元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

業務命令として、火山灰除去、就業規則の書写の命令は可能か??

2016-08-27 17:21:05 | 社会保険労務士
 新人に職務表にない課長の業務命令が・・<業務命令は広範囲だが権利濫用等の制約>

 よくある話しである。新人のA君は、課長が朝入ってくるなり職場を見回し、何もしていなかったA君に対し、昨日の大風で玄関付近がきたないので整理してそうじをするよう言いつけた。A君のもらった職務分担表にはそんなそうじの項目は書かれていない。(掃除は、普段は強制されたわけではなく、勤務時間前、身の回りを皆おのおの自由にやっている程度。) 直接の上司は、班長のBさんであるので、いつもはB班長の指示に従って行っているところである。課長のこの業務命令に従わなければならないのか。課長にすれば、お客がくれば、みっともないので、新人教育として命令したところであるというのだが・・・。

 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意をすることによって成立するものである。(労働契約法6条) 労働契約は、労働者の労働義務(労務提供義務)と使用者の賃金支払い義務が主な本質となる契約である。 この『労働提供義務は、使用者の指揮命令に従って労務を提供する義務であるから、この義務は、使用者の指揮命令権を前提とする。還元すれば、使用者に指揮命令権を付与することの承認が含まれているのが労働契約の本質的要素である。』(電電公社帯広局事件、最一小判昭61.3.13。『』書きは「荒木著労働法」から引用)、

 したがって、本来は、この指揮命令権の根拠は労働契約に求められるのだが、日本では労働契約は詳細な内容は結ばないことが多く、代わりに、就業規則が周知され合理的な規定であれば、就業規則の内容が労働契約になる(労契法7条)。したがって、この就業規則に根拠を持つ指揮命令であれば、契約の範囲内であると考えられ、労働者はこの指揮命令に従う義務がある。先ほど言ったように『日本では労働者の職務内容は、具体的に個別契約では特定するようなことはしないし、欧米のように職務内容の特定したポストに必要な人員を雇い入れるという慣行もないので、使用者に広範な命令権が肯定される傾向にある。』とされているところである。すなわち、日本では、使用者の指揮命令があって初めて、仕事の内容の詳細が分かるということが多い、初めから決まった設定された仕事は、ないことが多いのである。そこで、広範な範囲の具体的な指揮命令がないと仕事が進まないことが多いのである。

 このように、使用者の労働者に対する指揮命令権は、広く認められているところであり、一般的には「業務命令権」とも呼ばれて、本来的な職務だけでなく、出張、研修、健康診断、自宅待機などいろんな場面で命令されることになる。

 しかし、就業規則に根拠があり、そこから出てくる契約の範囲内で行われた場合であっても、業務命令の行使が権利の濫用(労働契約法3条5項)に当たるなど強行法規に違反するときは、命令は違法・無効なものとなる。国鉄鹿児島自動車営業所事件(最二小判5.6.11)では、火山灰除去作業命令は職場管理上やむえない措置であり、違法不当な目的でなされたものとは認められないとされたが、JR東日本(本荘保線区)事件(最二小判8.2.23)では、就業規則書き写し命令についてみせしめを兼ねた懲罰的目的であり、人格権の侵害で権利の濫用であるとされた。この判断の分かれ目は、職場管理の必要性があるのか、それとも、見せしめ的行為で職場管理の必要性がないものかという点での判断であろう。(注)
 
 さて、A君の整理そうじの件であるが、この整理そうじは職務分担表にはないが、状況から考えて職場管理上必要な臨時的業務であり、それが新人の仕事として回されてきたものであろう。また、これに限ったことではないが、指揮命令の整理が出来ていない職場では、上の、さらに上の上司からの業務命令が直接発せられることもよくあることである。新人のA君はそこのところをうまく心得て、直接の上司のB班長に一言伝えて、課長の命令に従うべきであろう。整理そうじの命令がA君一人だけ行われたということについては、A君が何もしていなかったといってもそのためだけで、決して見せしめのためではなく、課長は命令したのは、新人教育としてと言っており・・・少なくとも人格権の侵害とまでは言えず、権利の濫用とはいえないでしょう。


