元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

採用内定辞退の労働者への使用者からの損賠賠償は一般的には発生しない!!

2017-04-22 17:51:49 | 社会保険労務士
 使用者と労働者では内定辞退の適用法令が違う<経済・情報量差/労働契約法と民法一般原則の適用>
A君はB社に採用内定をいただいていたが、後から受からないだろうと思っていた第一志望のC社から内定をもらったので、B社に対して内定の辞退を申し出たところ、B社の担当者から「誓約書も書いているし、今更内定辞退と言ったってね、採用試験等に要した費用にいくらかかっていると思っているの、損害賠償してもらうからね。」といわれました。A君は内定辞退の損害賠償をしないといけないか。
 結論から申し上げると、内定辞退については、労働者からは2週間の猶予期間は必要ですが、いつでも辞退は可能で、一般的には損害賠償責任は発生しません。

 確かに、内定の法的性格は労働契約が成立していると解することが一般的になっており、使用者側からの内定取り消しについては、労働契約の解除(=雇用する者からの一方的な解除は「解雇」といいいます。)となり、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となります。さらに、そういった使用者の恣意的な内定の取り消しは、契約が成立している以上、使用者の誠実義務違反となり債務不履行の問題となりますし、また採用されるという労働者の期待権の侵害となり不法行為の問題となってきますので、労働者からは損害賠償請求ができることになります。

 しかし、逆に労働者からの内定の辞退の申し出についてはどうでしょう。一般的に労働契約が成立しており、その契約の解除と言う点では使用者の場合と変わりませんが、今度は労働契約法にはなんら規定がありません。そこで、「契約自由の原則」である民法に戻り、解約の自由を謳った民法627条の規定により、労働者からの労働契約の取り消しについては、少なくとも2週間の予告期間をおく限り、いつでも自由にできることになります。それゆえ、一般的には、労働者に損害賠償責任は発生しません。ただし、それがあまりにも信義則に違反するような状態で労働契約の解除がなされたとかの場合のみ、例外的に労働者の契約責任やときには不法行為責任の問題になると考えられます。

 それでは、使用者と労働者では、このように法律の適用が違っており、使用者側の内定の取り消し(すなわち使用者からの契約解除=解雇)については制限規定があり、労働者からの内定辞退(すなわち労働者の労働契約の解除)については、自由に契約解除ができるのでしょうか。具体的に考えると、労働者にとっては、内定までいって取り消しというのは、すでに他の会社の採用について募集に応じるのは時すでに遅しで他の採用に応じるのが困難な状況ということを考えると分かると思います。労働者と使用者の立ち位置について、企業側にとってはの競争企業との争いがあるとはいえ、経済的かつ情報量の差が労働者と使用者の間には使用者企業の方が優位にありますので、使用者の内定取り消しについて、制限の規定を設けたものでしょう。

 採用するB社にとっては、せっかく優勝なA君を逃したくないということは分かりますし、採用の計画がくるってしまい、改めて採用を行うならさらなる費用もかさみますので、腹立ちまぎれに損害賠償をというも分かります。しかし、企業側はそこは織り込み済みのところもあり、調整していかなければならないところもあると思われます。そこでは、すでに採用にコストがかかった分をA君が払う必要はないと思われます。裁判になっても、法律上の考え方については、上に述べたとおりですので、A君に対する損害賠償については認められないと思われます。それでも、裁判まではいかずとも、脅かしのためか損害賠償を請求してくる企業もあるようです。(大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A・石田眞他著・旬報社) A君としては、学校の就職センターや労働基準局・監督署の総合労働相談センター等に相談してみましょう。
 
 参考 菅野著労働法 両角他労働法 
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