後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔519〕後期ゴシック彫刻を歩く④ チェコのアダモフまで足を伸ばした甲斐がありました。

2022年11月08日 | 美術館・博物館鑑賞
 ブログ〔480〕で、この秋のドイツ回遊でとりわけ拝観したい祭壇をピックアップしておきました。チェコのアダモフとオーストリアのマウアの祭壇です。植田重雄さんの遺品のドイツ語文献に写真入りで紹介されていて初めて私が目にしたものです。いずれも1度見たら忘れられない強烈なインパクトのある祭壇でした。そこでは本の写真の一部を紹介していますのでご覧ください。

 この2つの祭壇が何処にあるのか、ネットでの探索が始まりました。
 マウアは比較的簡単に見つかりました。オーストリアのリンツ近くの小さな町です。祭壇の映像がネットにアップされていたので間違いありません。
 もう1つの祭壇を特定するのには難儀しました。Zwettlというオーストリアの地名が登場するのですがどうもここにはなさそうなのです。最終的に見つけ出したのは緑でした。 Zwettl祭壇というだけあって元はZwettlに置かれていたのですが、修復の関係があって現在はチェコのアダモフにあるということのようなのです。アダモフはチェコの第2の都市ブルノからさらにバスで行くような人里離れたところにありました。ウィーンを起点にすると3時間以上かかったでしょうか。
 10月7日(金)、このアダモフに着くだけで実は大冒険でした。チェコはユーロではありません。チェコの現金がないのでどきどきでしたが、バスの券がカードで買えてほっと一安心でした。ドイツ語も英語も話せないバスの運転手が、身振り手振りで親切にバス乗り場を教えてくれました。

 アダモフの教会と緑はネットで連絡を取っていて、閉館日にかかわらず祭壇を拝観させてくれたのです。約束の時間に若い女性が教会の鍵を開けてくれました。
 堂内に導かれて絶句しました。左側にお目当ての祭壇が屹立していたのです。大人の背丈の三倍はあるでしょうか。巨大なものでした。
 緑は三脚を使い一眼レフで、私はデジカメで夢中でシャッターを切りました。 
 そのごく1部を紹介しましょう。







 登場人物の表情が実にリアルで個性的です。人によってはグロテスクと言われかねない独特の表現です。しかし神々はあくまで崇高で美しい。こんな祭壇今まで見たことありません。
 ぐるぐる巻いているのは蛸の足ではなく、どうやら雲の表現だということが緑のパンプレットの解読でわかってきました。主題はマリアの昇天です。場面は雲で三層に分かれています。下界がマリアの昇天に驚く12使徒たち、中界はマリアと彼女を支える天使たち、上界は神々と天使たちとなっているようです。蟹の足のように見えるのは聖母子像によく登場する三日月だそうです。



 撮影終了後、他では得がたい20頁ほどのパンフレッと絵はがきを買って、若干のお礼をして教会を後にしました。帰りのバスや列車、ホテルに帰ってからもアダモフの衝撃や興奮は一向に収まりませんでした。

〔518〕「憲法審査会ウオッチング 再開 衆院 10.27」貴重な西崎典子さんの報告です。

2022年11月06日 | メール・便り・ミニコミ
 西崎さんの憲法審査会ウオッチングです。「持続する志」を見習いたいと思います。

◆衆院 憲法審 10.27 まとめ

傍聴者の西崎典子です。
遅くなりましたが前国会と同じく、知り合いのみなさまにBCCでお届けします。

【前書き】

*傍聴すると審議の最前線が見えます。みなさまも議事堂へ行きませんか?

*改憲派に対抗するのに「憲法9条を守れ」を叫ぶだけでは不十分です。

 他のテーマ、特に緊急事態条項や国民投票法やネット規制についても是非フォローしましょう。


第210臨時国会に入り本格的な審議を伴う審査会が久しぶりに開かれました。

統一教会や国葬の問題の渦中で、周囲の人達ともども開催はまだあとかと思っていたので、

驚きでした。



■10.27は自由討議とされ各委員が選んだテーマを話しました。

旧統一教会の問題があっても改憲派は前通常国会と同じく攻勢に出ています。



◇旧統一教会と国葬の問題について

立憲は上記テーマに絞った審議を要望したが、自由討議にされて、

下記の2委員が関連発言をしました。また赤嶺委員(共産)も「統一教会」について述べます。



〇階猛委員(立民)議事速報p.12上ー下

「統一教会対策を審査会でも調査事項とするように会長に要請する。

また、与野党問わず旧統一教会との政策協定への署名の有無の調査を行うよう森会長に要請する」。

 ⇒これについて森会長は終了時点で「幹事会等において協議をいたします」と答えた。



〇米山隆一委員(立民)p.15中-16中

審査会に初登場で、国葬問題をとりあげ、憲法上の論点を審査会で議論し、立法で解決する方向になるものと考えると述べる。

 (注、初発言のせいか、わりにおとなしく思える)。

〇赤嶺政賢委員 p.8中~9中

大筋は次のとおり。ポイントを押さえた発言です。ぜひ議事速報ですべての部分をお読みください。

「改憲のための議論ではなく、憲法の原則に反する政治を正す議論が大切。

統一教会と政治の癒着を問うべき」

「自民党候補者が教会側との間で国政選挙に際して推薦確認書を交わしていた事実は重大」

「改憲運動についても、国際勝共用連合は2017年に自民党の改憲項目に酷似した改憲項目を提起していて問題だ」

「ジェンダー問題でも自民党の政策に統一教会の影響があったのではないか」等々。



◇与野党の筆頭幹事の発言

〇新藤筆頭幹事 p.1~2上

 「緊急事態における議員任期の延長は喫緊の課題で、速やかに取り組むべし」

 (注、同主旨の発言を多くの改憲派の委員が述べた。ここから改憲への突破を狙う?)。

 「公選法並びの3項目を反映させる国民投票法改正案は趣旨説明が終わっている。

速やかに審議を行うべし」。

(注、このあと北側一雄委員も「(同改正法案について)速やかに成立を図るべき」と述べた p.6中)。

「放送CMは政党側の自主的取り組みと国民投票協議会の広報活動について詰めて行きたい。

ネットCMその他のネット情報もネット事業者の意見を聞いて議論していきたい」



〇中川正春 新筆頭幹事(立憲) p.2下~4上

 「新しい体制でのスタートなので、審査会の運営について所見を述べる。

具体的な憲法改正案を審査会に持ち込んで、その案に対する賛否を問うということであってはならない。

審査会は全会派の一致点を追求していく努力をする、合意形成の場でなければならない。

憲法についても新しい課題は(…)国民的な議論に広く展開していくことが重要だと考える。

…と、原則、あるべき姿を述べた。



◇他の主だった発言

〇馬場伸幸 幹事(維新)p.4上~5上

じっくり審議をすることを主張する中川幹事とは正反対の急がせて煽る発言でした。

「通常国会では16回の実質審議の場が持たれた。(…)この流れは断ち切ってはならない。

(…)悠長に意見の発表会をやっている場合ではない。

改憲項目を絞って、国民投票をいつ実施するのかゴールを定めるべき。

…各党の皆様には遅くも来年の通常国会には、憲法改正項目を当審査会で示すよう求めます。

立憲民主党の方々には、論じるだけでなく、前に踏み出していただきたい」。

「…共産党の志位委員長によると、我が党は9条改憲の突撃隊だそうです。

かつて毛沢東主席は…『日本共産党はマルクス・レーニン主義思想によって武装した突撃隊だ』と称賛した」

云々と志位委員長を揶揄する発言をした。


いつものことだが、審査会の委員にふさわしい素養もなさそうで、

