藤原書店のサイトには「すべての常識を疑い、社会や歴史の見方を根底から問い直す」ということばが巻頭に掲げられています。宣伝誌の『機』もそれをまさに体現するものです。実に知的でハイレベルです。新書版大、32頁に出版物の情報はもとより、著者の随想や関連記事が満載されています。頒価100円は儲けものです。
藤原社長は『機』にかける思いを次のように語っています。
■藤原書店 PR誌『機』の誕生(「日本の古本屋」より)
編集長 藤原良雄
小出版社にとって、PR誌を出すことは、“夢”である。 学生の頃――今から四十数年前のことだが――『未来』(未來社)や『図書』(岩波書店)を定期購読していた。価格も手頃だし、中に面白いエッセーもあり、新刊案内もわかるといった一石二鳥どころか三鳥も四鳥もあるものであった。
(中略)
藤原書店を創立後すぐに、隔月で『機』を創刊し始めたが(一九九〇・四)、スタイルはこのスタイルを踏襲した。当初は一六頁。次いで二四頁、それから現在の三二頁。もうこれ以上大きくなると、書物の形が崩れてしまう。毎月、二万部位作っているが、心ある読書人から、この『機』の記事についてのコメントをいただくと、やはり無理をしてでも、これまで約三〇年余作ってきた甲斐があったなと、つくづく思う昨今である。
最近の『機』の内容は次のようです。連載も数本抱えて、どこから読もうかと迷うばかりです。
【2021年2月号 目次(藤原書店オフィシャルサイト)】
■〈特集〉故・森繁久彌さんの予言
アニサキス 森繁久彌
森繁久彌さんの予言 桑原聡
■大規模なワクチン接種が始まる今、必読の書
ワクチン いかに決断するか 西村秀一
■経済は、生命をどう守るのか!? 緊急出版!
パンデミックは資本主義をどう変えるか R・ボワイエ
■米アカデミズムは今、中国をどう見ているか
いま、中国の何が問題か? M・ソーニ
■新渡戸稲造と渋沢栄一 草原克豪
■第16回 河上肇賞 受賞作決定
■〈寄稿〉今、なぜブルデューか?
『グロテスク』と『ディスタンクシオン』 加藤晴久
教育における不平等 宮島 喬
〈リレー連載〉近代日本を作った100人83「石黒忠悳」 笠原英彦
〈連載〉歴史から中国を観る14「遊牧民の戦争」 宮脇淳子
沖縄からの声Ⅺ―3(最終回)「「夢幻琉球・つるヘンリー」から」 ローゼル川田
今、日本は22「人間尊重主義」 鎌田慧
花満径59「高橋虫麻呂の橋(16)」 中西進
アメリカから見た日本14「破滅的前大統領の後始末をする就任式」 米谷ふみ子
『ル・モンド』から世界を読むⅡ―54「マルタ産本マグロ」 加藤晴久
1・3月刊案内/読者の声・書評日誌/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想
次は『機』に連載を書かれている鎌田慧さんのコラムです。
◆人間は自然の一部だ
効率一辺倒は、生きものには合わない
鎌田 慧(ルポライター)
たまたま、生命誌研究者・中村桂子さんの講演を聞く機会があった。
「地球上の全生物は祖先を一つにする仲間であり人間(ヒト)もその中
に含まれる」「現存の生物はすべて38億年の歴史をもつ」「人間は
生き物であり、自然の一部である」
長い時間と多様な生き物たち。この広い視野から、わたしは自分を
見直すことはなかった。「万物の霊長」などと威張り、自然を征服する
などといって、破壊してきたのが人間の歴史だ。微細な生き物への
愛おしい視線が石牟礼道子さんの作品と重なる。早速、『中村桂子
コレクション3 かわる』を入手した。
「傍若無生物」という言葉があった。「傍若無人」のように、ほかの
生き物に対して、勝手に振る舞う行為は自然という仲間を失う。
原発事故、新型コロナ、二酸化炭素の増大などの元凶だ。
「原発は絶対安全」「原発では事故が起きない」。なぜこの技術だけ
が決して事故が起きない、といい切ってきたのか。
科学者、技術者が自分も生活者としての視点で、自分が関わる科学や
技術を評価せず、被害者のことを考えていなかった。
効率一辺倒は、生きものには合わない。生きるということは過程
