松山櫨(はぜ)復活奮闘日記

失われてしまった松山櫨の景観を復活させようと奮闘していく日々の記録。

櫨の品種と未来

2008-05-24 18:39:59 | 復活奮闘日記
昨日の続きです。
和ろうそくを毎回同じような条件で作っても、
ろうそくが流れたり、流れなかったりする原因を解明したいと
近江手作り和ろうそく大與の四代目・巧さんが
櫨蝋に一番詳しい荒木製蝋の正義さんにお聞きしました。

「それは品種のせいじゃなかろうか。」と正義さん。

一口に櫨といっても、様々な品種があります。
一般的に使われているのが伊吉櫨、昭和福櫨、ぶどう櫨なのですが
実は現在、櫨蝋メーカーに集まってくる櫨の実は、
きちんと品種別に集められるわけではありません。

櫨蝋業が盛んだった頃は、純粋な特定品種のみで櫨蝋が作られていました。
しかし近代以降、石油に押された櫨蝋屋が
次々と廃業に追い込まれていくと、
櫨蝋屋と契約していた櫨農家との関係が絶たれ実がちぎられなくなったり、
再び実をちぎるようになっても、櫨農家が品種を把握できなかったりして、
次第にどの櫨がどんな品種なのか特定できなくなっていったのです。
現在では品種などお構いなく、ほとんど雑多な品種が混じったまま、
同じ袋に集められています。

上記の画像は昭和福櫨のみの生蝋です。
画像ではちょっとわかりにくいんですが、
若干、右と左の色合いが違っていました。
これも他の品種が少々混じっていて、
その割合によって色味が変わったのではないかということです。

下の画像を見てください。

真ん中の生蝋は葡萄櫨。鮮やかな黄緑色です。
右二つと上左は、伊吉櫨のみの生蝋です。
上左は非常に美しい緑色ですが、右の上下は黒ずんでいます。
これもおそらく他の品種と混じり合って
黒くなってしまったのではないかと推測されています。

色だけならともかく、流れる流れないという関係は
品種による融点の違いもありました。
伊吉櫨は若干高く、昭和福櫨は低いため、
昭和福櫨が多く入っていると、流れやすくなってしまいます。
その割合を把握できればいいのですが、
純粋でない生蝋では、正確な計測ができなくなっています。

最終的な和ろうそくの品質を最高のものにするためには
品種別に櫨の木を特定し、集めて行かなくてはなりません。
現在では、積み木が崩れたように櫨がバラバラになっているので、
それを構築していくのは大変な時間と労力がかかるでしょう。

ちなみに下左が、たった一つしかない貴重な「松山櫨」のみの生蝋です。
すでに時間が経っているので脂肪酸が白く粉を吹いていますが、
こすってみると美しい色合いをしていました。
この「松山櫨」の生蝋を再び作るためには
より多くの松山櫨の実だけを集めなくてはなりません。

伊吉、昭和福、松山、葡萄と、
それぞれの純粋な品種のみで作られた櫨蝋を、
将来、再び生産することができた時、
衰退している櫨蝋業の復活に光が射すことになるのでしょう。

そんな日がいつ来るかはわかりませんが、
この品種別の生蝋を見ていると
櫨の未来が開示されているような気がしてなりません。

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