問題が起きても、研究会に判断を求めることができない。患者側はほかの研究会参加の病院で、高度な治療を受けることもできた」などとした。さらに裁判長は、肺炎予防の薬の服用についても「男児が薬を内服しやすい環境をつくる義務を怠った」として病院側の過失を認定した。
この記事から判ることで、重大なことが2つありますので、それを順に見ていきます。
1)研究会加入の問題とその告知義務
①「小児白血病研究会」なる団体があって、それに加入していなかった
②その団体が作成していた治療実施計画書を用いて治療を行っていた
③未加入ゆえ、病院は団体に「意見を求められない」
④当該団体未加入であることを告知する義務があった
⑤研究会参加の病院でならば「高度な治療を受けられた」
①について:
今回初めて知りましたが、「小児白血病研究会」なる団体があるのですね。裁判所が認定するのであるから、「医学的には権威ある団体」ということなのでしょうか。つまり、当該団体に未加入であれば「小児の白血病治療を行う」べきでない、ということになります。しかし、これは日本全国でそうしたことを信じている医師は殆どいないのではないかと思えます。本格的に「権威を認められた」団体であれば、「学会」として多くの医師たちに認められるからです(日本医学会?加盟の、だったか)。中には「?」な学会も勿論存在しているようですが、「研究会」というレベルであると「勉強会」といった意味合いが強くなりますので、どうなんでしょうか。出発点として、裁判官の思い込みがあるのではないかと思えます。つまり、団体加入の医師は「能力がはるかに高い」が、未加入の医師は「能力が低い」ということです。それは、裁判官に立証責任があるでしょう。「小児白血病研究会」未加入の医師は必然的に「能力が低い」と信じている医師が、一体どこにいるんでしょう?
②について:
研究会が作成していた「治療計画書」というのは実態がよく判りませんけれども、恐らく治療マニュアル的なものなのではなかろうか、と思います。一応、それを想定して述べていきます。
これに類似した「治療指針」「ガイドライン」「診断基準」「治療マニュアル」等はたくさんあります。例えば、有名なところでは、「厚生労働(旧厚生)省~~研究班」などが作成した「治療指針」とか「難病診断基準」なんかは多数あるでしょう。高血圧症の診断と治療などは「日本高血圧学会」が作っていた治療指針みたいなのが標準的です。救急蘇生関連なんかだと、AHA(American Heart Association)の定めるCRP、日本のBLSとかACLSなど、いくつかありますね。こういうのは、使いやすいとかあると便利というものであって、「絶対基準」なんかではないし、その場その場で外れてることだってあるでしょう。もしもマニュアル通りに全て上手くいくのであれば、殆どの医者なんていらないわけです(笑)。マニュアル通りにできる「誰か」が存在してさえいればいいんですから。
基本的な考え方として、これら指針やガイドラインというのは、所謂「集合知」を活かせるということなんですよね。一人の医者だけで考えると、「経験数が不足しがち」「考えが偏りがち」「自分というバイアス」なんかの可能性は高くなるでしょう。そういうのを回避し、エラーの確率を低くしていく為に複数の専門家たちが膨大な論文などを検証したり、議論して作られていることが多いでしょう。それが一般的な医療現場の中で「標準化」されたモデルとして取り入れられる、ということですよね。でも、医療機関ごとに「若干の付け加え」とか変更とか、そういう独自の工夫がなされるかもしれませんけど。でも、「絶対的な正解」なんかではありませんよ。あくまで「参考解答」でしかありません。そんなに人間というのは単純じゃないんですよ。
③について:
