元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

裁判員の「労基法による公の職務執行でその必要な時間」は会社として拒否できない!!

2021-12-25 15:05:02 | 社会保険労務士
 裁判所は日当支払うが「日当」扱いなので会社の賃金支払いは2重払いにはならない

 裁判員は、刑事裁判が身近に、そして司法の国民の信頼性向上のため、平成21年5月21日から創設された裁判員制度によるもので、成人の国民(*注1)は誰でも選ばれる可能性があるものです。職場の従業員がいつ選ばれても、国民である以上参加協力をするべきものといえます。

 労基法上は、どういう取り扱いになっているかというと、「労働者が公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合は、拒んではならない」となっており、この「公の職務」の中に裁判員は含まれております。すなわち、裁判員の職務執行の時間については、職場の上司であろうと拒んではならないのです。(労基法7条)

 その間の賃金は、どうなるかというと、会社としては会社の仕事はしていないことから、「無給」としてもかまいません。もちろん、有給扱いも会社としてはできることになります。
 というのも、裁判員には、日当として、一日1万円以内、裁判員候補者一日8000円以内の額が支給されます。この日当ですが、どういう性質のものかというと、裁判員として職務を遂行することによる損失(例えば保育料、裁判所に行くための諸雑費等)とされており、裁判員等としての労働の対価としては考えていません。したがって、会社がその日の賃金(=有給扱い)を出しても、給料の2重取りには当たらないとされているからです。
 
 さて、会社の仕事の関係でいうと、原則として、仕事が忙しいという理由だけでは、裁判員は辞退出来ないことになっております。(*注2)裁判員法では、辞退は「その従事する事業における重要な用務」に限られ、重要かどうかは一概に判断できず、会社の規模や行っている事業などから個別具体的に判断することになっています。また、その用務は「自らがこれを処理しなければその事業に著しい損害が生じる恐れがあるもの」されています。これも個別具体的な判断とされていますが、仕事を理由の辞退は非常に限られているといえます。少なくとも単に忙しいということだけでは、辞退はできないことになっております。

 最後に、裁判員休暇については、法律(裁判員法、労働基準法)で定められているとはいえ、従業員にとっては労働条件そのものであるから、就業規則に定めることが必要です。
 「労働基準法・労働契約法実務ハンドブック」に「裁判員休暇」をうまくまとめた規定例が挙げられております。(*注3)
(裁判員休暇)
 第〇〇条 従業員が裁判員法により次の事項に該当し、申請があった場合には裁判員休暇を与える。
      (1)裁判員候補者として通知を受け、裁判所に出頭したとき
      (2)裁判員もしくは補充裁判員として選任を受け、裁判審理に参加するとき
      2 休暇を申請するときは、裁判所から交付される裁判員候補者通知などを添付して申請するものとする。
      3 裁判員休暇は無給とする。

(*注1) 元々は衆議院議員の選挙権を持つものから選ぶ。候補者名簿登載の関係で、18歳・19歳の方が裁判員に選ばれるのは令和5年以降になる。
(*注2) 裁判員の参加は、法的には一応義務付けになっていますが、一応というのは、刑法ではなく行政上の罰(過料)にとどめており、また本文の中で述べたように厳格な条件の下に辞退できることになっています。
(*注3) 同著は、労働契約法・労基法だけでなく労働法の必要な項目(項目別に)が、簡潔に必要不可欠な内容がまとめられています。知識があやふやな場合、項目別に確認するには非常に良い著書です。
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賞与は労基法上は殆ど規定なし(使用者での任意)但し就業規則規定ならそのまま適用

2021-12-18 14:16:56 | 社会保険労務士
 就業規則等には裁量を持たせないと会社の業績が良くないときにも支給しなければならない

  賞与は、大企業においては、支給額から、またいつ出すかには、就業規則に記載するのが普通です。しかし、それほどでない小規模事業所においては今年は出さないとか、その時期も今年年末ギリギリに出すとか、あまり就業規則や労働契約書にちゃんと書けない事業所もあるかと思います。
 
