元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

死後事務委任契約は、委任者本人の死亡により、終了するのでは??

2014-07-13 18:30:09 | 後見人制度
 死後事務委任契約が無制限に認められるとすると、相続人の権利を侵害するのではないか?!

 成年後見制度の業務は、本人の死亡により、原則として終了します。後は、財産管理を行い、相続人等に報告するという仕事が残っているだけです。法定後見の場合は、明確な規定はないものの後見を受ける本人が死亡すれば、終了するというのは当たり前だと考えられているし、また、任意後見の場合は、後見を行うという依頼関係が、信頼関係に基づく「民法の委任契約」であることからすれば、この委任は、民法の規定により、委任者である本人の死亡により終了するとされています。(民法653条)

 一方、相続人が、本人の死亡の時から、亡くなった本人の一身専属的なものは除いて、一切の財産上の権利義務を受け継ぐことになるので、一般的にはスムーズに、相続関係に移っていくことになります。(民法896条)

 
 ところが、今の世の現状では、相続人がいない場合とかいても疎遠になっているとか、あるいはまったくどこにいるのかわからないということだってありえます。そこでは、葬儀、亡くなった本人の諸手続、入院や介護の費用の支払いなど、本人亡き後、本人の意思を継いで、行っていく必要のものが必ずあり得ます。確定した相続人がいれば、この相続人に任せればいいのですが、むしろそうすべきでしょうが、相続人がいない等の場合には、どうしようもないことになります。このようなことから、委任契約を締結した場合の委任関係において、「委任契約の当事者である委任者と受任者は委任者の死亡によっても委任関係を終了させない旨の合意をすることができる」(最判平4.9.22)とされました。すなわち、生きているうちに、委任者が信頼できる人に委任内容をお願いすることにより、委任者がなくなってからも、その契約内容の履行が始まるという「契約」をむすぶことが最高裁でも認められたことになります。このような契約を「死後事務委任契約」と言っています。実務的には、任意後見の場合には、任意後見契約自体が公証人の下での契約を行うことになっているため、死後の事務について不安のある方は同時に、死後事務委任契約を締結することが多かったといわれています。

 ここで、疑問が生じます。こういう形の死後事務委任契約があるとしても、相続人は一切の権利義務を受け継ぐわけだから、その中には、死後委任契約の解除権もあるわけで、相続人によって死後事務委任契約が否定されないかという疑問です。これに対して、「委任者が死亡しても当然に契約を終了させない合意だけでなく、契約は特段の事情のない限り、委任者の地位の承継者が契約を終了させることは許されないとういう合意を包含する」(平成21年12月21日東京高裁)として、委任者である本人が死亡した場合、委任関係を終了しない合意だけでなく、相続人という委任者の地位を承継した者が契約を終了させることは、「特段の事情がない限り」許されないものとしました。委任者の意思を死亡後も最大限に尊重していこうという考えです。

 しかし、無制限にこの死後委任契約が認められるとすると、もともと相続人に一切の権利義務を承継するとしているのだから、相続人の権利義務が制限されることになり、そこにはおのずから委任事項の制限、継続的な委任の時間的な幅の制約があるということになります。
 一般に死後事務委任契約として考えられているものとしては、病院・施設入所費用の未払い分、葬儀・埋葬及び納骨、遺品の整理、遺品・相続引き継ぎ事務、借家の明け渡しと敷金等の精算、行政官庁の諸届、関係者への死亡連絡、遺体の引き取りなどは、短期的に処理しなければならないもので、かつ必要・納得できる事項で、委任契約が死亡後もそのまま継続すると考えるのが相当でしょう。しかし法要や永代供養については、死亡後、相当長期間継続するため、相続人に解除権があると考えられます。
 ただし、葬儀については、行うとしても、葬儀の方式や費用について、「合理的な」範囲に限られることになるでしょう。


 参考:Q&A成年被後見人死亡後の実務と書式(日本財産管理協会編)新日本法規
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする