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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その3完)

2010-06-29 12:55:48 | 国際政策立案戦略

Ⅲ.連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)機能と役割の取組み
 わが国では一般的に知られていない“NOAA”の役割とはいかなるものであろうか。「大型タンカーなどからの油流出事故は深刻な海洋環境汚染を引き起こし、漁業や観光産業、海上交通などに大きな被害を及ぼす。大規模な油流出事故が発生した場合、被害を最小限に食い止めるには、初期の段階での適切な漂流予測に基づいた防除活動が重要である。(中略)
海上保安庁水路部海洋調査課は本分野に長年の経験を有する米国(NOAA)の危険物流出対応室(HAZMAT)を訪問して、災害発生時の漂流予測及びその精度向上について情報収集及び意見交換を実施して、今後の漂流予測体制の強化を図る。(以下略)(平成11年「漂流予測の高度化に関する交流育成」 海上保安庁水路部海洋調査課の報告)より引用。

 実際、その提供するメキシコ湾の図は分かりやすく、ディープウォーター・ホライゾンの連邦政府専門サイト“Deepwater Horizon Response”でもNOAAの解析図等を多用している。

 では、今回の原油流失に関しNOAAの対応はいかなる内容であろうか。専用サイトの解説内容を見ておく。
(1)NOAAとニューハンプシャー大学の海岸線対応調査センター(the Coastal Response Research Center)が共同開発した“Environmental Response management Application”によるウェブベースの“Geographic Information System (GIS) tool”プラットフォームである“GeoPlatform.gov/gulfresponse” は、リアルタイムで原油流失やBPや関係機関の対応状況を把握できる。

(2)毎日の更新情報(6月22日現在)
①連邦政府の指示で、BP社は封じ込めドームの技術(containment dome technique)を利用した原油の捕獲と水面上のガスの燃焼を継続している。
②トランス・オーシャン社が保有する大型海洋深海油田掘削船「ディスカバラー・エンタープライズ(Discoverer Enterprise )」による原油回収に加え、政府の指示により導入された原油排出部のライザー管につないだ「Q4000」による閉鎖線(choke line)から吐き出された追加的な原油とガスを燃焼し続けている(この状況は写真参照。上がQ4000で、中央が「ディスカバラー・エンタープライズ」であり、燃焼の炎が見れる)。

 この24時間で25、836バレル (筆者注7)の原油が回収できた。この数日は天候が比較的よくガス等の燃焼運用は成功裡に行われている。合計275箇所のガス燃焼作業の結果、932万ガロン以上の原油の撤去が行われた。

(3)NOAAの取組み
 NOAAは、連邦、州および地方政府に対し連携した科学的気象や生物学的取組みに関する情報を提供する。各関係機関の専門家は原油の流失を阻止し、またメキシコ湾の多くの海洋哺乳類(marine mammals),海がめ(sea turtles)、魚、貝等海中の生物の命を助けるため動き回った。NOAAは天候がよければ毎日上空飛行による観測を行い、原油のモデル拡散軌道(model trajectories)の検証を行っている。

(4)原油拡散軌道(Trajectories)予想
 メキシコ湾では水曜日(6月23日)は圧倒的に陸に向かって5~12ノットのスピードで南東の風が、また木曜日(6月24日)は東北東の風が吹くと予想される。拡散軌道はミシシッピー湾内の西向きの流れが東に向けた油膜の更なる動きが始まることを示している。ミシシッピー州のホーンアイランドとフロリダ州のパナマシティはこの予測期間中に海岸線は危険にさらされると見込まれる。また、しつこい南東の風によりルイジアナ州沖のシャンドルール諸島やブレトン・サウンド(Breton Sound)やミシシッピーデルタ地域が危険にさらされると予想される。

 FOAAは、上空飛行、船舶による観測および衛星解析で当該地域をモニタリングし続ける。

(5)漁業活動閉鎖地域指定
 本日(6月22日)、NOAAは現行の漁業閉鎖海域の変更を行っていない。現行の閉鎖海域は6月21日に施行された内容である。魚等の捕獲、放流やレジャーでの魚釣りは禁止されるが、同海域の運航は認められる。閉鎖海域の広さは8万6,985平方マイル(22万5,290平方キロ)であり、メキシコ湾案の排他的経済水域の約36%である。