未加入ゆえ病院は意見を「団体に求められない」というのは、殆どの場合そうですよね。上に例示した「高血圧症」の指針に基づいて治療していく時、仮に個別の患者で困ったことがあった時に「日本高血圧学会で答えを教えてくれ」みたいなことはありませんよ。治療指針を作った厚生労働省の研究班でも、個別の症例について「こうしなさい」とか「これが正解です」などと答えてはくれませんよ。少なくとも、「小児白血病研究会」より厚生労働省の研究班の方が、治療指針や診断基準に関しての権威はかなり上だと思いますけど。AHAの基準で治療していく時、AHAに未加入だったら「答えを聞けなくて」、加入している医師ならば「個別の症例について正解を教えてもらえる」なんてこともありませんね。団体に参加していさえいれば「答えを知る事ができる」というのは、裁判官の空想か錯覚です。裁判官は、どうやら「研究会」が治療してくれる、と思っているフシがありますね。ならば、日本を5ブロックくらいに分けて、それぞれ研究会を一つ作り、研究会の人たちだけが治療をやればいいのではないでしょうか(笑)。それならば、裁判官のご希望に沿うことが可能になるかと思います。
④について:
本判決のクライマックスでもありますが、当該団体未加入の告知義務という新たな義務を追加してきました。これまでの法学分野で「医科系の学会に加入しているか否かについての告知義務」というのがある、というのは既出なのでしょうか?あれですか、「当店は日本チェーンストア協会加盟です」とか「東京商工会議所加盟です」といった告知義務を課しているのでしょうか?日本調理師協会加盟でなければ、「協会加盟の、もっと美味い店で食べる権利を有していたのに、店側が告知義務を果たさなかったので義務違反につき損害賠償せよ」となってしまう、と?(例示したこれら団体はあくまで架空です。仮に実在しても何ら関係ありません)
患者またはその家族には、医師や医療機関に関しての「全てを知る権利」は存在していないと思います。最低限告知すべき義務とは、「医療法に規定されている内容」だろうと思います(診療科名とか医師名とか時間とか、・・・そういうようなヤツだったはず)。正式な「学会」だけでも日本医学会加盟団体は100以上あったはずです。それらについて、患者側が必ず正確に判断できるということを想定してはいない為、逆に「~~学会」といった怪しげな権威付けによって患者側が騙されてしまうという不利益の方が問題になるでしょう。恐らく医療法上での想定というのは、「過剰な広告」を禁止する旨だったと思いますけれども、こうした欺瞞に引っ掛かりやすいという患者側の特性があって、患者側利益を保護する意味合いの方が優先されている為だろうと思われます。「振り込め詐欺」で「法務省~~」とか「財務局~~」みたいな「権威付け」名称に、アッサリと引っ掛かってしまっている人々が多く存在していることが明らかです。「あるある~」の納豆騒動でも同じです。何かの権威付けによって、「簡単に騙されてしまう」ということなんですよ。危険性の方が問題だろうと思えます。
こうした研究会だのといった団体加盟の有無について告知義務が法的にあるとは思えません。個別に聞かれた場合には、「答える」というのが常識的であると思います。
参考までに、「健康エコナ」だかの「食用油」のテレビCMがありますよね?あれの「日本人間ドック学会」推薦(?だったと思うがうろ覚えだ)という「権威付け」が行われていますが、「日本人間ドック学会」は「日本医学会」の加盟団体ではありません。「小児白血病研究会」もそうです。裁判官は健康診断を受ける際などに、医療機関が「日本人間ドック学会」に未加入なのかどうかを聞いて回っているのでしょうか?そうした場合に、「日本人間ドック学会未加入の病院を受診し、告知義務を果たされなかった結果、高度な健康診断を受けられなかった」と主張するんですね?仮に、明日にでも「日本高齢者高度先進医療研究会」みたいなのがボコボコと誕生し、告知義務を果たして「ウチは研究会加入の素晴らしい医療機関です」みたいにやってくれ、と、こういう主張をするんですね?