 給料支払いの5原則と言うのは聞いたかと思います。これは①通貨払い(現物給与の禁止)、②直接払い原則(労働本人に直接支払う)、③全額払い、④毎月1回払い、⑤一定期日払いのことですが、賞与については、④⑤は適用になりません。①②③については、支払いについては、ごくごく当たり前のことをいっているにすぎませんので、賞与についても普通に支払えばクリアーする問題です。

 だから、賞与については、賞与を支払うかを含めて、支給対象者、支払い要件・計算方法、支払い時期などのルールは、法律上(労基法)は全く決められてなく、使用者が自由に決めることができるといえます。

 しかしながら、全く支給しない場合には、労働者のモチベーションに大きく影響するかと思われます。そこで、少なくとも支給する可能性がある場合は、賞与について、何らかの就業規則や労働契約書に記載すべきだと思われます。就業規則には、賞与は絶対的に記載しなければならないものではないが、支給する場合には、その記載を行うようになっているところです。(労基法89条)

 ところが、これを大企業並みに、大企業の就業規則を参考に、就業規則等に給与の〇倍、12月10日に払うとかカッチリ書き込んでおくと、使用者の裁量は認められずに、就業規則等どおりの額で必ず支払うハメになってしまいます。

 そこで、背伸びをせずに、賞与はどんなときに出しているか、その額はどういうふうに決めているか、いつまでに出すのか、それをありのままに記載していけば良いと考えます。
 (賞与の支払い方針)
 第19条 賞与は会社の業績により個人ごとの能力を鑑みて支払う。業績によっては支払わうないこともあるものとする。ただし、支給日に在籍しない従業員には支給しないものとする。(サッと作れる零細企業の就業規則)

 いつまでに支払うのか全く書いてないじゃないかと言う方もおられ、あんまりではないかと言う方には、次の就業規則はどうでしょうか。
  賞与は会社の業績、各人の勤務成績、会社の貢献度などを考慮して支給する。ただし、会社の業績状況などにより支給しないことがある。
 2 賞与支給の時期は原則として毎月6月及び12月とする。
 3 賞与の受給資格は賞与支給日の在籍者とする。
   (就業規則モデル条文第2版 中山滋夫)

 大きな企業ではない場合には、賞与の原資もままならないこともあり、これくらいで必要最小限の「賞与」の記載に抑えることにより、従業員には業績によって賞与ありなんとし、会社にはその支給について裁量もありなんとするのが妥当ではないかと思う。

 なお、受給資格の賞与支給日の在職者というのも、重要です。賞与支給日の以前の退職者等は、それまでの勤務成績や功績があるはずだということになり、これを書かないと支給日前の在職者にも支払うハメになってしまいます。
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退職者に対する私物・会社備品を返却なし時(宣誓・就業規則等規定ありだが・・・)

2021-12-12 09:05:37 | 社会保険労務士
 会社の備品が返却されない場合は泣き寝入りか(絶対的対処法はないのか!!)

 退職した者が、私物をそのまま置いたままにしていることもあります。特に、いつのまにか会社に出てこなくなってしまい、そのまま退職してしまったという場合には、特にあり得ます。私物については、価値も分からず本人にとっては大事なものだったということあるでしょう。かってに会社の方で処分すれば、会社が損害賠償の対象になることもあるかもしれないということで、そのままとっておくこともあるでしょう。しかし、そのままずっと処分しないで取っておくというのも置き場所に困ってしまいます。

 第84条 1 就業員は、事業場内に日常携行品以外の私物を持ち込んではならない。(就業規則の法律実務4版石嵜編 中央経済社)

 このように、予防線を張っておくこともできますが、やはりいろんなものを持ってくる人もいます。本人と連絡を取り、持ち帰るよう伝えることがまず必要ですが、連絡がつかない場合もあるでしょう。

 第〇条 従業員が退職または解雇された場合で、私物の返還に従業員本人が受領できない場合、あらかじめ本人が指定した身元保証人又は親族に送付することで返還したものとみなす。(労働基準法・労働契約法の実務ハンドブック 人事・労務編 セルバ出版)

