今回は、「色絵 花文 花瓶」の紹介です。
これは、平成7年に(今から26年前に)、馴染みの骨董屋を通して、さる大名家の末裔の方から譲ってもらったものです。
ただ、この花瓶が、もともとその大名家に代々伝わってきたものなのか、或いはその大名家の末裔の方がご自身の好みで買い求めたものなのかは分かりません。
立面(正面と仮定)
正面から右に約90度回転させた立面
正面の裏側の立面
正面から左に約90度回転させた立面
疵が一番酷い立面
見込み面
底面
この花瓶が入っている箱
箱には、「柿右衛門手 古伊万里壺」と書かれています。
生 産 地 : 肥前・有田
製作年代: 江戸時代中期
サ イ ズ : 口径;11.3cm 高さ;24.5cm 底径;11.8cm
なお、この花瓶につきましては、その入手経過を含めて、かつての拙ホームページの「古伊万里への誘い」の中で既に紹介しているところです。そこで、次に、その紹介文を再度掲載することで、この花瓶の紹介に代えさせていただきます。
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<古伊万里への誘い>
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*古伊万里ギャラリー115 古伊万里様式色絵花文花瓶 (平成19年11月1日登載)
この花瓶の入った箱には「柿右衛門手 古伊万里壷」と書いてある。
そんなに古い箱ではないので、江戸時代からの共箱ではない。むしろ、現代の箱という感じであるが、それにしても、ここ10年や20年前に作られたものではなさそうである。もう少し古そうだ。
今なら「柿右衛門様式 古伊万里壷」とでも書くべきなのかもしれない。以前は、「柿右衛門」と「古伊万里」は別物だった。勿論、「柿右衛門」の方が「古伊万里」よりも格が上で、値段も上だったので、「古伊万里」にしては出来が良かったから「柿右衛門手」と表示したのだろう。当時の「古伊万里」の取り扱いの状況が伺えるよい資料である。
もっとも、現時点では、この手の物は「柿右衛門様式」とは分類されず、「古伊万里様式」と分類されるだろうから、私は、「古伊万里様式色絵花文花瓶」と表示した。
ところで、「古伊万里バカ日誌53」で記したように、この花瓶は、さる大名家の末裔の方が大事にされていたものではあったが、さる大名家に代々伝わったものなのか、その末裔の方が収集されたものなのかは定かでない。
しかし、さる大名家の末裔の方が、割れても、大金を投じて補修までして大事にしていただけあって見事である。
江戸時代中期 高さ:24.5cm 口径:11.3cm
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*古伊万里バカ日誌53 古伊万里との対話(大キズの花瓶) (平成19年10月筆)
登場人物
主 人 (田舎の平凡なサラリーマン)
瑕疵子 (古伊万里様式色絵花文花瓶)
・・・・・プロローグ・・・・
ここのところキズ物との対話が続いている。キズ物といえば、大きなキズのある花瓶があったことを主人は思い出し、さっそく押入から引っ張り出してきて対話をはじめた。
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主人: いや~見事なもんだね。感心するよ!
瑕疵子: おほめにあずかりありがとうございます。
主人: ん? キズの凄さのことを言ってるんだけどね。
瑕疵子: (むっとして)そうですか、キズのことを言ってたんですか。
主人: まあ、まあ、そう拗ねなさんな。もしもキズがなかったら、それこそ見事なもんだよ。それに、キズがなかったら我が家には来ていなかった。
瑕疵子: 値段が高くて、ご主人では手が届かなかったということですか。
主人: それはご挨拶だね! 勿論そのこともあったろうけど、無キズだったならば、前の所有者が手離さなかったからだよ。
瑕疵子: それには何か理由があるんですか。
主人: お前を入手するに当たってこんな経緯があったんだ。
そうだな、お前を入手したのは平成7年だから、もう10年以上も前の話になるんだがね。馴染みの骨董屋さんが、長年懇意にしている東京在住のコレクターさんの所に一緒に連れて行ってやるということになったんだ。その骨董屋さんとそのコレクターさんとは長い付き合いで、その骨董屋さんは、そのコレクターさんから、時々、品物をわけてもらっていたんだね。つまり、仕入先の一つになっていたわけだ。