異なる意見の相手は見下す粗放さだった。最後は

「(自民党が改憲をリードしないなら)日本維新の会が突撃隊となって改憲論議を引っ張っていく覚悟」と締めくくった。


〇玉木雄一郎幹事(国民民主)p.6下~7下

「憲法9条について、自民と維新の改憲案による改正後の自衛隊は戦力あるいは軍隊なのかどうか、聞きたい」。

 ⇒これについては両党とも目新しい回答はなかった‘(p.8上、中)。

「自衛隊が対外的には軍隊だが、国内的には実力組織であるといった、ガラパゴス的議論に終止符を打つ必要がある」



最後に

〇森会長「この討議の取り扱いについては、与野党の筆頭間で協議しているので、

今後については、これを踏まえ、幹事会等において対応をいたしたいと思います」と締めくくる。

              議事速報 以上


〔517〕後期ゴシック彫刻を歩く③ ハンス・ブリュッゲマンの祭壇のスケールの大きさは遙かに想像を超えていました。

2022年11月06日 | 美術館・博物館鑑賞
 日本で初めて「リーメンシュナイダー」を冠して出版された単行本は植田重雄さんの『神秘の芸術-リーメンシュナイダーの世界』(新潮社、1976年)でした。その本を絶版とし、面目を一新して世に送り出されたのが『リーメンシュナイダーの世界』(恒文社、1997年)です。この本を頼りに「リーメンシュナイダーを歩く」旅を福田緑と私は続けてきました。さて、この本の「後期ゴシックの芸術」に次のような一節がありずっと気になっていました。
 「北ドイツのシュレスヴィッヒのボルデスホルマーには、ハンス・ブリュッゲマンによる十字架祭壇が建立された。高さ十二メートル六十センチの巨大なものである。祭壇彫刻以外に教会内部をかざる聖者彫像も活気を呈し、独特なものが生まれつつあった。」(18頁)

  ところでこのシュレスヴィッヒはデンマークに近く、気楽に立ち寄れるところではありませんでした。しかし今回、ロストックに住むヨーラ・ヘルビック夫妻に問い合わせたところ、快く連れて行ってくれることになったのです。ちなみに、彼らの家には三泊させてもらうことになりましたが、エルンスト・バルラハの足跡を辿ることとシュレスビッヒに行くことが大きな目標でした。
 9月14日(水)、ロストックから車で2時間走ってキールへ、さらに1時間でシュレスヴィッヒに着きました。。

  ブリュッゲマンの祭壇を見て圧倒されました。







 あまたの祭壇を見てきた私たちですが、これだけの規模の祭壇に出合ったのはクラクフのマリア祭壇以来でした。こちらは著名なファイト・シュトースの代表作です。しかし不思議なのはこれだけの大祭壇が日本ではどうやら紹介されていないようなのです。
  教会で私が欲しくてたまらないような本を売っていました。祭壇がはっきり明確にわかる写真と祭壇の情報、作者の略歴と作品について書かれたものです。(表紙は祭壇の一場面、裏表紙はボーデ博物館の天使像)



◆『Bordesholmer Altar(1521)』 und die anderen Werke von Hans Brüggemann Text von Jan Friedrich Richter 2019年 B5判、64頁

 この本によると、この祭壇は35の場面や聖人像で構成された「立体絵巻物」の感を呈しているのです。シュレスヴィッヒから比較的近いカルカーの祭壇が(福田緑写真集第Ⅲ巻に掲載)下部のプレデラを除けば一場面が人物と馬の群像で覆われているのとは好対照です。
 さらに私に興奮を誘ったのは、作者ブリュッゲマン作品群です。キリストを肩に乗せたクリストフォロスの像がこの教会にあったことです。大人の二倍もあるような大きな像でした。



 ブリュッゲマンの作品はシュレスヴィッヒの州立博物館や、ブレーメン、コペンハーゲン、スウェーデンなどにも点在しているそうです。とりわけコペンハーゲンのゲオルク像はリーメンシュナイダーのそれとはまったく異にして、凄まじく迫力あるものです。
 いつか「ブリュッゲマンを歩く旅」をしてみたくなりました。