(注)最新重要判例200(大内著) 国鉄鹿児島自動車営業所事件とJR東日本事件では、それぞれ組合バッチの着用、組合マーク入りのベルト着用に対してその取り外しを命令したが従わなかったものである。裁判所は、組合バッチについては着用の違法性について厳しく判断したのに対し、組合マーク入りのベルト着用については、実質的違法性がなく職務遂行義務に違反しないと判断し、もともとの労働者の違反とされる行為について、裁判所の判断がそれぞれ分かれている。これを行った労働者に対して使用者は取り外しを命令したが、労働者がこれに従わなかったことに対し、それぞれ使用者が火山灰撤去命令と就業規則書き写し命令を行ったものであって、大内氏は、これがそれぞれの業務命令の適法性の結論に影響した可能性があるとしている。

 参考  
    労働法        水町著 有斐閣
    労働法        荒木著 有斐閣
    最新重要判例200  大内著 弘文堂
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企業の血液型による社員採用は違法・適法・妥当???<選択の自由・But血液型占いは根拠なしか>

2016-08-20 16:57:26 | 社会保険労務士
 男女機会均等法などによる一定の制約はあるが使用者の「採用の自由」が原則<うちの社長と血液型が相性が悪い/B型は協調性なしなど>

 ひと頃、血液型占いがはやり、いまでは落ち着いてはいるようだが、いまでも時々話題にはのぼっている。そのはなやかなりし頃、あの会社は血液型で社員の採用を決定するというような話があった。血液型うらないによれば、それぞれの血液型には性格上特徴がある(とされている)ので、それぞれの血液型を取り混ぜて採用を試みることになれば、不公平感はないのだが、社長と相性が悪いのでAB型は採用しないということになれば、AB型の人にとって、それは不公平ではないかということになる。そもそも何が不公平かということになれば、後に述べるように、そんな科学的に不確かなもので判断されるということになれば、たまらないということであろう。血液型占いを信じる人にとっては、それはそれで人間関係が悪くなるという点で信頼関係に立つ日本企業にとっては重要なポイントになるということだろう。(しかもせいぜい十数分の面接では血液型で判断の方がよっぽどいいということになる。)

 法上はどうなるのか。まず、企業は、職業選択の自由(憲法22条)や財産権に対する不可侵(憲法29条)に支えられて経済活動そのものは自由であり、そこで、いかなる者を採用するかも自由であるという「採用の自由」が大原則である。

 原則として、どのような者をどのような条件で雇うかは、企業が自由に決定できるのであるが(選択の自由)、今ではそれぞれの法律で一定の制約があるのも事実である。性別を理由とした募集・採用差別を禁止した男女雇用機会均等法、労働者の募集・採用について、原則として年齢にかかわらず均等な機会を与えなければならないとした雇用対策法や障害を理由とした募集・採用を禁止した障害者雇用促進法、労働組合から脱退することを雇用条件としてはならないとした労働組合法(*注1)があるので、これらの法に違反しないようにしなければならない。このように、憲法に保障された使用者の「採用の自由」が原則的にはあるのだが、その一方でそれぞれの個別の法律により、社会的要請からこのように、一定の制約が課されているところである。

 これ以外の理由による採用、例えば、この血液型や、家族構成、容姿など、法律上明文で強行的に禁止されてはない理由による採用については、適法なのだろうか。
 今までの議論を最初から整理すると、原則として、使用者の「採用の自由」が一番に来るところであるが、ただ個別の法律により明確な項目の差別はダメとされているところである。それ以外の項目による採用、ここでは「血液型による採用」については、使用者の「採用の自由」に対して労働者の「人格権」(憲法13条、「国民は、個人として尊重される。」)が対比されるが、その憲法上の人格権や公序良俗違反等(*注2)の観点から問題にならない限り、無効や法違反とはいえないと思われる。人格権・公序良俗違反等の観点から問題ならない限りはという点であるが、今だ裁判になった例は聞いておらず、後に述べるように、思想信条の問題でさえ最高裁で採用時点ではこの事由で採用を決めても法違反ではないとの判断が出てる現状では、人格権・公序良俗の観点から問題があるとの結論は困難であろう。(科学的根拠なしの観点からいえば、血液型だけで不採用というのは、公序良俗違反の疑いはあるのだが・・・。血液型による採用・不採用の不公平が裁判に勝てるかとなると、非常に微妙では・・・。いっそのこと、公平な労働市場「法」の観点から、血液型による採用は、駄目と言うことにするとはっきりするのだが・・・これも企業をそこまで束縛するかという点から実現しそうにはないと思われる。)

