元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

ノース・ウェスト航空事件最高裁判例は賃金と休業手当に伴う「使用者の責の事由」の意味が違う点で対照性あり

2016-11-26 17:52:35 | 社会保険労務士
 休業手当の「使用者の責に帰すべき事由」は民事上の過失責任とは違い経営上障害を含む⇒その意味するところは菅野著労働法にて納得<ノース・ウェスト航空事件判例>

 ノース・ウェスト航空事件の最高裁判例は、ストライキに参加しなかった同じ組合員の賃金請求権の有無のリーディングケースとしてだけでなく、同じ「使用者(債権者)の責に帰すべき事由」という表現でありながら、労働者に賃金全額の請求権がある場合賃金請求権民法536条2項)と平均賃金の60%以上の休業手当請求の場合休業手当の請求労基法26条)のその要件である「使用者の責めに帰すべき事由」の範囲が違うという対照性に注意すべき判例である。

 民法536条2項の賃金請求権とは、「債権者(ここでは「使用者」である)の責めに帰すべき事由」によって、債務を履行(ここでは労働者が「労働の提供」すること)ができなくなったときは、債務者(ここでは「労働者」)は反対給付を受ける権利を失わない(ここでは「労働者の賃金請求権」が、依然として、あるということ)としたものである。一方、労基法26条は、「使用者の責めに帰すべき事由」に基づく休業の場合に、使用者は労働者に対して平均賃金の60%以上の休業手当の支払いをしなければならないとしている。

 そこで、民法の536条2項の「賃金請求権」の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則である民法上の「過失責任の原則」であって、「故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由」であるのに対し、休業手当の「使用者の責に帰すべき事由」とは、この民法上の過失責任である故意・過失等よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むとされているところである。
 
 従って、賃金請求権の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」(より狭い意味)であれば、労基法26条の休業手当(より広い意味での{使用者の責}である)60%に加えて、民法536条2項により残りの40%の請求が可能ということである。(池貝事件・横浜地判平成12.12.14)

 改めてこの事件の概要を言うと、Y社の下請け化の方針に反対して東京都区の組合員でストを決行した。同じ組合の組合員Xらは沖縄・大阪支店に勤務していたが、このストのため、Y社は運行本数を大幅に減便せざるを得なくなり、運行がなくなった沖縄・大阪の空港の従業員Xらに休業を命じ、その間の給料を支払わなかった。これに対し、Xらは賃金請求と予備的に休業手当の支払いを求めたものであるが、最高裁は、対象範囲の違うそれぞれの「使用者(債権者)の責」のいずれにも該当しないということで、賃金請求、休業手当権利のどちらも認めなかった。

 「使用者(債権者)の責」という同じ表現ながら、この相違がなかなか私には、しっくりこなかったが、菅野著労働法を見て、やっと納得した次第である。

 もともと、休業手当は、当初「労働者の責に帰することのできない事由」による休業の場合における労働者の最低生活の保障を図るとの構想で提案されたものであったが、不可抗力の場合まで使用者の義務を広げるのは適当ではないとの指摘により、結局「使用者の責に帰すべき休業」に限定して立法化されたとしている。(菅野著労働法) つまり、不可抗力を除く「使用者の責」の意味であって、民法でいう過失責任とは異なる観点を踏まえた概念(ノース・ウエスト航空事件)なのである。

 そのうえで、次のように、(今まで述べてきたところと重複する部分はあるが)菅野著労働法では述べている。

 『休業手当の保障における「責めに帰すべき事由」は、*民法536条2項の賃金請求権の有無の基準である「責めに帰すべき事由」(「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」と解されている。)よりも広く、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しない限りはそれに含まれる、と解するのが妥当である。要するに、休業手当は、労働者の最低生活を保障するために、民法により保障された賃金請求権のうち平均賃金の6割にあたる部分の支払いを罰則によって確保したにとどまらず、使用者の帰責事由を拡大した。すなわち、民法においては「外部起因性」及び「防止可能性」の2要件を満たして使用者の責めに帰すべきでないとされる経営上の障害であっても、その原因が使用者の支配領域に近いところから発生しており、したがって労働者の賃金生活の保障という観点からは、使用者に平均賃金の6割程度で保障をなさしめた方がよいと認められる場合には、休業手当の支払義務を認めるべきである。』
 
