最高裁の神戸広陵事件後も地裁の判決では有期労働契約の雇止めとしての判断も!!
使用者は、労働者の採用後に、試用期間と称して、3か月から6か月程度の期間をおいて、「正社員」になる前に、社員としての適格性を見きわめることが多い。この試用期間であるが、本来、長期雇用システムにおける新規学卒者の採用(ゆえに、なにかない限りは原則定年までず~っつと勤めるのを前提)という、いわゆる期間の定めのない労働契約(=無期雇用契約)を締結後に、「正社員」になる前の実際使用しての職務能力や適格性を見る実験観察期間であるとされているところのものである。そのため、適性等が見られなかったときは、既に無期雇用契約を結んでいるため「解雇」となるのであるが、「通常の解雇」よりも「広い範囲において解雇の自由が認められる」としており、この試用期間は、解雇権が留保された期間(解雇権留保期間)であるとされている。しかしながら、そうはいうものの、何度もいうようですがすでに無期労働契約を結んでいるため、「解雇は解雇」でありこの解雇を行うためには、一定の理由が必要(客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認できる場合にのみ許される。)であるとされている。
それならばということで、この適性等を把握するための期間を有期労働契約とするやり方が行われている。これは、有期契約期間を過ぎれば、そのまま雇止めとなるし、適性と判断すれば、改めて正社員として雇うということになるということになる。
これについて、次のような最高裁の判例が出されている。
私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用期間に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する合意が成立しているなどの特段の事情が認められない限り、この期間は契約の存続期間(=有期雇用契約期間)ではなく、期間の定めのない労働契約下の試用期間(無期雇用契約における試用期間)と解すべきである。(神戸広陵学園事件、最三小判平2、菅野著労働法)
簡単に云うと、試用目的の有期労働契約は、期間満了による契約の終了についての明確な合意が成立していなければ、その期間は無期雇用契約の試用期間と解釈され、有期雇用契約を前提とした「期間満了により契約終了」(=雇止め)はできないというのである。無期雇用契約の試用期間であれば、この場合の契約の解約は「解雇は解雇」であり、一定の理由(合理性と社会通念上の相当性)が少なくとも必要になるのである。
しかし、この最高裁判例が出された後でも、使用目的の有期労働契約であっても、有期労働契約期間として、期間満了による雇止めを判断(有効あるいは無効)した裁判例が見受けられます。同じ中学・高校の常勤講師の例です。(久留米信愛女学院事件・福岡地・平成13・有効、報徳学園事件・神戸地・平成20・無効)、さらに、バス運転手の研修目的の有期労働契約の締結と研修終了後に適性等の判断したものであって、この契約を「契約社員の労働条件で労働契約を締結している」と解したものなどもあります。(奈良観光バス事件・大阪地・平成23)
これらは、どのような場合に「無期労働契約の試用期間」なのか、あるいは「試用目的の有期労働契約」とするかは、これらの裁判例から区別することは難しいでしょう。
この最高裁の判断に対して、菅野著の労働法がいうように、我が国の労働法制においては、有期労働契約の目的は格別規制されておらず、適性判断や正規従業員の養成のために有期労働契約を利用することも、格別の規制なく許容されており、実際にもよく使われているとして、利用目的を制限していない我が国の有期労働契約法制の基本的在り方にそぐわず、そのあり方を利用した雇用政策を阻害しかねない。無期労働契約の試用期間の法理(合理性と社会通念上の相当性等)は、採用当初から長期雇用システムに入る正社員を採用する場合に関する法理であって、適用類型を異にしているといわざるをえないとしている。
また、大内著労働法実務講義においても、この最高裁理論の一般化には疑問を呈しておられます。
水町著労働法においては、契約の期間がどのような法的性質をもつかは個別の契約の解釈の問題であり、その判断は、契約の文言や形式にとらわれず、具体的な事実に即して両当事者の真意を探求することによって行われることを確認した(その結果当該事案には試用法理を適用した)のがこの最高裁の判決といえる。
いずれにしても、最高裁の判決であり、ないがしろにはできないところであり、試用目的であれば有期労働の期間さえも無期労働契約の試用期間として解釈するとしたことは、使用者が労働者の適格性を判断するために試験的に採用する(=有期労働契約として一旦の採用)可能性に、大きな法的な制約を加えたものであり、実務的にはそのリスクを考えながら行わなければならなくなったのは事実である。
なお、引用上、「有期労働契約」、「有期雇用契約」とあるが、ここではとくに区別はないので、同じ意味であると理解していただきたい。
参考 労働法 菅野著
労働法 水町著 有斐閣
