態勢の問題だけではなく町の重大問題の認識があれば対応は早く可能に!!
南伊勢町で3年前までの7年間に亘って給与の計算ミスがあって、職員約40人の「賞与」が誤って支給。過大に支給し時効が成立していない約400万円につき職員に返還を求めているとのこと。(2023年3月1日付発表・報道まとめ)
◎ 町によると、2013年6月から2020年6月までの7年間に、育児休業や病気で休んだ職員、約40人に賞与の計算ミスがあり、多く、あるいは少なく支給されていたとのこと。 ◎ 過大支給は合計約600万円、このうち約400万円(約25人)については、まだ時効が成立していないので、対象職員に返還を求めたところ、返還に応じる意向とのこと。 ◎ 過少の支払いは合わせて約220万円(約10人分)。過少に支払った分については時効が成立しているため、追加支給はしないとのこと。 ◎ 町は2020年 12月、この計算を誤った担当職員を懲戒処分した。 ◎ 2020年12月に賞与を支給する際に、後任の担当職員が誤りに気付く。計算を誤った担当職員が点検・再計算をすることになったが終わらず、部署異動後も続けていて公表が今になったということらしい。
担当職員の懲戒処分は当然としても、2020年12月に間違いに気づいたのに、町の公表が今に(2023年3月1日公表)なったのは、なぜだろう。前担当職員が異動後も再チェックしていたというのであるから、そうなったのであろうが、この問題(働く職員の給与支給であること、時効が現在も進んでいるという点など)が重大という認識はなかったのか。例えば、給与計算をしていた経験者はさかのぼれば多くいたはずであり、町全体で事に当たれば、もっと早く処理ができたはずである。また、こういったことが発生しないような町の態勢の問題があるように思う。複数のチェック体制や異動期間(長期間同じ部署にいること)の問題も指摘せざるを得ないのだ。
ところで、この事案は時効が絡んでいるのだが、過少支払いの方は、すでに時効が成立したといっているにもかかわらず、過大支給はまだ時効が成立していないものもあるとしているが、この違いは何だろうという気がしませんか。また、時効期間が経過しても、過少の支払いを受けた職員としてはもらっていないものであれば、町が「時効」だと言わない限り(時効の援用)、もらえるのではという気になりませんか。
これは、過大支給と過少申告に分けて考える必要がありそうです。まず過大支払いの場合です。地方自治法236条によれば、地方公共団体の金銭債権又は金銭債務については、他の法律の定めがないものは、5年間これを行使しなければ時効により消滅すると定められています。(※注1※) 自治体の公的な債権ですから、この規定に基づいて5年間は時効にかからず請求できるわけです。記事によれば、600万円のうち400万円が時効にかかっていなかったことになります。
次に過少支払いの場合です。これは、労働者への支払い=「賃金」の問題として、労働基準法が適用になります。先ほどあげた地方自治法236条には、他の法律の定めがある場合には、こちらの法律が優先的に適用になるとしておりますので、労働基準法の定める賃金の時効が適用となるわけです。また、地方公務員法においては、地方公務員であっても労働者の勤務条件については、労働基準法が適用することになっていますので、これから言っても、労働基準法の賃金の時効が適用になるわけです。この未払い賃金の時効ですが、従来はずっと2年でしたが、2020年4月1日以降に支払われる賃金については、3年となっています。(ただし、法律の本文では5年ですが、経過措置として「当分の間」は3年ということになっていますので、まだしばらくは3年となりそうです。) ゆえに、労働者からの賃金の請求権は、労基法により2年又は3年となるわけです。これにより町発表によれば、時効により職員への追加支給はしないとなったものと思われます。
ところで、地方自治法236条2項によれば、この時効については、「時効の援用を要しない」となっております。時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が時効の完成を主張することである。民法によれば、過少支払いの場合には、利益を受ける町の方が「時効によって、未払い賃金分は支払わないよ」といわなければなりませんが、その時効の援用を要せず、絶対的に時効期限が来れば、そのまま時効になるといっています。賃金支払いにあっては、労働者から見れば労基法上の時効「賃金の支払い」ですが、町からみれば「地方公共団体に対する金銭債務」であり「公債権」の問題であり、地方自治法236条2項が適用になりますので、これに基づき、時効の援用は要せずに、時効が成立(※注2※)するのです。
私的な債権の場合は、例えば金の貸し借りにおいて、時効期間が過ぎても、相手が返したならそのまま受け取ることができ、「いやあれは時効だよ」と相手に言われれば、その時点から時効は成立することになります。しかし、公債権の地方自治法236条2項によれば、時効期間が過ぎれば、時効の援用を要せず、そのまま時効が成立することになるのです。
地方自治法(公債権)と賃金の時効の適用の違い(公債権5年・賃金2・3年の時効)によって、時効が来ているのとまだ来ていないところですが、これが、どうもしっくりこない原因のようです。実は、賃金の時効については、前述のとおり、労働基準法の改正は、本来は従来2年から5年になったところですが、経過措置として「当分の間」は3年となっています。考えるに、従来は2年の時効だったのが、特に時間外の未払い賃金の問題があって、これを5年にすることには、困難を伴うことがあって、経営者と労働者の綱引きにより調整されたのが、このようになったものであると思われます。
(※注1※) ただし、公法ではなく「民法上の不当利得返還請求」(名古屋地裁平成23年11月20日判決、平成22年(ワ)第2973号、裁判所webサイト)であるとされたものがあります。本文では、旧自治省時代から「公法の自治法による」との考え方はあるので、これによった。
(※注2※) ただし、もちろん時効の中断・停止がなければの話である。
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