カッパのロードスター

幌を開ければFeelin`good。カッパーレッドの
路渡☆くんとの楽しいドライブ日誌。

文化財に住んでみる?

2016-07-09 15:27:38 | レトロ建築
一般公開のあった栗原邸(旧鶴巻邸)は2014年に国の登録有形文化財に
なっています。
現在の所有者は栗原氏なんですが「この住宅の継承者を募集しています。
ご興味のある方は最寄りの住宅遺産トラスト関西スタッフまで。」って
貼り紙があちこちに。

日本におけるモダニズム建築の先駆者、本野精吾氏の設計、鎮ブロック
による中村式鉄筋コンクリート建築・・・我が国の建築史にとっても
貴重な建造物であり、保存・修復が進められている最中に、
継承者募集とは・・・ちょっと悲しい?
「これほどわかりやすく価値が確認できる建築を継承していけない
なんて現代人として悔しい。」と、住宅遺産トラスト関西の理事も。
なんとかこの建物を後世に残したいものです。




さて、この住宅の特徴的で最も魅力的な部屋は、玄関ポーチの上に
造られた部屋。帽子のような庇を持つ半円形に突き出たユニークな
形態が特徴です。



外観も内から見てもインパクトのある空間、お部屋ですね。



ここに置かれているものに限らず、建物内には本野氏がデザインした
家具・調度品、照明器具などが残されています。



時代を感じさせるものもありますが、概ねシンプルなデザインで
近代的なもので、やはり昭和初期にしては画期的じゃないかな。



照明器具も全ては撮れなかった、いや撮ったのですが失敗で・・・
他にもユニークなものがあったのですが。ザンネン!(^_^ゞ



ドアノブは建築当初のものかな? でも何だか懐かしい。
特にクリスタル調のノブ、トイレに使われていましたが、
ありましたよね、これッ♪




食堂に置かれたテーブル、これも本野氏のデザインだそうで。
可動式になっており、中央部の長方形の部分を折りたたむことで
大きさを4段階変えられ、最小の場合は丸テーブルになる。
というもので、フルに広げれば8人掛け、たたんでいくと6人掛け、
4人掛けになり、最小は2人掛けになる便利もの♪
現代でこそ似たような機能の食卓はありますが、やはり先駆けだった
のでしょうね、椅子も同時にデザインされたもので座面の布など
当時のままなのだそうです。




家主は京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)の校長だった
鶴巻鶴一氏から広告業・萬年社社長であった栗原伸氏に。途中戦後に
進駐軍の接収で、米軍中尉の家族が10年ほど住んだ後、栗原家に
戻された変遷があり、どの時期のものかわかりませんが
生活感が垣間みれる私物も多々残されていました。

留守中にお宅拝見みたいで、いろいろ妄想してしましますね。






このベッドも本野氏のデザインとみられ、他の部屋に置かれている
木製のベッドとは大きさもデザインも異なる真鍮製のもので、
施主であった鶴巻氏が使用していたものと思われます。







階段脇にある大きな金庫。いつ頃まで使われていたのか、
まだ開くのかな? 
そうそう、昔はよくこんな織物を被せたりしていましたね。(^_^ゞ

3階だったかな、蔵のような厳重な2重扉になった倉庫が
ありました。座敷牢のような、仕置き部屋のような・・・
変な妄想し過ぎかな?(^_^ゞ



バスルームは今はすっかり現代のものに変わっていて、機能も最新。
施工当時は写真のようなものだったようですが、当時としては
最新だったのでしょうね、蛇口が2つあるってことはセントラル給湯
だったのかも。昭和初期は自宅に風呂がついているのも珍しい、
あっても五右衛門風呂だったりしますからね。
トイレも現状は水洗ウォシュレット便器がついていたと思います。







階段は建物中央奥にあり、3階まで吹き抜け。手摺もシンプルながら
装飾的な意匠が施されています。そろばんみたいだけど・・・

建物自体はコンクリートブロック構造ですが、この吹き抜け階段と
玄関ポーチ部分はさすがに強度が持たないのか、柱と梁で支える
ラーメン構造の鉄筋コンクリート造が採用されています。




