「日本の神話4 神武東征」(伊藤清司・松前 健編集 ぎょうせい 1984年9月20日四版発行)を読みました。
最近、日本史に関する本を読んでいますが、ここのところ、「元寇」に関する本を読み、次いで、「白村江の戦い」に関する本を読み、ついでに、それよりも少し古い時代の「聖徳太子」に関する本を読んだところです。
私は、骨董が好きなくらいですから、どうも古いものが好きなようで、本でも、読んでいくうちに、だんだんと古い時代のものに遡っていくようです(^^;
それで、今回は、遂に、神話の時代の本にまで遡ってしまいました(笑)。
なぜそんなことになったかと言いますと、古代に関する本を読んでいますと、どうしても、神話の話が出てくるんですよね。
でも、私には、神話の話と古代の話が結びつかないんです(-_-;) 勉強不足で、その辺が結びつかず、読んでいても、良く意味が分からないんです(><)
神々の時代と人間の時代との繋がりが分からないんですね。そこで、神々の時代が終わり、人間の時代が始まる頃を扱った、神話の中の「神武東征」の辺りを読めば分かるようになるのかな~とのあたりをつけ、この本を選んで読んだわけです。
この本は、歴史小説ではありません。歴史書というものに属するんでしょうか。内容的には、「第1部 古事記現代訳 神武東征」の部分は易しく書いてありますが、その他は、各項目毎に、大学の先生や作家の方が分担して執筆したもので、結構、難解です(><) 「序」にも次のように書かれています。
「このシリーズの特色の一つは、豊富で、しかも美しい写真図版によって読者の理解を助け、皆さんの神話の旅をますます楽しいものにするところにあります。そして日本の神話に一層の関心を寄せられ、より深い理解へ、より専門的な研究へと進まれることを期待いたします。」
なお、この本の「目次」は次のようになっていました。
目 次
序
はじめに
第1部 古事記現代訳 神武東征
第2部 解説 神武東征
神武神話の原像
神武伝承
神武東征伝承の虚実と原像
崇神朝の説話
垂仁朝の説話
各説話の意味
サオネツヒコとイッセノミコト
熊野の神武とタカクラジ
八咫烏と金の鵄
征討説話
丹塗りの矢の神婚説話
橿原即位とイワレヒコ
神武東征と徐福伝説
大物主神とオオタタネコの神婚説話
三輪山伝説
ヤマトヒメノミコト説話
出雲の神宝とフルネ
出石人の伝承
サホヒコ・サホヒメの反乱と物いわぬ皇子
神話の旅(写真図版による解説)
日向の聖跡(神武進発地)
竈山(かまやま)陵
熊野の磐盾
八咫烏(熊野大社・奈良の八咫烏神社)
橿原神社・畝傍山
忍坂・トミの山
石上神社
三輪山
箸墓
三輪穴師坐兵主神社の腰折田
出石神社
垂仁陵・タジマモリの墓
海外の類型伝承
海外の建国神話
海外の三輪山型神婚説話
日本神話の諸問題
神武伝承と有力氏族
二人のハツクニシラス天皇
三輪王朝と記紀神話
久米歌と英雄時代
さっそく、目次に沿い、「序」から「はじめに」に読み進めます。そうしましたら、当初のあたりをつけた所がよかったのか、私は、これまで、神話の話と古代の話が結びつかなかったんですが、この「はじめに」を読んで、直ぐに、神話の話と古代の話が結びつくようになったんです(^-^; 「はじめに」には次のように書いてあったからです。
「この巻は、神々の時代であった神代が終わり、人の時代、すなわち人間の帝王の時代が始まる、大和朝廷の創業のころの伝説的な天皇──神武から垂仁まで──の伝承を扱ったものです。いわば神話時代が過ぎて、人間の英雄たちの活躍する伝説時代に入ったわけです。
世界のいろいろな民族の神話的な伝承にも、神々が活動して、宇宙・万物を造ったり、人間を造ったり、自然の秩序を定めたりする神話時代が終わると、今度はその人間たちの住む社会の制度を定めたり、組織を始めたり、またそのモラルや習慣を定めたりする半神半人の英雄たちの活躍する英雄の時代があったという考えかたがありました。
『古事記』や『日本書紀』の、神代の巻に続く人皇の巻でも、特に大和朝廷創業の主であるといわれ、第1代の天皇とされる神武天皇から、第10代の崇神、第11代の垂仁の両天皇、さらにヤマトタケルなどの活躍するころの第12代景行天皇、さらにそのヤマトタケルの御子の、第14代仲哀天皇、およびその大后の神功皇后などまでは、全体が著しく神話的色彩が豊かで、いかにも英雄時代という感じがします。