 血液型占いは、科学的には全く根拠がないということがいわれているが、いまだに当たっているという御仁もいるところである。世の趨勢を見る限り、いまだにその信頼性を信じている人もいる。(私も根拠はないと感じるところではあるが、一方で信じている自分もいる。) それゆえ、一つのある企業の社長が血液型占いを信じ込み、AB型を採用しなかったからといっても、それはそれで仕方がない。世の中、いろんな企業がいろんな基準で採用しているのも事実であり、血液型もその一つであるとすればうなずける。一方大部分の企業においては、社会的には、一般的に相応の適切な方法でもって採用しているのも事実であろう。

 なお、従来から問題になっている思想・信条を理由とする採用の問題がある。労働基準法第3条の規定は、国籍・信条・社会的身分を理由とする労働条件差別の禁止をしたものであるが、これは採用後の労働条件差別について適用されるものであり、採用段階では適用にならないとされている。したがって、労働基準法上はなんら問題なく、使用者の「採用の自由」という大原則を根拠として、思想・信条を理由とした採用については、違法になるとはいえないとされている。(三菱樹脂事件判決、ただ学説的には反対あり)

 (*1)労働組合員を採用に当たって不利に扱うことは不当労働行為になるのではないかという議論があるが、労組法7条1項(組合員を不利益に扱うことは不当労働行為として禁止)は、採用段階では適用なしとされている。(JR北海道・JR貨物事件・最一小判平成15)
 (*2)「等」としたのは、法上保護される利益侵害に対する不法行為(不法行為であれば損害賠償請求)といえるものがあるかもしれないからである。
 参考 労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣
    ・この本では、事例として、鬼塚商事において、採用面接の際に次のような秘密文書が出回っていたとして、その中で「次に該当する者は、原則として採用不可とする」とし、採用について血液型やその他企業で取り上げられるような微妙な項目が挙がっている。
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時季変更権は、使用者は代わりの時期を指定する必要なし<労働者の時季指定権に任せる>

2016-08-14 17:18:41 | 社会保険労務士
 時季変更権の行使は、代わりの年休を与えられる日の存在が必要<退職者の未消化年休の一括時季指定に注意>

 労働者の年次有給休暇の権利(=年休権)は、与えられた年休日数の範囲で、労働者が具体的にその時期を特定すれば、その日(期間、または時間)に、給与はそのまま支給された上で、労働義務だけがなくなるという効果が生じることになる。普通には、労働者は、これでもって年休の権利を行使できることになる。<これを労働者の「時期指定権」という。>

 ただ、使用者は、「事業の正常な運営を妨げる事由」がある場合は、この労働者の「年休権の行使」を別の日に変更することができることになっている。この使用者の権利は、「労働者の時期指定権」と反対に、労働者の年休権行使の効果を消滅させ、労働者にその日の労働義務を負わせる効果をもつことになる。<これを使用者の「時季変更権」という。>

 労働基準法では、次のように記述してある。
 「使用者は、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」(労基39条5項但し書き)

 これを素直に読む限り、「事業の正常な運営を妨げる事由」がある場合、使用者は代わりの時期を指定して、その日の年休は承認しないと言わなければならないように思えるのであるが、そうではない。

 というのは、労働者は先に述べた「時季指定権」をもっており、いつでも他の好きな別の日を指定できるのであるから、使用者が代わりの日を提案する必要はないのである。むしろ、使用者の提案した日が労働者に都合の悪い日であったりもするので、あくまでも、労働者の時期指定権によって決めさせればよい。

 したがって、使用者は、代わりの日は提案せずに、請求された年休を「承認しない」という意思表示でもって、使用者の時季変更権の意思表示になるが、極端には「年休はあきらめてくれ」という発言でも時季変更権の行使になると考えられる。

 しかしながら、時季変更権の行使は、代わりの年休を与えられる日が必ず存在することが前提となる。どういうことかというと、労働者が退職時に消化していなかった年休を一括して指定するような場合には、代わりの日がないので、使用者は時季変更権は行使できないのである。(そのため、使用者はそれがいやなら、なるべく早めに年休の消化をおこなうよう促すことが必要)

参考 労働法        菅野著 
   労働法        水町著 有斐閣
   労働法        荒木著 有斐閣
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試用目的の有期労働期間の締結は、結局無期労働契約の試用期間と解すのか<神戸広陵学園事件・最高裁>

2016-08-06 16:15:09 | 社会保険労務士
 最高裁の神戸広陵事件後も地裁の判決では有期労働契約の雇止めとしての判断も!!

