
正午ごろ、雷雨が通り過ぎていった。
ルイは雷が鳴っても動じる気配すらないが、9年前までいっしょにいたシェラは、雷や花火が怖く怖くててどうしようもなかった。
急に落ち着かなくなるので、どうしたのかなと思っていると、まもなく遠くから雷鳴が聞こえてくる。
人間よりもすぐれた耳で遠雷をキャッチしていたのだろう。
身体がふるえ、よだれをたらし、とにかくひたすら怖がった。
家にいれば風呂場に逃げ込んでしまう。
2歳までは雷も花火も平気だった。
2歳になった年の5月、裏磐梯にある秋元湖へぼくとふたりでキャンプに出かけた。
そのとき、湖に遊びにきていたグループが、「キ〜〜〜ン!」と人間でも不快な金属音がする花火を打ち上げた。
それが引き金になって打ち上げ花火が苦手になり、雷もだめになった。
夏に花火はつきものである。
「打ち上げ花火禁止」のキャンプ場でも、盛大に打ち上げ花火で盛り上がる非常識な家族やグループはあとをたたない。
地元の主催で本格的な花火大会が催されることもあった。
その度にシェラはヨダレをたらしてふるえ、クルマに避難し、家人に抱かれて恐怖の長い時間をやり過ごした。
一緒にいたむぎが平気だったように、同じコーギーのルイも花火や雷には無頓着である。
ありがたいと思いながら、雷鳴が聞こえてくるたびに、大きな図体をしてふるえていたシェラをなつかしく思い出す。
あきれ顔で横にひかえていたむぎもまた恋しい。