元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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労基法対象外の家事使用人とは「用語(文理解釈)」でなく論理解釈すべき<適用除外範囲は厳格に解するが相当>(東京地裁H25)

2022-05-21 10:03:46 | 社会保険労務士
 家事使用人であっても指揮命令等把握が容易・家庭の私生活自由の保障の観点から支障がなければ労基法の適用あり

 労働基準法は、一般的にいえば、労働者を保護するために作られた法律であるということができる。そこで、適用になる労働者の範囲であるが、労基法116条では、労働者であっても、「家事使用人」にはこの労働基準法を適用しない旨を定めている。家族内の問題について、労働基準監督署などの行政監督や刑事罰をもって国家が監督や規制を行うことは適当ではないと考えられたからである。「家事使用人」とは、家事一般に従事するために使用される者をいうが、従事する作業の種類、性質のいかん等を考慮して、個別具体的には決定すべきものとされる。法人に雇われるものであっても、その役職員の家庭においてその家庭の指揮命令下で家事一般に従事しているものは家事使用人に当たるものだし、個人家庭における事業として請け負う者に雇われて、ぞの事業者の指揮命令の下で家事を行う者は、家事使用人には当たらないととしている。(例規解釈例) ここまでの例では、労働基準法を適用すべきかどうかは、その「家庭」の指揮命令に服しているかということになるかということで区分できるとは思う。

 さて、ここで、なぜ家事使用人を労基法の適用から除くのかをより明確に整理された判例として、地裁の判例であるが「医療法人衣明会事件」がある。(東京地裁平成25年9月11日)この判例は、Y社に雇用・その代表者個人宅でのベビーシッターの業務を行っていたXらが、割増賃金支払い等を求めて提訴した事件であるが、その前提として、労働基準法の家事使用人であるかどうかが争われた事件である。再度確認すると、労働基準法の家事使用人であれば、労働基準法上の適用はないことになり、労基法に基づく時間外労働賃金の未払い云々はもともとないことになる。判例はおおむね次のように述べている。

 家事使用人について、労働基準法の適用が除外されている趣旨は、家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため、その労働条件について、これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服しめることが実際上困難であり、その実効性が期しがたいこと また 私生活と密着した労働条件等についての監督・規制を及ぼすことが、一般家庭における私生活の自由の保障との調和上、好ましくないとの配慮があったものと解される。
 しかしながら、家事使用人であっても、本来的には労働者であることからすれば、この適用外の範囲については、厳格に解するのが相当である。したがって、一般家庭において家事労働に関して稼働する労働者であっても、その従事する作業の種類、性質を勘案して、その労働条件や指揮命令等の関係を把握することが容易であり、かつそれが一般家庭における私生活の自由の保障と必ずしも密接に関係するものではない場合には労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないというべきである。

 すなわち、繰り返しになりますが、家事使用人が適用対象外になったのは、家庭まで入り込んで労基法を規制することが困難であり、私生活の自由の保障からいっても好ましくないとの考え方によるので、家事使用人であっても本来的には労働者であることからすれば、労基法適用外の範囲を厳格にすべきといっている。それゆえ、これらの労基法の規制することの困難性等が取り除かれれば(労基法の適用が容易・一般家庭の私生活の自由の観点)、労基法を適用すべきと述べている。

 この事件の内容であるが、まずこの争われた「ベビーシッター」と一般的な「家事使用人」の業務について、明らかにしておきたい。ベビーシッターといっても、確かに、この事例では、基本的には1歳女児のそばを離れずその世話をするのであり、付随する食事準備、洗濯、各所幼児教室への送迎等が中心であったが、洗濯・ゴミ出しは幼児だけのものではなく家庭全部のものだったし、リビング、キッチン、トイレなどについては簡単な掃除をしていた。ただし、週一回は専門の掃除業者が入るし、食事は派遣料理人がいる。要するに、この「ベビーシッター」の業務は、ベビーシッターの業務を中心とするものであり、その程度は、広く家事一般にかかわる家事使用人よりは限定的であったものであるが、その内容はA家における私生活上の自由にかかわるものであったのである。

 さて、このベビーシッターは、労働契約を締結、24時間を2交代または3交代制でシフトを組んで行うものであり、その労働時間の管理については、タイムカードにより管理されていた。そして、これにより、医療法人であるY社を介して給与支払いに反映されていたのであって、Xらの労働条件や労働の実態を外部から把握することは比較的容易であったということができ、Xらの労働が家庭内で行われていることにより、そうした把握が特に困難になる状況はうかがわれない。さらに、Xらベビーシッターに対する指揮命令は、親であるA夫妻が主として行っていたが、各種マニュアル類の整備がされ、連絡ノートの作成や月1回程度の会議も行われており、そうした指揮命令が、もっぱら家庭内の家族の私生活上の情誼(人との付き合う上での人情や誠意)に基づいていたともいい難い。そうすると、Xらについては、その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが外部から把握することが比較的容易であり、かつ、これを把握することが、A家における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいい難いというべきであるから、Xらを労働基準法の家事使用人と認めることができないというべきである

 この裁判は、労働基準法116条において、家事使用人を労働基準法の適用除外としたため問題となったものであるが、家事使用人においても同じ労働者であり、私生活の自由と労基法を適用する技術的観点の阻害要件がなくなれば、家事使用人に対しても、直ちに労基法を適用すべしとしたこと(この裁判では、「労基法適用除外の範囲については、厳格に解するのが相当」としている。)にあり、単に「家事使用人」に該当するかいなかということではなく、論理解釈により、労働基準法の対象を広げたものといえよう。
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