〔516〕後期ゴシック彫刻を歩く② 「彫刻と絵画の両刀遣い」の3巨頭はムルチャー、パッハー、シュトースです。

2022年11月01日 | 美術館・博物館鑑賞
 十数回ドイツ・オーストリアを訪ねるうちに、私は、緑が愛して止まないリーメンシュナイダーだけではなくて、後期ゴシック彫刻の作家たちに新たに魅力を感じるようになっていきました。私の刺激を受けながら緑もそうなっていったようです。現代芸術にも通じるような個性的な彫刻との出合いによって私たちの鑑賞の視野がどんどん広がっていったのでした。
 後期ゴシック彫刻の作家たちの作品とあまた向き合うなかで、興味深い事実がいろいろ見えてきました。その1つは「彫刻と絵画の両刀遣い」の作家が存在することでした。まさに彼らは「彫刻界の大谷翔平」でした。
 マルティン・ショーンガウアやアルブレヒト・デューラーのような版画と絵画両方で抜きんでている絵描きは多いのではないでしょうか。日本で言えば葛飾北斎もそうでしょうか。絵を描く作業は版画と絵画では大きな違いはないのでしょうか。
 でも素人目には「彫刻と絵画の両刀遣い」は大谷の打者と投手と同様に難しいことのように思います。その難しいことやってのけた3巨頭を発見しました。ハンス・ムルチャー、ミヒャエル・パッハー、ファイト・シュトースと後期ゴシック初期の作家たちが多いようです。

 彼らの仕事をなんとか日本に紹介できないかと考えて、写真集第Ⅳ巻『結・祈りの彫刻-リーメンシュナイダーからシュトース』ではミヒャエル・パッハーとファイト・シュトースの絵を特別掲載しました。
 ミヒャエル・パッハーはアルテ・ピナコテークの「教父祭壇(祭壇画)」の8枚で、しっかり美術館に掲載料を払いました。写真も館のものです。ファイト・シュトースはマティアス・ヴェニガーさんのご尽力で彼撮影の「リーメンシュナイダー祭壇の祭壇画」を掲載することができました。
 パッハーの作品は2,3回見ているのですが、このシュトースの絵は未見でした。リーメンシュナイダーの初期の代表作、ミュンナーシュタットの祭壇の脇に飾られているのですが、私たちは迂闊にもこの作品を見逃していたのです。
 ミュンナーシュタットのマグダレーナ教会を訪ねたのは9月22日(木)のことでした。ところがなんとそこにはありませんでした。以前ミュンヘンに貸し出されていたのがまだ戻っていなかったようなのです。さらに、「リーメンシュナイダー祭壇」も修復中でシートが被されていたのです。この時は2人とも踏んだり蹴ったりで深く落ち込んでしまいました。
 この後バンベルクに移動していつものようにドームのリーメンシュナイダーやシュトースの作品を見るのですが、ドーム博物館でシュトースの初見の作品に出合って溜飲を下げたのでした。そのことは「後期ゴシック彫刻を歩く①」に書きましたので読んでください。

 もうひとりの「彫刻と絵画の両刀遣い」はハンス・ムルチャーです。ベルリンの絵画館に「ヴルツアッハー祭壇の翼」に描いた8枚の祭壇画が代表作です。ここにも2,3回訪れているのですが、その時は私たちの関心が高くなく、易々と見逃してきたのでした。9月10日(土)、絵画館に入って早速大きなこの8枚を見つけることができました。焦がれていた恋人に会ったときのように、いろいろな角度から撮影し、佇んで眺めたのでした。今の私のパソコンの待ち受け画面はこの祭壇画です。
 実はこの絵も新刊に掲載すべく美術館に申し出たのですが、何の反応もありませんでした。当然掲載料を払うことも覚悟していたのですが、残念なことでした。