この巻は、この中の神武から垂仁までの、創業時代の物語です。もちろん、天皇がその物語ごとの主役でありますが、そのまわりにいる后妃たちや皇子たち、また多くの廷臣たちや、豪族たちのエピソードも、これに織り込まれています。・・・・・・・・・・・・・・
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第1代の神武天皇の史実性については、いろいろな論議がありますが定まりません。その東征譚は、要するに、大和朝廷の起源・発祥を西方に求めるという、古代宮廷貴族たちの思想から出た説話に過ぎないようであります。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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それで、気分も良くなり、その後の部分は、気楽に、のんびりと読み進めることができました(^-^;
ところで、この本の全てを紹介することは出来ませんが、次に、そのほんの少しを紹介し、この本の紹介に代えさせていただきます。
①「海外の類型伝承」の中の「海外の建国神話」から
ここでは、古代朝鮮の神話として、百済の建国神話、高句麗の建国神話、扶余の建国神話が紹介されていました。
また、印欧諸国の神話として、ハンガリーの建国神話、アイルランドの建国神話が紹介されていました。
更には、東南アジアの建国神話として、扶南王国(東南アジアの最古の王国。紀元2世紀にメコン川下流域に成立)の建国神話、スマトラのパサイ王国の建国神話、ビルマのメン・マオ国の建国神話、ジャワのマジャパヒト大国の建国神話も紹介されていました。
なお、この件に関しては、「以上に述べて来たように、世界を見渡して、王の君臨した所に、その起源を物語る建国神話はほとんどなんらかの形で記録・伝承されて来た。それはひとえに、王が出自・聖宝(レガリア)を通して神霊の庇護を得て、自然界と人間界の秩序を維持する存在であると考えられたからにほかならない。要するに、建国神話は、新しい王家の王権イデオロギーの確立過程を説明的に表現するとともに、それに高度な現実感を付与することによって、人びとに真実であると思われるような、強力な情感を喚起するものであると言えるだろう。」と解説しています。
②「日本神話の諸問題」の中の「神武伝承と有力氏族」から
「・・・・・・現在では、天皇家の血統が一貫して日本の国土に君臨していたという、『記』『紀』の「万世一系」の記述をそのまま信用する人はほとんどいない。大王の系統に交替があったとする考え方は、戦後間もなく水野裕氏によって三王朝交替が提唱されて以来、多くの研究者によって王朝交替説が発展されてきた。現在最も有力な説は、崇神・垂仁を中心とした大和の三輪山麓に本拠をおいた勢力と、南河内を本拠として応神を始祖とした勢力、そして近江・越前を勢力基盤として興った継体系の政権の、三つの王朝の交替説であろう。
直木幸次郎氏らは、神武伝承のうち大和平定の物語を、継体勢力の大和入りにさいしての前王朝との戦闘の記憶反映ではないかと指摘している。この見地からすれば、大伴氏と物部氏由来説の相違も説明できるのである。『日本書紀』のよれば、継体天皇を越前三国の里まで迎えに行き、皇位に就けたのは大伴金村であった。他の伝承の分析からしても、大伴氏が継体政権を支持して旧勢力と対決したことは、ほぼ誤りないとみられる。それに対し、物部氏は継体天皇が20年かかって大和入りするまではまったく姿をみせていない。天皇が大和に宮都を置き内乱を終結したのちに、はじめて筑紫君磐井の反乱の平定に派遣されるのである。
物部氏は大伴氏とちがって継体天皇の擁立には積極的でなく、中立的をとって大勢が決ってから継体側についたということが推定できる。このような河内系旧王朝と継体系王権との王朝交替にさいして、武門の名族であった大伴・物部両氏のとった態度の相違という史実が、神武伝承における両氏の由来に反映したのであろう。両氏の6世紀ごろの現実の宮廷奉仕の姿と、継体朝内乱期の動向とが、神武伝承の中に二重写しに反映しているとみることができよう。
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