労働法実務講義 大内著 日本法令
使用者は、労働者の採用後に、試用期間と称して、3か月から6か月程度の期間をおいて、「正社員」になる前に、社員としての適格性を見きわめることが多い。この試用期間であるが、本来、長期雇用システムにおける新規学卒者の採用(ゆえに、なにかない限りは原則定年までず~っつと勤めるのを前提)という、いわゆる期間の定めのない労働契約(=無期雇用契約)を締結後に、「正社員」になる前の実際使用しての職務能力や適格性を見る実験観察期間であるとされているところのものである。そのため、適性等が見られなかったときは、既に無期雇用契約を結んでいるため「解雇」となるのであるが、「通常の解雇」よりも「広い範囲において解雇の自由が認められる」としており、この試用期間は、解雇権が留保された期間(解雇権留保期間)であるとされている。しかしながら、そうはいうものの、何度もいうようですがすでに無期労働契約を結んでいるため、「解雇は解雇」でありこの解雇を行うためには、一定の理由が必要(客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認できる場合にのみ許される。)であるとされている。
それならばということで、この適性等を把握するための期間を有期労働契約とするやり方が行われている。これは、有期契約期間を過ぎれば、そのまま雇止めとなるし、適性と判断すれば、改めて正社員として雇うということになるということになる。
これについて、次のような最高裁の判例が出されている。
私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用期間に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する合意が成立しているなどの特段の事情が認められない限り、この期間は契約の存続期間(=有期雇用契約期間)ではなく、期間の定めのない労働契約下の試用期間(無期雇用契約における試用期間)と解すべきである。(神戸広陵学園事件、最三小判平2、菅野著労働法)
簡単に云うと、試用目的の有期労働契約は、期間満了による契約の終了についての明確な合意が成立していなければ、その期間は無期雇用契約の試用期間と解釈され、有期雇用契約を前提とした「期間満了により契約終了」(=雇止め)はできないというのである。無期雇用契約の試用期間であれば、この場合の契約の解約は「解雇は解雇」であり、一定の理由(合理性と社会通念上の相当性)が少なくとも必要になるのである。
しかし、この最高裁判例が出された後でも、使用目的の有期労働契約であっても、有期労働契約期間として、期間満了による雇止めを判断(有効あるいは無効)した裁判例が見受けられます。同じ中学・高校の常勤講師の例です。(久留米信愛女学院事件・福岡地・平成13・有効、報徳学園事件・神戸地・平成20・無効)、さらに、バス運転手の研修目的の有期労働契約の締結と研修終了後に適性等の判断したものであって、この契約を「契約社員の労働条件で労働契約を締結している」と解したものなどもあります。(奈良観光バス事件・大阪地・平成23)
これらは、どのような場合に「無期労働契約の試用期間」なのか、あるいは「試用目的の有期労働契約」とするかは、これらの裁判例から区別することは難しいでしょう。
この最高裁の判断に対して、菅野著の労働法がいうように、我が国の労働法制においては、有期労働契約の目的は格別規制されておらず、適性判断や正規従業員の養成のために有期労働契約を利用することも、格別の規制なく許容されており、実際にもよく使われているとして、利用目的を制限していない我が国の有期労働契約法制の基本的在り方にそぐわず、そのあり方を利用した雇用政策を阻害しかねない。無期労働契約の試用期間の法理(合理性と社会通念上の相当性等)は、採用当初から長期雇用システムに入る正社員を採用する場合に関する法理であって、適用類型を異にしているといわざるをえないとしている。
また、大内著労働法実務講義においても、この最高裁理論の一般化には疑問を呈しておられます。
水町著労働法においては、契約の期間がどのような法的性質をもつかは個別の契約の解釈の問題であり、その判断は、契約の文言や形式にとらわれず、具体的な事実に即して両当事者の真意を探求することによって行われることを確認した(その結果当該事案には試用法理を適用した)のがこの最高裁の判決といえる。
いずれにしても、最高裁の判決であり、ないがしろにはできないところであり、試用目的であれば有期労働の期間さえも無期労働契約の試用期間として解釈するとしたことは、使用者が労働者の適格性を判断するために試験的に採用する(=有期労働契約として一旦の採用)可能性に、大きな法的な制約を加えたものであり、実務的にはそのリスクを考えながら行わなければならなくなったのは事実である。
なお、引用上、「有期労働契約」、「有期雇用契約」とあるが、ここではとくに区別はないので、同じ意味であると理解していただきたい。
参考 労働法 菅野著
労働法 水町著 有斐閣
労働法実務講義 大内著 日本法令