漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

生理痛(月経困難症)の漢方治療(大野修司Dr.、谷川聖明Dr.)

2023年04月26日 07時28分43秒 | 漢方
月経関連の諸症状(月経痛・生理痛、月経前症候群、月経不順・生理不順など)は漢方薬の得意分野です。
日常生活に支障が出るほどの症状であれば、
まず西洋医学的に治療すべき病気が隠れていないかチェックが必要ですが、
それが否定された場合や、グレーゾーン(病気以前悩み以上)には漢方薬が力を発揮します。

漢方的には月経・生理は気血水理論の“血”のバランスで考えます。
血の流れが滞る“瘀血”(おけつ)、
血が不足する“血虚”(けっきょ)、
の二つに分類されます。

例えば、生理前の体調不良であるPMS(月経前症候群)は、
血液がたまった状態ですから“瘀血”、
生理中の体調不良である月経困難症(月経痛・生理痛)は、
血が体外へ出て足りなくなる状態ですから“血虚”がメインの病態です。

月経関連に使う漢方薬は、
有名な“婦人科三大漢方”として、
 当帰芍薬散(23)
 加味逍遥散(24)
 桂枝茯苓丸(25)
が有名です。
他にも、桃核承気湯(61)、温経湯(106)などが用いられます。

され、これらの薬の解説を読んでいると、
専門家により切り口が微妙に異なり、
また使用法もずれを感じることがあります。

今回、
①“気血水”で語る大野修司Dr.
②“陰陽虚実”で語る谷川聖明Dr.
の使い方を比較しながら紹介します。

▢ 月経困難症の漢方医学的捉え方
(①)瘀血・血虚・水毒・気逆・気鬱・・・なかでも瘀血・血虚・水毒が重要
(②)陰陽虚実・・・なかでも陽実と陰虚が重要

▢ “瘀血”の所見(①)
・冷え症
・目の周りのクマ
・皮膚の荒れ
・シミやソバカス
・皮下出血を起こしやすい
・口唇と歯肉の暗赤色化
・クモ状毛細血管
・月経異常
・痔疾
・疼痛(局所)

▢ “瘀血”の症状(①)
・歯茎の色が悪い
・唇の色が悪い
・黒ずみ
・肌荒れ
・目の隈
・シミが増えた

・・・血液の流れが滞ってうっ滞して黒ずんだ色になるイメージですね。

▢ “血虚”の所見(①)
・皮膚や唇の乾燥と荒れ
・脱毛
・爪の変形、爪が割れやすい
・傷が治りにくい
・集中力低下
・イライラ、不眠
・月経不順/無月経
・冷え症
・こむら返り(筋けいれん)
・舌に亀裂がある
・かすみ目

▢ “血虚”の症状(①)
・イライラする
・唇が乾く
・爪が割れる
・ささくれる
・毛が抜ける
・化粧ののりが悪い

・・・血液・栄養が末梢まで行き渡らないイメージです。

▢ “水毒”の症状(①)
・むくみ(浮腫)
・車酔い、悪酔い、嘔吐、下痢しやすい
・めまい、耳鳴り、頭痛が多い
・冷え症が多い
・症状が季節と天気で増悪する

・・・水や湿気が体にたまりがちというイメージです。

▢ 駆瘀血薬の気血水対応(①)
・当帰芍薬散(23):血虚と水毒に対応
・桂枝茯苓丸(25):瘀血に対応
・桃核承気湯(61):瘀血に対応

▢ 駆瘀血薬の気血水対応(②)
・温経湯(106):血虚・瘀血・津液の減少
・当帰芍薬散(23):血虚・瘀血・水毒
・桂枝茯苓丸(25):瘀血
・桃核承気湯(61):気逆・瘀血

・・・ここだけ見ても、ちょっと解説にずれがあります。
大野Dr.は極力シンプルに記載しますが、これだけでは桂枝茯苓丸(25)と桃核承気湯(61)の使い分けがわかりません。
一方の谷川Dr.は、“血の異常”以外の薬効を列挙し、よりイメージしやすくなっていると思います。

▢ 駆瘀血薬の使い分け(月経異常の他の症状)(①)
・当帰芍薬散(23):血色不良で貧血様症候、疲れやすく冷え症の方に
・桂枝茯苓丸(25):冷えのぼせを訴える方の月経異常、頭痛、肩こりなど
・桃核承気湯(61):便秘や精神神経症状のある方に

▢ “陰陽虚実”座標で考える駆瘀血薬(②)
(陽実) 桃核承気湯(61)
 ⇩  桂枝茯苓丸(25)
(中庸)
 ⇩  当帰芍薬散(23)
(陰虚) 温経湯(106)


(ツムラ:medical site より)
▢ 駆瘀血薬の構成生薬と虚実(②)
実証に用いられる生薬:桃仁、牡丹皮
  → 桃核承気湯(61)、桂枝茯苓丸(25)
虚証に用いられる生薬:当帰、川芎
  → 当帰芍薬散(23)、温経湯(106)

▢ 駆瘀血薬の構成生薬としての桂枝(②)
・桂枝は「気の上衡を治す」生薬であり、「のぼせ」に効く。
・桃核承気湯(61)、桂枝茯苓丸(25)、温経湯(106)に含まれる。
・当帰芍薬散(23)には含まれないので「のぼせ」症状には効かない。

<追記>
参考に「更年期障害の漢方」で出てきた谷川聖明Dr.の座標も提示します。
月経困難症の座標と比較してみると興味深いです;


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