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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦政府、関係州政府や連邦規制・監督機関等の対応(第1回-1)

2010-06-24 15:33:31 | 国際政策立案戦略

 
 4月17日付けの本ブログで、3月30日にフランスのパリ控訴院(Cour d’appel de Paris)は1999年12月12日に発生した老朽タンカー「エリカ号(Erika)」の沈没とそれに伴うフランス史上最悪というブルターニュ海岸の重油汚染問題につき、2008年1月16日に出された第一審のパリ大審裁判所(Tribunal de grande instance)刑事法廷の判決を支持し、エリカの依頼主である「トタル(Total.S.A.)および航行性・安全性認定につき十分な検査義務懈怠につきイタリア国際船級認定協会会員会社リナ(RINA)に各37万5,000ユーロ(約4,613万円)の過失・注意義務違反による「罰金刑」を言い渡した旨の情報を紹介した。

 皮肉にも、その約1か月半後に米国いや世界史上最大の原油流失事故が発生した。

 米国ルイジアナ州沖のメキシコ湾(Gulf Coast)で国際石油資本である英国BP社(旧社名: British Petrolerum )が操業する(掘削作業自体はトランスオーシャン(Transocean)が受託)石油掘削基地「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig)
(筆者注1)で4月20日夜に大爆発が発生、作業員126名中11人が行方不明、17名が負傷したと報じられた。(筆者注2)

 正確な原油流出量が把握できないまま、4月30日までにメキシコ湾に隣接する4州(ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマ、フロリダ)が非常事態宣言を公布している。なお、BPは当初1日あたり流失量が1,000バレル(16万リットル)と公表したが、4月28日国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG)は1日5,000バレル(80万リットル)と公式に公表した。しかし、6月13日現在のフロリダ州環境保護省によると1日当り12,000~40,000バレル(192万リットル~640万リットル)とされ、その後6月17日時点では連邦政府の公表(6月15日)とおり35,000~60,000バレル(560万リットル~960万キロリットル)に修正されている。

 今回のブログは関係州、連邦政府機関である連邦環境保護庁、エネルギー省、司法省、環境保護団体さらに「1990年油濁法につき沖合原油掘削施設(offshore facility)に関し責任を持つ企業の責任強化に関する改正法案」等の対応を中心に述べる。

 単に米英等のメディアが報じている政治面や環境保護面以上に海洋国であるわが国にとって重要な海洋の危機管理対策の任に当たる連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の下部機関である海洋局(National Ocean Service:NOS)に属している危険物流出対策室( Office of Response and Restoration:OR&R)やUSCGといった関係機関の対応さらに食品医薬品局の対応等については次回以降で解説する予定である。さらに米国メディアでもほとんど報じていない連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)」(旧MMS)の深海海洋掘削の監督権限の強化を巡るための人事や改組・改革についても言及する。

 また、現下の最大の課題は、BP社等当該企業の公開性遵守に基づく正確な情報公開義務は当然ながら、USCGによる被害の拡大阻止、連邦環境保護庁(EPA)等環境保護機関、州や司法機関等の協力体制の下で米国がこのオバマ政権の基本を揺るがすような「オバマのカトリーナ」にならないための迅速かつ緻密な対応が望まれよう。このような状況下でオバマ政権は
(筆者注3) 、BP社のカール・ヘンリック・スバンベリ(Carl-Henric Svanberg((スェーデン人))会長等幹部は16日、メキシコ湾の原油流出事故に関してホワイトハウスで会談し、BPが被害者への賠償として預託口座に4年間で合計200億ドル(約1兆8,000億円)を拠出することで合意したと報じた。

Carl-Henric Svanberg 氏(現volvo会長)


 この問題に限られたことではないが、最近時のわが国のメディアもやっと取り上げ始めたが人類史上最大規模の海洋汚染危機に対し、あまりにも米国連邦政府や英国系のメジャーの経営戦略の無責任さは明らかである
(筆者注4)

 なお、BP社の原油流失事故の関する英国「エネルギー・気候変動省(DECC)」のクリス・ハフニー(Secretary of State for Energy and Climate Change)閣内大臣のリリース:ディープウォーター・ホライゾンの大惨事を受けて北海の石油リグ(rig)の検査強化策等や「2004年環境破壊賠償責任に関するEU指令(Environmental Liability Directive :ELD)」から見た問題や欧州議会や欧州委員会の動きについても別途まとめたい。