そのコレクターさんは、さる大名家の末裔ということで、膨大な古美術品を相続して所有していたうえにご自身も古美術品が好きで収集していたから、相当な量の古美術品を所有することになったわけだ。ところが、お子様達が古美術品に全く興味を示さないので、少しずつ整理処分したい気持ちになったらしいんだね。そんなところから、私の馴染みの骨董屋さんはそのコレクターさんの所に出入りするようになったらしい。
瑕疵子: それでは、そのコレクターさんの所で沢山の名品を見てきたんですね。
主人: それがね、自宅の方ではなく、事務所の方に行ったもんだから、多くは見られなかったんだ。コレクターさんも古美術品が好きなものだから、自宅から事務所の方にも何点か持ってきていて、時折り鑑賞してたんだろうね。
でも、数は少なかったけれど、お気に入りのものを手元に置いて鑑賞していたわけだから、さすが名品揃いだった。志野やら織部やら古瀬戸などが置いてあった。中国物や朝鮮半島のものもあったかな。伊万里なども何点か置いてあったが、伊万里好きの私としては、お前を一番に気に入った。
瑕疵子: それで、その場で私を欲しいと切り出したんですか。
主人: そんなこと出来っこないよ。言い出せないよ。だって、相手は、世が世ならばお殿様だからね。私のような者は、世が世ならお目見えさえも許されなかったんだからね。そんな下っぱの者が、恐れ多くも、お殿様に向かって、所蔵品を売ってくれませんかなんて言えっこないだろう。そんなことしたらお手討ちものだ!
瑕疵子: それでどうなされたんですか。
主人: 下賜していただけるなら、ありがたく拝領するところだったが、そのようなお言葉はなかったので、その場はそのまま引き下がるしかなかったな。
私の馴染みの骨董屋さんだって、ズバリ、「これ売ってください。」とは言えないらしいね。相手には相当気を使っているらしい。遊びに行っていて、ご機嫌の良さそうな頃合いを見計らって、それとなく売ってくれるかどうかのさぐりを入れるんだって。そのことを事前に聞かされていたこともあって、その場はそのまま引き下がってきたわけだよ。
でもね、私はどうしてもお前を欲しくなってしまった。なんぞ手に入れる方法はないものかと考えた。それで、私は、馴染みの骨董屋さんに手に入れる方法はないものかどうかを相談したんだ。
そうしたら、その骨董屋さんの言うことには、「そちらから直接電話等で問い合わせると、相手が気を悪くしてしまって、駄目になるだろう。」ということだった。「うまくいくかどうかはわからないが、私にまかせてほしい。」というので、まかせることにした。
その後、数日してから、骨董屋さんは、先日の訪問のお礼と、次回訪問の都合等について電話したらしい。その際、「先日、一緒に行った者が、伊万里の花瓶を大変に気に入ってしまったので、お譲りしてやっていただけないでしょうか。」と伺ったそうだ。そうしたら、案の定、「あの花瓶は、見てのとおり、大キズがあり、商品にならないので売れない。」とのこと。また、「私も大変に気に入って手元に置いて可愛がっていたんだが、可愛がりすぎたというか、あまりにも手近に置きすぎたので、ある日、うっかり灰皿を落としてしまい、バラバラにしてしまった。それでもやっぱりいとおしいので、大金を投じて補修に出し、最近やっと出来上がってきたばかりなので、売るわけにはいかない。」とのつれない返事だったとのこと。それでも、骨董屋さんからは、そのうちまた行くことになっているので、その折、再度切り出してみるとの力強い(?)お言葉・・・・・。私としてはそれを信じ、ただ、じっと待っているしか方法はなかった。
待つこと約1月。骨董屋さんから、先方をどう言いくるめたのか、色よい返事があった。「先方は譲る気になってくれました。ただ、値段がまだ決まらないんです。補修代から類推して決めなければならないと思いますが、××万円~○○万円くらいの間で交渉しようと思いますが、よろしいですか。」とのこと。私は、勿論、喜んでおまかせすることにした。ただ、「相手が相手だけに、すぐ電話で交渉するわけにはいきませんので、次回、また伺いに行った時に交渉します。」ということで、結論は更に先送りとなった。
それから更に1か月位い経ったかな~。骨董屋さんから連絡があった。「やっと引き取ってきました!」と。
お前を入手するに当っては、こんないきさつがあったんだ。苦労したよ! もしキズがなかったら、前所有者のお殿様は、決してお前を手離さなかっただろうし、キズになったらなったでなかなか手離さなかったんだから。