 休業手当の場合の「責めに帰すべき事由」の具体例は、故意、過失による休業はもちろんのこと、機械の検査、原材料の不足、流通機構の不円滑による資材の入手困難、監督官庁の勧告による操業停止、親会社の経営難による資金・資材の獲得困難(昭23・6・11基収1998号)がある。裁判例としては、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む全業務量の8割を占める得意先の労働争議により、自社が業務停止となった場合であっても休業手当をまぬがれる事由にはならないとしたものがある。(扇興運輸休業手当金請求事件・熊本地八代支決昭37.11.27)
 
 (参考)
 労働法第11版 菅野和夫著 弘文堂
 労働法第2版  林弘子   法律文化社
 最重要判例労働法 大内伸哉著 弘文堂


 *「民法536条2項の賃金請求権」; 著書では「反対給付請求権」となっているが、一部引用のため前後関係が分からないため、このように言いなおした。
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使用者のその個人の死亡/労働者自身の死亡により労働契約は終了<労働契約上の地位は一身専属的>

2016-11-19 17:03:22 | 社会保険労務士
 ただ、個人事業主の死亡によりその相続人が営業を継続するときは労働契約は存続しているとの地裁判例もあるが・・・

 労働契約の終了には、大まかに分けると、(1)使用者からの一方的な契約の解約=いわゆる「解雇」と(2)労働者からの一方的な解約=いわゆる「辞職」と(3)使用者と労働者双方の合意による解約=合意解約があるが、これとは別に、労働契約当事者の「消滅」によって労働契約が存続しなくなる場合がある。企業は、法人格を有する場合があり、解散等により法人格がなくならない限り、企業の法人格は存続することになる。しかし、自然人である場合は、企業はその個人の死亡により、労働者の場合は労働者本人自身の死亡により、労働契約上の地位は一身専属的なもの(その人のみの権利義務)と考えられているので、相続の対象とはならずに、労働契約は終了するとされている。(エッソ事件・最2小判平成元・9・22) 

 わざわざこの個人の死亡による労働契約の終了を持ち出すのは、一般的には、労働者あるいは個人企業の本人の死亡により、労働契約は継続することなく、終了してしまうというのが現実的な帰結であるから、ここで改めて、個人の死亡によって労働契約は終了するというのを認識するのも必要かと思った次第である。 

 ただ、地裁の裁判では、個人事業主がなくなっても、相続人が営業を継続する場合には、相続人と労働者の間には労働契約が存続しているというものもある。(小料理屋「尾婆伴」事件・大阪地決平成元・10・25)

 しかし、この場合は、「死亡した個人事業主の相続人が従業員とともに事業を承継し営業を続けているのであり、新しい個人事業主である相続人と従業員との間で黙示の労働契約が成立していると認められることが多いであろう」(府中おともだち幼稚園事件ー東京地判平成21・11・24参)と菅野著労働法では言っているが、そう考えるのが現状の解釈からいって適当であろう。
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歴史は「因果」で動いてる(三谷幸喜著の「いくさ上手」から)<特に人間関係は重要だが職場においても同様>

2016-11-10 17:57:42 | 社会保険労務士
 ウマの合わない上司には徳川家康のようにじっと時を待つ(人事異動)のもありうるかも・・・

 NHKの大河ドラマ(2016年)の著者である三谷幸喜氏には、2人の恩師がいるが、そのうちの一人である=自分が勝手に恩師だと思っているともしているが=野呂先生と言う方がいて、高校で日本史を教わったそうだ。自分が歴史好きになったのは、この先生のおかげであるとし、その先生が最初の授業の日に「歴史の勉強といえば年号の暗記だと思っているかもしれないが、年号は年表をみればいい。それよりもその出来事がなぜ起こったのか、それを考えることが重要」といい、「物事には必ず原因と結果がある。歴史はその繰り返しである」とおっしゃったそうである。