  今回は、3回に分けて掲載する


1.BP社の原油流失への対応を巡る最新情報
 BP社の原油流失事故の対応を巡る最新情報サイトを見ておく。後述するエネルギー省の報道もそうであるが、専門家向けのみでなく国民に正確な事故原因や世界中で行われている海底油田やLPGガス掘削作業に伴うリスクとその安全の対策が世界中の市民が理解できるレベルが求められているといえる。

2.大統領行政命令第13543号に基づく「BP社 ディープウォーター・ホライズン原油流出および沖合い掘削に関する全国委員会(National Commissioner on the BP Deepwater Oil Spill and Offshore Drilling )」の設置と今後の予定
(1)設置目的
 同委員会は、ディープウォーター・ホライズン爆発事故の根本原因に関する事実と状況を検証し、また将来における米国沿岸での原油掘削への影響を明らかにすることを目的とする。委員会の大統領への最終報告期限は2011年1月12日である。
 この目的に沿い連邦法、連邦規則や企業の実務慣行の見直しに関する勧告等を行う。
委員会に対する検討要請項目は以下の項目である。
①マコンダ原油噴出口の爆発(Maconda Well Explosion)と掘削作業の安全性
②米国の国内エネルギー政策における沖合い原油掘削の役割
③行き会い掘削事業の監督・規制の在り方
④原油流出対策
⑤流出の影響と調査
⑥復旧に向けた取組みと選択肢

(2)委員
 共同委員長は連邦議会元上院議員ダニエル・ロバート・グラハム(Daniel Robert Graham:一般的には、“Senator Bob Graham”)、元連邦環境保護庁長官ウィリアム・k・ライリー(William K.Reilly) である。

Daniel Robert Graham氏

William K. Reilly 氏

 その他の委員は次のとおりである。なお、これら委員の略歴のホワイトハウスの公式発表は6月14日であった。
・環境保護NPO団体である「天然資源保全協会(Natural Resources Defense Council :NRDC)代表フランシス・G・ベイネック(frances G.Beinecke)
・メリーランド大学環境科学センター所長・教授ドナルド・ボッシュ(Donald Boesch)
・全米地理学協会(National Geographic Society:米国ワシントンD.C.に本部を置く、世界最大の非営利の科学・教育団体。日本版もある)執行副会長のテリー・ガルシア(Terry Garcia)
・ハーバード大学のエンジニアリングおよび応用科学(SEAS)学部長チェリー・ミューレイ(Cherry A. Murray)
・アラスカ・アンカレッジ大学学長のフランシス・ウルマー(Frances Ulmer)

3.関係州や連邦司法省の対応
(1)関係5州の対応
各州の専用サイトによる対応状況は次のとおりである。
前述したとおり、ルイジアナ州等4州は非常事態宣言の発出とともに州民への情報開示を目的とするウェブサイトを構築している。概観した限り、その内容については差異があるものの連邦関係機関との情報連携を極めて重要視していることはいうまでもない。
また、テキサス州リック・ペリー(Rick Perry)知事サイトを見ると「非常事態宣言」は行っていないが、原油流失に係るあらゆる可能性に対応するための連邦や州の関係機関と会議・調整を行い、 毎日ホワイトハウス、USCG、国土安全保障省、NOAAおよびメキシコ湾に面した州知事と電話会議を行っていると述べている。

ルイジアナ州「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」サイト(連邦政府機関であるUSCG、USCG統合部隊および連邦環境保護庁の専門サイトとリンク)

ミシシッピー州「ミシシッピー州環境保全省「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」サイト」
同州環境保全省の「海岸線の水泳安全監視情報」

アラバマ州「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」サイト
同州環境保護省(ADEM)の「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」サイト

フロリダ州:環境保護省の「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」サイト
同州保健省の地域別保健影響情報等の専門サイト
同州の例で「非常事態宣言」について補足しておく。2010年4月30日に州知事が「群別非常事態宣言(州知事の行政命令(Executive order Number 10-99))を公布、また、2010年5月3日に「追加群別非常事態宣言(行政命令(Executive order Number 10-100))を公布した。

⑤テキサス州:テキサス州総合土地管理局(general land office:GLO)の「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)の原油流失阻止および対応プログラム(Oil Spill Prevention and Response Program)」サイト:GLOは州法“The Oil Spill Prevention and Response Act of 1991 (OSPRA)”に基づく州の監督責任機関である。

