元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

業務上の精神障害による自殺は正常な認識等の著しい阻害によるものがあり労災法の「故意」の死亡には該当せず。

2017-07-22 17:45:25 | 社会保険労務士
 労働者が故意に死亡等・直接の原因となった事故を生じさせたときは、労災給付を行わない<労災法12条の2の2第1項>

 労働者であれば、正規であろうと非正規であろうと関係なく、また、労働者に過失があるなしにかかわらず、労災事故に遭ったときには、いわゆる「労働災害=労災」として扱われ、使用者の加入している労災保険(=労働者災害補償保険法)100%でみてくれることになる。ここで、労災事故と言うのがポイントで、業務災害の認定を労働基準監督署によって受けなければならず、これがいわゆる「業務上」と判断「業務起因性」があるかどうか」)されるかどうかがカギとなるのである。

 ただし、労災と判断されたとしても、労災保険から支給されないことがあり、それは「労働者が、故意に負傷・疾病・傷害・死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は保険給付を行わない」場合である。<労災法12条の2の2第1項>

 自殺は、とりもなおさず、自らの死を招くものであり、「故意」ではないかということが問題となり、以前は、業務上の傷病により精神障害となり心神喪失の状態になって自殺したのであれば、本人の故意によるものとはいえないとされた。一方で理路整然とした遺書を書いて自殺した場合は、心神喪失状態とはいえないことから、故意による死亡として労災不支給とされていた。

 しかし、裁判は、自殺であっても、業務を原因としてうつ病等が発症した場合には、その病態として自殺行為が出現する蓋然性が高いと医学的にも認められていることから、労災法12条の2の2第1項の故意に当たるわけではないとし、自殺であっても業務起因性を認める例がでてきた。こうした裁判の動向や社会情勢の変化の中で、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平成11.9.14)が出されたのである。
 要は、業務上に係る自殺の場合は、必ずしも労災法12条の2の2の故意とするのではなく、あくまでも総合的な判断であるが、病態としての自殺が出現する蓋然性が高く<*注1>、原則として業務起因性を認めるとしたものである。以下に、そのまま原文で、同指針の内容を挙げるので、参考にしていただきたい。

 <故意であるかないかについて
 業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。(基発第545号 平成11年9月14日)

 <精神障害による自殺について、業務起因性があるかどうか
 ICDー10のF0からF4に分類される多くの精神障害では、精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから、業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が阻害され、または自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性が認められる。
 ただし、上記の精神障害と認められる事案であっても、発病後治療等が行われ相当期間経過した後の自殺については、治癒の可能性はその経過の中での業務以外の様々な心理的負荷要因の発生の可能性があり、自殺が当該疾病の「症状」の結果と認められるかどうかは、さらに療養の経過、業務以外の心理的負荷要因の内容等を総合して判断する必要がある。
 なお、上記以外の精神障害にあっては、必ずしも一般的に強い自殺念慮を伴うとはいえないことから、当該精神障害と自殺の関連について検討を行う必要がある。(基発第544号 平成11年9月14日 「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」から)

 参考 ICD10の精神・行動の障害分類
  F0 症状性を含む器質性精神障害
  F1 精神作用物質使用による精神及び行動の障害
  F2 統合失調症等及び妄想性障害
  F3 気分(感情)傷害
  F4 神経性障害、ストレス関連傷害及び身体表現性障害
  F5 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
  F6 成人の人格及び行動の障害
  F7 知的障害(精神遅滞)
  F8 心理的発達の障害
  F9 小児(児童)期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害、詳細不詳の精神障害

 *注1 ただし、ICD10による精神・行動の障害分類によっては、自殺の出現する蓋然性が必ずしも高くないものもある。高いのはF0~F4までである。
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