 著者にも、そんな先生にあっていたら、もっと歴史が好きになっていたかもしれない。それはさておき、歴史は「因果」で動いている例ということで、氏は関ヶ原の戦いを挙げる。以下三谷幸喜の「いくさ上手」からそのまま引用するが、「小早川秀秋が裏切ったので(原因)、石田三成は負けた(結果)。石田三成が負けたので(原因)、西軍に就いた薩摩の島津や中国の毛利が敗軍の将となった(結果)。島津や毛利が敗軍の将となったので(原因)、彼らは徳川家康に恨みを持った(結果)。それによって、彼らは250年にわたって、ずっと徳川を恨み続け、やがて薩摩藩から西郷さん、毛利からは桂小五郎が現れ、薩長同盟が結ばれ、徳川幕府は瓦解。つまり、ざっくりいえば、関ヶ原の戦いがあったから(原因)、明治維新が起きた(結果)。小早川秀秋がいなければ、日本の歴史は大きく変わっていた」というのである。氏自身、決して目立った生徒ではなかったし、先生とほとんど会話をしたことはなかったが、先生の米寿のお祝いで会った際に、自分を覚えてくださったという。歴史はすべて「因果」によって動いているというその先生の教えに従って、今、三谷氏は大河ドラマを書いているという。

 さて、歴史においては、因果関係の中でも特に大きな影響を与えるものがあるように思う。インフォーマルな人間関係である。もっと端的に言うと、人の好き嫌いである。そのインフォーマルな人間関係が原因となって、歴史の流れという結果が決まるものも多いように思う。明智光秀と織田信長は性格の違いから、ウマがあわずそれが光秀が謀反と引き起こす元となったともいわれているし、一方、木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)はというと、機転の良さ等で織田信長との信頼を築いていき出世をし、天下人を引き継いだ。家康は天下人だった豊臣秀吉とは争わずにしれっとして当たらずさわらずの姿勢で、誰もいなくなった秀吉亡き後「大御所」として徳川の長期政権を築いたのである。

 この原因となる人間関係は職場にもいえることで、ウマがあう上司であれば信頼関係の良さに影響して、それが上司が行う仕事の評価(人事考課 *注1)にも影響することにもなるのだからたまらない。付き合い方をよくしようとしても、上司と部下の関係が明智光秀と織田信長のような関係であったなら、それはもともとウマが合わないのだから、それはむずかしいと言わざるを得ない。どうしても、うまくいかない上司というのもいるものだ。そんなときは、「人事異動」というある期間が立つと分かれられる時期が来るのを待つしかない=徳川家康のように。私もその渦中にいるときはいつまでもこれが続くように思えた時期があったが、今退職して振り返るとなんのことはない。長い長い奉公生活のほんの一瞬であるし、結果的に、そういう時期があったことはある意味人生のプラスだったのかなとも思える日が来る。今もがいているあなた、長い人生、長い目でみれば、必ず転機は訪れるはずである。

 参考 三谷幸喜のありふれた生活14 「いくさ上手」 2016年9月30日第1版発行 朝日新聞出版
 注1 人事考課は原則使用者の裁量であるとされるが、使用者には査定を公正に評価する義務があるとする説も有力である。人事考課に基づく人事権の行使が裁量権を逸脱したことになると、無効とされる。しかし、裁判ではこの人事権の裁量権の幅は相当広く解釈されるので、人事権の濫用とするには困難が伴い、人事権に対して物申すのは本当に難しい。
 
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労働基本権(三権)は公務員には制限<最高裁は合憲とするがILO条約により違反指摘>

2016-11-05 18:11:49 | 社会保険労務士
 公務員の職員の種類によって労働基本権が認められる範囲が異なっている<特に消防職員はILO条約から問題となっている> 
 
 憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動する権利は、これを保障する」となっており、労働者の労働基本権が保障されている。地方公務員も労働基本権の保障は、この意味の「勤労者」には変わりはなく、具体的な内容としては、団結権、団体交渉権及び争議権の労働三権が保障されているはずである。しかしながら、現行法においては、その公務ゆえの特殊性から、これら労働三権が認められる範囲は、職員の種類に応じ、それぞれその範囲が異なるとはいえ、制限されているところである。筆者が地方公務員法に関与していた関係から、地方公務員について述べるが、国家公務員についても、職員の種類に応じそそれぞれに制限されており、対象となるのが類似の職員であれば、同様の規制となっている。(下記の<公務員の職員対象別の労働権の態様>を参照のこと)