 使用者は、労働者の採用後に、試用期間と称して、3か月から6か月程度の期間をおいて、「正社員」になる前に、社員としての適格性を見きわめることが多い。この試用期間であるが、本来、長期雇用システムにおける新規学卒者の採用(ゆえに、なにかない限りは原則定年までず~っつと勤めるのを前提)という、いわゆる期間の定めのない労働契約(=無期雇用契約)を締結後に、「正社員」になる前の実際使用しての職務能力や適格性を見る実験観察期間であるとされているところのものである。そのため、適性等が見られなかったときは、既に無期雇用契約を結んでいるため「解雇」となるのであるが、「通常の解雇」よりも「広い範囲において解雇の自由が認められる」としており、この試用期間は、解雇権が留保された期間(解雇権留保期間)であるとされている。しかしながら、そうはいうものの、何度もいうようですがすでに無期労働契約を結んでいるため、「解雇は解雇」でありこの解雇を行うためには、一定の理由が必要(客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認できる場合にのみ許される。)であるとされている。

 それならばということで、この適性等を把握するための期間を有期労働契約とするやり方が行われている。これは、有期契約期間を過ぎれば、そのまま雇止めとなるし、適性と判断すれば、改めて正社員として雇うということになるということになる。

 これについて、次のような最高裁の判例が出されている。
 私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用期間に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する合意が成立しているなどの特段の事情が認められない限り、この期間は契約の存続期間(=有期雇用契約期間)ではなく、期間の定めのない労働契約下の試用期間(無期雇用契約における試用期間)と解すべきである。(神戸広陵学園事件、最三小判平2、菅野著労働法)

 簡単に云うと、試用目的の有期労働契約は、期間満了による契約の終了についての明確な合意が成立していなければ、その期間は無期雇用契約の試用期間と解釈され、有期雇用契約を前提とした「期間満了により契約終了」(=雇止め)はできないというのである。無期雇用契約の試用期間であれば、この場合の契約の解約は「解雇は解雇」であり、一定の理由(合理性と社会通念上の相当性)が少なくとも必要になるのである。

 しかし、この最高裁判例が出された後でも、使用目的の有期労働契約であっても、有期労働契約期間として、期間満了による雇止めを判断(有効あるいは無効)した裁判例が見受けられます。同じ中学・高校の常勤講師の例です。(久留米信愛女学院事件・福岡地・平成13・有効、報徳学園事件・神戸地・平成20・無効)、さらに、バス運転手の研修目的の有期労働契約の締結と研修終了後に適性等の判断したものであって、この契約を「契約社員の労働条件で労働契約を締結している」と解したものなどもあります。(奈良観光バス事件・大阪地・平成23)

 これらは、どのような場合に「無期労働契約の試用期間」なのか、あるいは「試用目的の有期労働契約」とするかは、これらの裁判例から区別することは難しいでしょう。

 この最高裁の判断に対して、菅野著の労働法がいうように、我が国の労働法制においては、有期労働契約の目的は格別規制されておらず、適性判断や正規従業員の養成のために有期労働契約を利用することも、格別の規制なく許容されており、実際にもよく使われているとして、利用目的を制限していない我が国の有期労働契約法制の基本的在り方にそぐわず、そのあり方を利用した雇用政策を阻害しかねない。無期労働契約の試用期間の法理(合理性と社会通念上の相当性等)は、採用当初から長期雇用システムに入る正社員を採用する場合に関する法理であって、適用類型を異にしているといわざるをえないとしている。

 また、大内著労働法実務講義においても、この最高裁理論の一般化には疑問を呈しておられます。

 水町著労働法においては、契約の期間がどのような法的性質をもつかは個別の契約の解釈の問題であり、その判断は、契約の文言や形式にとらわれず、具体的な事実に即して両当事者の真意を探求することによって行われることを確認した(その結果当該事案には試用法理を適用した)のがこの最高裁の判決といえる。

 いずれにしても、最高裁の判決であり、ないがしろにはできないところであり、試用目的であれば有期労働の期間さえも無期労働契約の試用期間として解釈するとしたことは、使用者が労働者の適格性を判断するために試験的に採用する(=有期労働契約として一旦の採用)可能性に、大きな法的な制約を加えたものであり、実務的にはそのリスクを考えながら行わなければならなくなったのは事実である。

 なお、引用上、「有期労働契約」、「有期雇用契約」とあるが、ここではとくに区別はないので、同じ意味であると理解していただきたい。  

 参考 労働法        菅野著 
    労働法        水町著 有斐閣
    労働法実務講義    大内著 日本法令
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