⑤について:
「小児白血病研究会」というのがどういった団体なのかは、私には全く判りません。熱心な先生方が頑張って治療ガイドラインみたいなものを一生懸命作成していて、それは携わっている医師たちにとって「とても有り難い」ものなのかもしれません。小児の白血病自体、絶対数がそんなに多いとも思えませんし(症例数=経験数が少ないと知見も乏しくなりがちなんだろうな、とは思うので)。そうであるとしても、研究会に未加入な医師や医療機関が「未熟」であり、加入していると「高度」である、ということを「一般原則」と認めるには相当の根拠を必要とするでしょう。裁判官はこの立証を行う義務がありますよ。これは同じく、「~学会」加入と未加入においても、同義ですよね?つまりは、全ての団体について「同じ傾向がある」ということを立証せねばならないでしょう。例えば、「日本人間ドック学会」加入だと、未加入の医師や医療機関よりも「高度」なんですね?著名な医療機関はみな「小児白血病研究会」に参加しているハズなんですよね?本当なのでしょうか。
2)肺炎予防の薬を内服しやすい環境を作る義務
肺炎の原因や治療経過などについてはよく判りませんけれども、「内服しやすい環境を作る義務」というのはどうなんでしょうか。血液疾患だけに、肺炎の合併は避けがたいものであったかもしれず、「結果的に」肺炎になってしまったら義務違反、というのがあらゆる場面で認定されてしまいます。
例えば、変性疾患などの場合、死亡原因のかなりの割合に「肺炎」というのがあると思いますが、こうした時でも主たる疾患Xがあって、そのありがちな合併症として「肺炎」になってしまうと、「予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったから」肺炎になってしまったのだ、ということになってしまいます。普通に薬の副作用なんかで「間質性肺炎」などもあるわけですが、こうした時でも「肺炎が合併することは十分予期できたのに、肺炎を予防する薬を内服しやすい環境を作っていなかったから義務違反だ」となってしまいます。つまり、肺炎の発症は、「薬を内服しやすい環境になっていなかったから」というのがその重要な要因と認定している、と思われるのです。これは誤解ではないかと思われます。「内服しやすい環境」になっていてもいなくても、無関係に「肺炎」は生じてしまいます。そして、時には致死的となってしまうのです。肺炎は死亡原因の中で、稀な疾患なんかではないいのです。むしろ上位と言えるでしょう(高齢になればなるほど死亡数は増える)。免疫異常などが元々疾患としてあるのであれば、そのリスクは高まります。エイズだって、エイズそのもので死ぬわけではありません。多くは肺炎などの別な「感染症」で死亡するのです。そうした時、「予防する薬を内服”しやすい”環境」を作っていなかったからだ、と裁判官は仰るわけです。これは極めて深刻な事態を招きます。念のため、「肺炎予防の薬を内服しやすい環境」とはどのような環境であるのか、必要な要件を法的解釈に基づいて規定してみて下さい。>法曹の方々なら、誰でも可能なのですよね?
これと同じような理屈を、広い範囲で用いることができてしまいます。
「糖尿病が悪化したのは、糖尿病の悪化を予防する薬を内服しやすい環境になっていなかったからだ。義務違反につき、損害賠償せよ」というのも可能ですね。これは医療側の問題というより、「患者側努力」に関わる面であっても、責任を負わされる、ということでもあります。「糖尿病の薬をちゃんと飲んでいないと、悪くなったら大変だからね」とか言っても、患者が怠けて飲んだり飲まなかったりしていて、そのうち「病状悪化で腎不全」になっちゃったりすれば、「飲まなければ人口透析になるなんて聞いてなかった」とか主張するってことなんですよ。で、「内服しやすい環境になってなかった」という理屈が適用されてしまうのです。本気で患者を医師にするくらいの教育を施さないと、「義務違反」地獄からは逃れられないとしか思えません。
こんなに次々と義務を課されるということであれば、パソコンのトリセツみたいな分厚いやつに、こと細かに書いて全部読んでもらうとかしないと無理だ。それか、前に書いたけど、双方治療前に代理人を立てて契約を締結した方がいいよ。