 1、一般の行政事務に従事する職員及び教育職員
 労働組合法の適用はなく、地方公務員法という地方公務員制度を一般的に規定する法律によって、この「団結権」は規定されており、そこでは名称が「労働組合」ではなく、「職員団体」を組織することができるとされている。なぜ名称が違うかというと、地方公共団体の当局と交渉はできるが、「労働協約」は締結することはできないとされている。労働条件は基本的には地方公務員法によって規定されているところであり、自分たちで(=労働者及び使用者)自分たちの協議により任意に規制することになる「労働協約」を締結することはできないとされている。それゆえに、団結権は保障されているが、労働協約については、締結することはできないのである。さらに、市民生活に支障が生じるだろうところの争議権は禁止されている。
 2、警察職員及び消防職員
 これについては、公共の秩序と安全を維持するという特殊性とこの職務を遂行するためには高度の規律の保持が要請されることから、団結権は認められていないし、団体交渉権を行使することは認められていない。それゆえ、当然争議権は認められていない。
 3、地方公営企業の職員および単純労務職員
 これは、その従事している職務の内容が民間企業の労働者と類似していることから、争議権を除く労働基本権については、民間企業の労働者とほとんど変わらない取り扱いとなっている。すなわち、労働組合法に基づく労働組合を組織することが可能であり、さらに当局と交渉を行い、その結果を労働協約に反映することができるのである。しかし、これらの職員であっても、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する立場があり、争議権は認められていない。
 
 以上のように、職員の種類に応じて制限の程度はあるが、地方公務員法等の法律によって労働三権が制限されているところであって、これが憲法28条に違反するかについては、最高裁は職務の公共性と代替措置の存在(給与等勤務条件の改定について勧告する人事委員会の設置、同委員会に対する勤務条件に関する措置要求・不利益処分に対する審査請求等)を理由に、違反しないと判断している。(全農林警職法事件・最高裁昭和48.4.25、全逓名古屋中郵事件・最高裁昭和52.5.4) いずれにしても、これは、立法政策上の問題として捉えられるものと考えられる。

 しかし、ILOの条約を批准していることから、特に、消防職員は、条約が明文で労働権の適用除外を認めている警察及び軍隊の構成員とはいえないので、地方公務員法52条5項で消防職員の団結権が否定されているのは、第87号条約(結社の自由及び団結権保護条約)に違反するとILOの監視機構の指摘がある。また、2008年の第97回ILO総会基準適用委員会は「公務員に第87条条約上の権利を確保し、消防職員に当局の干渉なしに団結する権利を保障する必要を想起する。委員会は政府に対し、当面、消防職員組合の事実上の承認を進め、彼らが適切な協議及び交渉に参加できるように督励する」としている。

 そこで、2010年に設置の総務省の「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」は、同年12月に報告書で5つの制度案を示したところである。 

 国家公務員の例であるが、公務員の労働基本権については、諸討議の結論として、2008年に「政府は、条約締結権を付与する範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解の基に、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置する」ことといった項目を含んだ「国家公務員法改革基本法」が国会に提出されたが、2012年に審議未了で廃案となった。このように労働基本権の付与に関して、公務員法の改革の基本法案がようやく出されたが、これも廃案となり、以後そのままになっている。

 参考 労働法 第2版 林弘子著 法律文化社                   (引用部分が多くあるが編集省略等の責任は筆者にあるゆえ)
    地方公務員制度(現代地方自治全集7)田中基介 ぎょうせい(昭和53年発行)(引用部分が多くあるが編集省略等の責任は筆者にあるゆえ)

 
<公務員の職員対象別の労働権の態様>
 法律            対象                           団結権 団体交渉権 争議権
 国家公務員法        警察、刑事施設、海上保安庁職員         ×    ×    ×
   〃             非現業一般職員                     ○    △    × 
 特労法*1      林野事業及び特定独立行政法人(印刷局、造幣局等) ○    ○    × 
※地方公務員法        警察、消防職員                     ×    ×    ×
※  〃             非現業一般職員                     ○    △    ×
※地公労法*2        現業職員、単純労務職員               ○    ○    ×
 自衛隊法           防衛省職員                        ×    ×    ×

 ※は地方公務員関係 何もないのは国家公務員関係

 *1=定独立行政法人等の働関係に関する
 *2=営企業等の働関係に関する
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