(6)海ガメと海洋哺乳類のアセスメント結果(2010年6月21日有効)
 4月30日から6月21日の間、テキサス・ルイジアナ州からフロリダ州のアパラチコーラ(Apalachicola)の範囲で計527匹の海ガメが確認された。6月20日(日)と21日(月)の間で13匹のカメが浜に打ち上げられて死んでいるのが見つかった(ミシシッピーでは10匹、アラバマ州で2匹、ルイジアナ州で1匹である)。
 10匹の生きているカメは沖合いの鳥類やカメの調査を行っている間、ルイジアナ州漁業省に集められたがそのうち2匹は明らかに原油に汚染されていた。
 4月30日以降、合計92匹の海岸に打ち上げられたり捕獲されたカメには明らかに外的な原油に汚染された形跡が見られた。

Ⅲ.NIHの取組み
 連邦国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH))は、連邦保健福祉省(HHS)の下部機関であり、国民の健康や生命の安全性等に関する多くの調査研究を行い、具体的リスクに対しては警告を鳴らす機関である。当然、今回のディープウォーター・ホライゾン事故の住民の健康への影響調査結果を網羅できる専門サイトを立ち上げている。
NIHには「国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)」が設置されており、そこには「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」を設置、今回の事故対応として「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」という専門サイトが用意されている。
 同サイトは“crude”とは言いながら、主要連邦機関には見られない網羅的内容であり参考となるのでやや詳しく説明しておく。

①特徴的サイト:連邦政府の一元的ディープウォーター・ホライゾン対策専門サイト(Deepwater Horizon Response) (筆者注8)やNOAAの取組み
②概観:連邦環境保護庁(EPA)やNOAA、保健福祉省・疾病対策センター(CDC)の取組み
③保健情報:HHSやCDCの取組み
④流失した原油の拡散状況、全石油炭化水素(Total Petroleum Hydrocarbons :TPH )の状況(Crude Oil)
⑤石油分散剤(Disperants)の使用と影響
⑥海産物等への影響(seafood and fisheries contamination)
⑦対応と復旧対策
⑧関係州の専用サイトとのリンク
⑨Facebook 、Twitter、Youtube等SNSとのリンク

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(筆者注7) 1日あたりの原油回収量 25,836バレルの量はどれくらいか、イメージが浮ばないであろう。1バレル = 159リットルであり、4,108キロリットルとなる。この数字は関係機関の当初の予想を上回っているようだ。

(筆者注8) 連邦政府のdeepwater Horizon対応の統合サイト“Deepwater Horizon Response”の内容は国民の理解度向上面から見て日々充実してきていると思われる。6月23日時点のサイトの特徴点をあげておく。(本文で述べた大規模災害情報管理センター(he Disaster Information Management Research Center)」の「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」サイトの内容と比較して欲しい)。

①News/Info:NOAAの航空写真と比べ分かりやすい図解地図、関係州の対応最新情報、Deepwater Horizonに関する非公開合同事故原因聴聞会(joint Investigation )の模様の一部記録写真(この委員会の目的は4月20日に起きたDeepwater Horizon 可動原油掘削装置(mobile offshore drilling unit :MODU))の爆発と作業員の死亡等に関する結論と勧告の策定である。5月下旬に行われたその結果は、承認を得るため沿岸警備隊本部および連邦内務省の石油掘削認可機関「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)に送付されその承認後、広く国民やメディアに公開される。それまでの間は分析結果や結論の内容は非公開である。
②Area Plan:4州の専門サイトとのリンクによる最新情報
③Health and Safety:大気、海岸線、水質検査結果および現地労働者やボランティアの健康・安全性問題


[参照URL]
http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・https://www.doi.gov/sites/doi.gov/files/migrated/news/pressreleases/upload/OCS-Safety-Oversight-Board-Report.pdf

(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
https://response.restoration.noaa.gov/about/media/where-find-noaa-information-deepwater-horizon-oil-spill.html
NOAAの「Where to Find OR&R and other NOAA Information on the Deepwater Horizon Oil Spill」ディープウォーター・ホライズン解説サイト

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