(2) ディープウォーター・ホライズン問題に関する前記5州以外の州の対応例
カリフォルニア州知事は、5月3日、州の財政再建の一環として同州サンタバーバラ(Santa Barbara)沖で計画されていた原油開発拡大計画の中止を決めたと報じられている。

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(筆者注1) 石油リグ(rig)は石油プラットフォームとも呼び、海底から石油や天然ガスを掘削・生産するために必要な労働者や機械類を収容する、海上に設置される大きな構造物をいう。(三菱東京UFJ銀行のワシントンDC・レポートから引用)

(筆者注2) わが国で、独自に今回のメキシコ湾原油流失事故に関する詳細な記事は皆無といってよい。その最大の理由は情報源が大手メディアに限られていることである。その中で損保ジャパン・リスクマネジメントの解説「メキシコ湾沖 石油掘削基地 爆発炎上・原油流失事故」は唯一、各種情報を収集し冷静に情報を整理している。また、オバマ政権や議会のエネルギー政策の見直し課題については5月14日付の三菱東京UFJ銀行のワシントンDC・レポート「 Obama政権にとってタイミングの悪いメキシコ湾石油流出事故」がポイントを簡潔にまとめている。これら以外にまともな情報がないこと自体が、わが国の海外情報の偏りの証左といえる。 

(筆者注3)ちなみに、カール・ヘンリック・スバンベリ(Carl-Henric Svanbergの年間総報酬はいくらくらいと思うか。Bloomberg Businessweek で見れる。2008年度で見ると2億4,500万円(20,423,391スェーデン・クローネ)である。米国のウォールストリートの金融経営者の場合と比べていかがか。

(筆者注4) これらの点を明確に指摘したユニークなブログを見つけた。5月6日から6月5日までの間に計8回連載している。図解や動画を駆使して前後して読めるので是非参考にされたい。ただし、情報源が限られており、内容面の信頼性は保証しかねる。
連載第1回目( 5月6日投稿)のURL: http://nappi10.spaces.live.com/blog/cns!39E8451829AE7F4!21549.entry
連載8回目(6月5日投稿)のURL: http://nappi10.spaces.live.com/blog/cns!39E8451829AE7F4!22220.entry

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[参照URL]

*筆者追加注2021.2.25

2010年6月現在の本ブログ執筆時の参照すべきBP社、連邦政府のデープホライズン対策専門サイト、連邦環境保護庁、地元州の環境保護機関のサイトは一部リンクが不可となってる。これだけの原油流失事故であるのにかかわらず、問題意識の低さか?

 しかし、筆者なりに正確な情報入手にタレンジした結果、連邦エネルギー省科学技術情報局(OSTI.gov)の報告書にたどり着いた。表題は

「Sandia National Laboratory Support of the BP Deep p water Horizon Oil Spill Accident:Kenneth Gwinn Solid Mechanics Department, Engineering Sciences Center:Sandia National Laboratories Sandia National Laboratories Albuquerque, NM:January 25, 2011」(全14頁)

その前文でこのプレゼンテーションの情報は、具体的には、 2010年9月8日、BP社のディープウォーターホライズンの事故調査報告書(http://www.bp.com/extendedsectiongenericarticle.do?categoryId=40&contentId=7061813)にBPの数値等に依っているとある。

・BP社のディープウォーター・ホライズン対応専門サイト:
http://www.bp.com/extendedsectiongenericarticle.do?categoryId=40&contentId=7061813
・連邦政府のディープウォーター・ホライズン対策専門サイト“Water Horizon Response”:
http://www.deepwaterhorizonresponse.com/go/doc/2931/578227
・フロリダ州環境保護庁の被害状況専門サイト:http://www.dep.state.fl.us/deepwaterhorizon/
・連邦エネルギー省長官のサイト:
http://www.energy.gov/organization/dr_steven_chu.htm
・連邦環境保護庁(EPA)の「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)事故対応」の専門サイト:

・EPAのCase and Settlement InformationとAdditional Information on the Deepwater Horizon Oil Spillの解説サイト

https://www.epa.gov/enforcement/deepwater-horizon-bp-gulf-mexico-oil-spill
・6月1日の連邦司法省ホルダー長官の記者会見:http://www.justice.gov/ag/speeches/2010/ag-speech-100601.html
・6月16日のホワイトハウスのBP社会長他との損失補償合意内容声明:
http://www.whitehouse.gov/blog/2010/06/16/important-step-towards-making-people-gulf-coast-whole-again
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