関連判例の整理~休業手当相当額は控除不可(ただし賞与等は別)・賃金支払対象期間と「時期的に対応する」中間収入のみ
解雇は、権利濫用に当たる場合は、無効となり(労契法16)、従前の労働契約がそのまま存続することになるので、労働者は解雇訴訟においては「労働契約上の権利を有する地位の確認」を請求することになる。それとともに、労働者は、解雇訴訟において解雇期間中の未払い賃金の請求もできることになる。
民法536条2項(前段部分) 債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務を履行する(労働の提供をできなくなった)ことができなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金の請求)を失わない。
労働させるのは使用者だから、ここでは債権者であり、債権者の責めによって労働の提供ができなくなった債務者=すなわち労働者は、賃金の請求権を失わないことになる。
では、例えば、タクシー運転手が違法に解雇(=権利濫用の解雇)されて、この解雇された期間中に他の会社に雇用されて収入を得ていた場合にはどうなるのか。この収入は一般的に「中間収入」と呼びます。
民法536条2項(後段部分) この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者(前段と同様に、この場合は「使用者」である)に償還しなければならない。 タクシー運転手が他の会社に雇用されて得た収入=中間収入が「自己の債務を免れたこと」によって得た「利益」に該当する場合は、その額は使用者に償還しなければなりませんが、その全額でしょうか。どの程度の償還をしなければならないのか。また、償還と言うめんどうな手続きを踏まずとも、違法な解雇期間に支払わなければならないことになった賃金との「相殺」を行ってはいけないのか。
このあたりの判例について、うまく簡潔に整理をしたのがありましたので、そこから以下にそのまま安直に引用します。(両角他著労働法P211、有斐閣)
判例はこの問題を以下のように処理した。
①中間収入は、それが副業的なものでない限り、民法536条2項にいう償還の対象となる。
②使用者は解雇期間中の未払賃金額を支払うにあたり、中間収入額を控除することができる。すなわち、未払い賃金債務と中間収入償還分の債権を相殺してもよい(労基法24条1項の「賃金の全額払いの原則」の違反とはならない。)
③ただし、この控除の対象と出来るのは、賃金の支払対象期間と「時期的に対応する」期間についての中間収入のみであり、かつ未払い賃金額のうち平均賃金(労基12条1項)の6割に達するまでの部分(注1)については当該控除の対象とすることができない。 ここで、(注1)の「平均賃金の6割に達する部分」というのは、労働基準法26条の休業手当相当額のことである。使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者は、絶対的に、平均賃金の6割の休業手当を支払わなければならない(最低生活保障のため)という強制法規があるので、この額の部分については、中間収入といえども控除できないとしている。(米軍山田部隊事件・最二小判昭和37.7.20)
労基法12条1項 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
④賞与など平均賃金算定の基礎に算入されない未払い賃金がある場合には、6割までという制限なしにその全額が中間収入との調整対象となる。(以上、あけぼのタクシー事件・最高裁)
平均賃金の算定の基礎に算入されないものとして、見舞金等の「臨時に支払われた賃金」や賞与等の「3か月超の期間に支払われる賃金」がある。それゆえ、この賞与等については、その全額が中間収入との調整の対象(=控除の対象)となるのである。
労基法12条4項 3か月の賃金総額を3か月の総日数で割るが、賃金総額には、臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない
⑤賞与については、その支給日が属する月の中間収入をそこから控除することができる。(いづみ福祉会事件・最三小判平18.3.28労判933号12P)
⑤は要するに賞与についてはその支給日が属する月を③にいう「時期的に対応する」期間とする立場であるが、学説上は賞与の算定対象期間を基準とすべきであるという見解も有力である。
解雇は、権利濫用に当たる場合は、無効となり(労契法16)、従前の労働契約がそのまま存続することになるので、労働者は解雇訴訟においては「労働契約上の権利を有する地位の確認」を請求することになる。それとともに、労働者は、解雇訴訟において解雇期間中の未払い賃金の請求もできることになる。
民法536条2項(前段部分) 債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務を履行する(労働の提供をできなくなった)ことができなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金の請求)を失わない。
労働させるのは使用者だから、ここでは債権者であり、債権者の責めによって労働の提供ができなくなった債務者=すなわち労働者は、賃金の請求権を失わないことになる。
では、例えば、タクシー運転手が違法に解雇(=権利濫用の解雇)されて、この解雇された期間中に他の会社に雇用されて収入を得ていた場合にはどうなるのか。この収入は一般的に「中間収入」と呼びます。
民法536条2項(後段部分) この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者(前段と同様に、この場合は「使用者」である)に償還しなければならない。 タクシー運転手が他の会社に雇用されて得た収入=中間収入が「自己の債務を免れたこと」によって得た「利益」に該当する場合は、その額は使用者に償還しなければなりませんが、その全額でしょうか。どの程度の償還をしなければならないのか。また、償還と言うめんどうな手続きを踏まずとも、違法な解雇期間に支払わなければならないことになった賃金との「相殺」を行ってはいけないのか。
このあたりの判例について、うまく簡潔に整理をしたのがありましたので、そこから以下にそのまま安直に引用します。(両角他著労働法P211、有斐閣)
判例はこの問題を以下のように処理した。
①中間収入は、それが副業的なものでない限り、民法536条2項にいう償還の対象となる。
②使用者は解雇期間中の未払賃金額を支払うにあたり、中間収入額を控除することができる。すなわち、未払い賃金債務と中間収入償還分の債権を相殺してもよい(労基法24条1項の「賃金の全額払いの原則」の違反とはならない。)
③ただし、この控除の対象と出来るのは、賃金の支払対象期間と「時期的に対応する」期間についての中間収入のみであり、かつ未払い賃金額のうち平均賃金(労基12条1項)の6割に達するまでの部分(注1)については当該控除の対象とすることができない。 ここで、(注1)の「平均賃金の6割に達する部分」というのは、労働基準法26条の休業手当相当額のことである。使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者は、絶対的に、平均賃金の6割の休業手当を支払わなければならない(最低生活保障のため)という強制法規があるので、この額の部分については、中間収入といえども控除できないとしている。(米軍山田部隊事件・最二小判昭和37.7.20)
労基法12条1項 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
④賞与など平均賃金算定の基礎に算入されない未払い賃金がある場合には、6割までという制限なしにその全額が中間収入との調整対象となる。(以上、あけぼのタクシー事件・最高裁)
平均賃金の算定の基礎に算入されないものとして、見舞金等の「臨時に支払われた賃金」や賞与等の「3か月超の期間に支払われる賃金」がある。それゆえ、この賞与等については、その全額が中間収入との調整の対象(=控除の対象)となるのである。
労基法12条4項 3か月の賃金総額を3か月の総日数で割るが、賃金総額には、臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない
⑤賞与については、その支給日が属する月の中間収入をそこから控除することができる。(いづみ福祉会事件・最三小判平18.3.28労判933号12P)
⑤は要するに賞与についてはその支給日が属する月を③にいう「時期的に対応する」期間とする立場であるが、学説上は賞与の算定対象期間を基準とすべきであるという見解も有力である。