前項の月経関連に対する漢方治療に引き続き、
更年期障害についても考えてみます。
私は小児科医なので、
患者さんから相談を受けることはまずないのですが、
月経異常とどのように使い方が違うのか、
興味があります。
今回も、
①大野修司Dr.
②谷川聖明Dr.
のショート・レクチャーを比較しながら読み解いてみたいと思います。
▢ 更年期障害の諸症状と漢方医学的捉え方
①②の先生ともに、大きく3つに分類しています。
・血管の拡張と放熱に関係する症状 → “血”の異常
(例)のぼせ、ほてり、ホットフラッシュなど
・精神症状 → “気”の異常
(例)気分の落ち込み、不眠、イライラ、情緒不安定など
・その他の様々な身体症状 → “水”の異常
(例)めまい、動悸、頭痛、冷え、間接の疼痛、肩こりなど
・・・更年期障害は漢方の気血水理論のすべてが関わってくる病態という捉え方であり、逆に言うと漢方薬が活躍できる分野とも言えます。
▢ 更年期障害の治療(①)
・生活習慣の改善
・心理療法
・ホルモン補充療法
・漢方薬
・向精神薬
・・・西洋医学では薬物療法はホルモン補充療法と向精神薬という、副作用も考慮しなければならない薬剤群です。その前に、ハードルの低い漢方薬を試す選択はアリ、と思います。
▢ 更年期障害に用いる漢方薬
(①)
当帰芍薬散(23)
加味逍遥散(24)
桂枝茯苓丸(25)
(②)
当帰芍薬散(23)
加味逍遥散(24)
桂枝茯苓丸(25)
温経湯(106)
・・・使用する方剤は共通しており、“婦人科三大漢方薬”と呼ばれるツムラ㉓㉔㉕が中心です。谷川聖明Dr.は温経湯を加えたラインナップ。
大野修司Dr.は、これらの方剤を“気血水”理論で解説していました。
一方、谷川聖明Dr.は気血水理論の他に、
“陰陽虚実”による使い分けを解説していました。
まずは、大野修司Dr.が提示した一覧表;
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
この表、どの生薬がどの作用を担当するか、わかりやすいですね。
“血”の使用目標としては、
当帰芍薬散(23):血虚のみで瘀血はない
加味逍遥散(24):血虚≒瘀血
桂枝茯苓丸(25):血虚<瘀血
となります。
“水”の使用目標としては、3方剤のすべてに利水薬が入っているものの、
その数が異なるため、利水作用は、
当帰芍薬散(23)>加味逍遥散(24)>桂枝茯苓丸(25)
となります。
“気”の使用目標としては、
当帰芍薬散(23):(生薬含まず)
加味逍遥散(24):気滞・気虚
桂枝茯苓丸(25):気滞
となります。
気血水をまとめると、
当帰芍薬散(23):血虚・水毒
加味逍遥散(24):血虚≒瘀血・気虚・気滞・水毒
桂枝茯苓丸(25):瘀血>血虚・気滞・水毒
となります。
つまり、その患者さんが、
血虚と瘀血の要素がどれくらいの割合であるのか?
水毒がどの程度か?
気滞・気虚がどの程度か?
を考えることにより、自ずと処方が決まってくるというカラクリです。
次に、谷川聖明Dr.が示したわかりやすい座標;
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
上記座標から、以下のような位置づけに書き換えられます;
(陽実) 桂枝茯苓丸(25)
⇩
(中庸)
⇩
(陽虚) 加味逍遥散(24)
⇩
(陰虚) 当帰芍薬散(23)
(さらに虚している)温経湯(106)
使い分けの表は基本的に大野修司Dr.と同じですが、
温経湯が加わっています。
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
温経湯(106)は加味逍遥散(24)同様、気滞・気虚の生薬が含まれているのですね。
さらに使い分けのポイントとして、以下の表を提示しています。
「陰陽虚実」「腹力」「特徴」「桂皮」「気血水」が並んでおり、
この表が頭に入っていれば、使い分けに迷うことはなさそうです。
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
そして谷川聖明Dr.の真骨頂は、レダーチャート。
各方剤について解説されています。
▢ 当帰芍薬散(23)
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
あれ?
当帰芍薬散(23)には気虚・気滞の生薬は入っていないはずなのに、
「気の異常も伴う」と突然出てきました・・・納得できない。
▢ 温経湯(106)
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
・・・水毒を扱う生薬は麦門冬しか入っていませんが、
これは「津液不足」を補う滋潤剤です。
水毒は“水がたまっている”状態をイメージしていましたが、
谷川聖明Dr.は「水のアンバランス」という意味で用いているようです。
▢ 加味逍遥散(24)
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
・・・加味逍遥散(24)は構成生薬とレダーチャートが一致していますね。
▢ 桂枝茯苓丸(25)
(ツムラ:MEDICAL SITE より)
・・・気の異常を担当する生薬は「気の上衡」を治する桂枝だけなのに、気逆・気滞・気虚のすべての作用があるのは言い過ぎでは? と思いました。
以上、大野修司Dr.と谷川聖明Dr.の更年期障害に用いる漢方薬を比較検討してみました。
理解が深まる一方で、「?」も生まれてしまいました。