この建物の魅力のひとつに広いバルコニーが設けられていること。
2階部分は東側に。3階はルーフバルコニーになっています。



2階のバルコニー、個人宅でこれほど広いバルコニーはなかなか
見られませんね。洗濯物いっぱい干せます?(^_^ゞ




3階から見た2階のバルコニー。




3階は物置、さっきの蔵のような部屋ね。があるだけで、あとは
屋上バルコニー。走り回れる広さです。手摺が低いので子供だと
危ないですが・・・













眺めも悪くないです。もともと高台に建っていますからね。



JR東海道線がよく見えます。夜景も綺麗でしょうね♪



北側には琵琶湖疎水が見えます。この辺りの疎水道は桜並木。
春はお花見、秋は紅葉狩りのスポットとして楽しめる遊歩道です。




さて、話しを始めに戻して、この建物の継承者募集・・・

それに国・登録有形文化財の位置づけ、メリット・デメリットは?
まず文化財って何?って話しになりますね。
そもそも文化財には有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、
文化的景観、伝統的建造物群の6種類があります。
●有形文化財:建造物・美術工芸品などで、特に重要とされるものを
重要文化財、その中でも貴重な価値があると判断されたものが国宝。
●無形文化財:芸能・工芸技術など、これも重要無形文化財があり、
その保持者を通称 人間国宝と呼びます。
●民俗文化財:風俗慣習・民俗芸能など。無形、有形があります。
●記念物:史跡・名勝・天然記念物など。
●伝統的建造物群:宿場町、城下町などがありますね、これはまず
市町村が伝統的建造物群保存地区を定め、その中から特に価値が高い
ものを文部科学大臣が重要伝統的建造物群保存地区として選定します。
●文化的景観:棚田や里山、日本の原風景などが該当します。
2004年の文化財保護法改正により創設された文化財のジャンルです。

国が定めたもの以外で、地方公共団体(都道府県、区市町村)の多くが
条例を制定し、重要な文化財について教育委員会が指定等を行い保護を
図っています。これもよく見ますね。

ところでこの建物は「国・登録有形文化財」というものです。
普通、有形文化財は国の厳しい審査・基準により指定されるもので、
「指定有形文化財」。しかし指定制度では身近な近世末期や近代以降の
多種多様な建造物が、その建築史的・文化的意義や価値を十分認識され
ないまま破壊される事例が相次いだことを受けて1996年の文化財保護法
改正により、従来の文化財「指定」制度に加えて、文化財「登録」制度
が創設されました。

登録有形文化財は、原則50年を経過した歴史的建造物であることと、
以下の3点のうち、いずれか1点を満たしていることが条件です。
(1)国土の歴史景観に寄与しているもの
(2)造形の規範になっているもの
(3)再現することが容易でないもの
・・・この邸宅も条件を充分クリアしてますね。

建物を活かしながら残していこうという考え方で創られた制度ですから
内装の変更や設備の更新などの規制は、指定文化財に比べると緩やか。
ですから、修復してまちづくりに活かしたり、観光資源として利用する
例も多くなっています。
ただし、指定文化財のように補助金や固定資産税の非課税などの
優遇措置はありません。地価の高い地域でのみ相続税の免除が
受けられるとかあるようですが、「ほとんどメリットはない」らしい。
おっと!最初の写真で門に付けられているパネル。あれがもらえます。
プレートには『この建造物は貴重な国民的財産です 文化庁』と
記されており、名誉にはなるでしょうが・・・
最近では文化庁系ではなく国交省系がフォローして補助金など用意、
メリットが増えつつある傾向がみられます。


さて、最後にちょっと不動産屋的な話しを・・・
栗原邸の敷地面積は約600坪、建築面積は64坪、延床面積は124坪で
3階建て。建物の背後にある林もすべてこの住宅の敷地で、
ちょっとした公園くらいの広さがある。



玄関を入ったホールの正面に階段があり、部屋は左右に配されている。
1階・右手には客間、食堂があり、その右には施主鶴巻氏のアトリエ。
左手に居間、キッチンと女中部屋、階段脇には小さな電話室も。
2階は左右に寝室が2室ずつあり、各室は10畳程度。外から見て
半円になった部分にはサンルームがある。右(東側)にバルコニー。
3階には倉庫とルーフバルコニーに。
各室には暖炉が用意されているほか、スチーム暖房用のラジエーターも
配されて(接収当時の設備)おり、1階にはそのためのボイラー室も。
部屋によってはベッド、収納家具、椅子などが置かれている。

気になる金額は・・・交渉の余地が多々あるという前提で大台を目安に
していただけると。詳しくはお問合せください。とのことです。
私にはとても無理な話ですが、世の中広い。現に私が見学している
間に、どうやら説明を受けてらっしゃるご婦人が居られました。
一見してファッションからも一般の方とは違ったので、この豪邸に
ふさわしいかも・・・(^_^ゞ
もし、成立すればもう一般公開は今回が最後?それは残念ですが。

追記『設計者・本野精吾(もとのせいご)氏のプロフィール』



2016.5/28、栗原邸(旧鶴巻邸)にて。