そのものであり、結果だけを求めることは、いのちをないがしろに
することにつながる。
いま、差し迫った状況だからこそ、中村さんの主張が
耳に入りやすい。
(4月27日東京新聞朝刊21面「本音のコラム」より)
藤原社長は『機』にかける思いを次のように語っています。
■藤原書店 PR誌『機』の誕生(「日本の古本屋」より)
編集長 藤原良雄
小出版社にとって、PR誌を出すことは、“夢”である。 学生の頃――今から四十数年前のことだが――『未来』(未來社)や『図書』(岩波書店)を定期購読していた。価格も手頃だし、中に面白いエッセーもあり、新刊案内もわかるといった一石二鳥どころか三鳥も四鳥もあるものであった。
(中略)
藤原書店を創立後すぐに、隔月で『機』を創刊し始めたが(一九九〇・四)、スタイルはこのスタイルを踏襲した。当初は一六頁。次いで二四頁、それから現在の三二頁。もうこれ以上大きくなると、書物の形が崩れてしまう。毎月、二万部位作っているが、心ある読書人から、この『機』の記事についてのコメントをいただくと、やはり無理をしてでも、これまで約三〇年余作ってきた甲斐があったなと、つくづく思う昨今である。
最近の『機』の内容は次のようです。連載も数本抱えて、どこから読もうかと迷うばかりです。
【2021年2月号 目次(藤原書店オフィシャルサイト)】
■〈特集〉故・森繁久彌さんの予言
アニサキス 森繁久彌
森繁久彌さんの予言 桑原聡
■大規模なワクチン接種が始まる今、必読の書
ワクチン いかに決断するか 西村秀一
■経済は、生命をどう守るのか!? 緊急出版!
パンデミックは資本主義をどう変えるか R・ボワイエ
■米アカデミズムは今、中国をどう見ているか
いま、中国の何が問題か? M・ソーニ
■新渡戸稲造と渋沢栄一 草原克豪
■第16回 河上肇賞 受賞作決定
■〈寄稿〉今、なぜブルデューか?
『グロテスク』と『ディスタンクシオン』 加藤晴久
教育における不平等 宮島 喬
〈リレー連載〉近代日本を作った100人83「石黒忠悳」 笠原英彦
〈連載〉歴史から中国を観る14「遊牧民の戦争」 宮脇淳子
沖縄からの声Ⅺ―3(最終回)「「夢幻琉球・つるヘンリー」から」 ローゼル川田
今、日本は22「人間尊重主義」 鎌田慧
花満径59「高橋虫麻呂の橋(16)」 中西進
アメリカから見た日本14「破滅的前大統領の後始末をする就任式」 米谷ふみ子
『ル・モンド』から世界を読むⅡ―54「マルタ産本マグロ」 加藤晴久
1・3月刊案内/読者の声・書評日誌/刊行案内・書店様へ/告知・出版随想
次は『機』に連載を書かれている鎌田慧さんのコラムです。
◆人間は自然の一部だ
効率一辺倒は、生きものには合わない
鎌田 慧(ルポライター)
たまたま、生命誌研究者・中村桂子さんの講演を聞く機会があった。
「地球上の全生物は祖先を一つにする仲間であり人間(ヒト)もその中
に含まれる」「現存の生物はすべて38億年の歴史をもつ」「人間は
生き物であり、自然の一部である」
長い時間と多様な生き物たち。この広い視野から、わたしは自分を
見直すことはなかった。「万物の霊長」などと威張り、自然を征服する
などといって、破壊してきたのが人間の歴史だ。微細な生き物への
愛おしい視線が石牟礼道子さんの作品と重なる。早速、『中村桂子
コレクション3 かわる』を入手した。
「傍若無生物」という言葉があった。「傍若無人」のように、ほかの
生き物に対して、勝手に振る舞う行為は自然という仲間を失う。
原発事故、新型コロナ、二酸化炭素の増大などの元凶だ。
「原発は絶対安全」「原発では事故が起きない」。なぜこの技術だけ
が決して事故が起きない、といい切ってきたのか。
科学者、技術者が自分も生活者としての視点で、自分が関わる科学や
技術を評価せず、被害者のことを考えていなかった。
効率一辺倒は、生きものには合わない。生きるということは過程
そのものであり、結果だけを求めることは、いのちをないがしろに
することにつながる。
いま、差し迫った状況だからこそ、中村さんの主張が
耳に入りやすい。
(4月27日東京新聞朝刊21面「本音のコラム」より)