 私物という民法上の「所有物」に対して、就業規則でこのように規定することは、問題があることかもしれませんが、一種の取り扱いのルールとして考えれば、妥当なところかもしれません。

 さて、一方で、退職した者が備品を返却しない場合もあります。この場合も、入社宣誓書や就業規則で、退社の場合に返還するよう定めておくのは常識的なところです。しかし、これも会社に出てこなくなった場合などには、対応しようがありません。最後の取るべき手段は、横領や損害賠償請求の訴えということも考えられますが、それほどの価値ある備品であることもないことも多く、会社が泣き寝入りすることが多いようです。

 退職金を出している会社では、会社が任意に計算できますので、その旨の規定してあれば、返却分相当を差し引くこともできます。しかし、労働者本人が退職金をもらうために、こんな場合は、会社との連絡等ができている場合がほとんどなので、この規定が活きることはないのかもしれません。

 なお、健康保険証の返還不能にあっては、健保協会等の保険者へ回収不能届をその旨提出すれば認められます。

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配転命令(転勤・職務変更)の有効性=3つの権利の濫用にあたらないことが必要

2021-12-05 09:21:23 | 社会保険労務士
 厚生労働省「労働条件に関する総合情報サイト」で東和ペイント事件を総括して基本的方向性を出す

  配転命令とは、同じ企業内で職務場所(転勤)や職務の内容が変わること(職務変更)を言いますが、これについては、東亜ペイント事件で最高裁まで争われ、包括的な一定の結論がなされているようです。厚生労働省は、この裁判を整理し、配転命令が無効とならないチェックポイントとして、次のような2つのものを示しています。

 ① 就業規則に、業務上の都合により転勤や配置転換を命じることができる旨が定められており、実際にこれに基づき転勤が頻繁に行われ、雇用契約で勤務地や職種が限定されていない場合には、企業は労働者の同意なしに転勤や配置転換を命じることができます。
 ② 転勤や配置転換命令について、A業務の必要性がない場合、B不当な動機・目的が認められる場合、C労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等特段の特段の事情がある場合は、その転勤や配置転換命令は権利の濫用にあたると考えられます。

 国の方で判例をまとめたもので、判例よりはやさしい文章で書かれてはいます。これをさらに言い換えます。
 配転は、勤務地限定社員や職種限定社員には一般的には認められないことから、この限定社員を除くと、就業規則で転勤・配置転換(以下「配転」という。)ができる旨が定められ実際も配転がよく行われている場合は、個々の労働者の同意なしに配転命令は有効になる。
 ただし、権利の濫用とされる場合として、上記の②のA、B、Cの3つのケースを挙げ、これに該当しない ことが配置転換が有効な条件となる。

 3つのケースについては、前の2つ、A業務の必要性がない場合(※注※) B不当な動機・目的がある場合では、会社側が恣意的に故意的に行う場合ですので、これは経営者の方で戒めればクリアできる問題です。3つ目の労働者の甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合とは、程度問題でなかなかむずかしい判断です。ただ、家族に病人などを抱え自分が転勤しなければならないとなると家庭の維持が困難となるような場合ですので、これも従業員の家庭の都合などを考えて、会社側が運用していれば問題はないように思えます。

 結局、適正な手続きを行った配転命令は、現在考えられている3つのケースである権利の濫用にあたらない限り、配転命令は有効と考えられます。でも、いくら有効でも、会社側が強引に配転命令を行うことは、トラブルの原因となります。組織の活性化や本人の業務へのマンネリ化を防ぐ意味が配転にはありますので、そこらを十分従業員に納得させないと、社員のモチベーションにはつなげられません。
 しかしながら、会社側がいくら誠意も持って対応したとしても、中には従わない者いるでしょう。これに対処しないければ職場の雰囲気に悪影響を与えます。そんなときには、手続きを踏んだ上で、退職勧奨や解雇等の懲戒処分を検討しながら行っていくこともやむを得ないでしょう。 

 (※注※)高度の必要性は要しなく、経営上の観点からの異動であればよいとされる。

 
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