11月13日のテロ事件は内外の多くのメデイアが取り上げ、人権問題は埒外に飛ばされたように思える。この1年だけを見てもEUが抱える問題は、ギリシャの経済財政危機問題、トルコのEU加盟問題、移民・難民問題等、多くの課題をかける中で今回のテロ事件が起きたといえる。
このEUテロ対策については、EUの行政機関である欧州委員会、欧州議会等でこの1年間だけを見ても国際協調の中で、多くの決定等がなされているはずであり、筆者も日頃ウォッチしているEU関連サイトでもそのように受け止めていた。 (筆者注1)
しかし、11月13日以降のEUのリーダー役である欧州連合理事会を中心とする動きを見ていると、必ずしも本気で取り組もうとしているのか、各国の利害が錯綜し、国連やNATOさらにはインターポールやユーロポール(Europol:欧州刑事警察機構)等国際的な法執行機関との連携がすすんでいるのかといった点に関する情報を模索していた。
そのような状況下で、11月20日に筆者の手元にEU議会のシンクタンクである”European Parliamentary Research Service”から簡潔な内容のレポートが届いた。
個人的(筆者はアニータ・オラフ(Anita orav) (筆者注2)レポートで簡単ではあるが、筆者が求めていたEUのテロ対策はこれまでたどってきた経緯を概観し、かつその原データへのリンクが網羅的に行われていた。
今回のブログは、同レポートを仮訳するとともに、これだけのテロ対策に法執行機関等が本気で取り組んでいたのか、さらに言えばわが国もテロ対策訓練や南シナ海等での監視活動から裏返しのテロのリスクに緊急かつ本気で取り組むべき時期に入ったとする考えからまとめた。なお、時間の関係で、リンク先のEUの原典資料の解析は行っていない。APT攻撃(APT)等サイバー対策とも大きく関わる問題でもあり、改めて整理したい。
訳文の本文
「 EU域内で急進・過激な思想や活動を阻止させる」
パリにおける11月13日の悲劇的なテロ攻撃は、再び過激な考えに基づく安全保障への即時的脅威、テロ組織や外国の戦闘員によるEU市民へのシンパ勧誘活動(recruitment)の事実を実証した。
EU加盟各国は、国家安全保障のための能力は保有しているが、 これらの複雑な脅威のクロスボーダーの性質は、EUレベルでの協調的対応を必要とする。
〔EUが取り組んだ問題の背景 と対処策の内容〕
○欧州委員会が議会や理事会に提出した「急進化(Radicalisation)」の定義は、 EU市民をテロにつながる可能性のある意見、見方や考えを支持する現象踏まえたもので、EU加盟国における域内の安全保障に深刻な脅威となる。
欧州委員会の移民・内務・市民権担当委員 ディミトリオス・アヴラモプロス (Dimitris Avramopoulos(ギリシャ))によると 、イスラム過激主義者は急進化した思想の持ち主を楽しませるのにわずか6〜8週間しかからないであろう。欧州議会は、EU域内で約5,000人が「ISIL / Da'esh」やアルカイダ系「アル・ヌスラ(Jabhat Al-Nusra)」にすでに加わっていると推計している。
○2015年の早い時点でEUの「司法・内務閣僚会議(Justice,and Home Affairs:JHA)」はチャリー・ヘボラ攻撃に対処すべく「リガ共同声明(Riga Joint Statement)」を採択した。同声明は、欧州連合理事会は次の3つの連鎖的行動にもとづく「戦略課題」を定めたものである。すなわち、①EU市民の安全を守る、②急進化思想の阻止および基本的人権強化等コミュニティの価値の強化である。
○2015年10月8日,9日のJHAにおいて各国の閣僚は情報交換やインターネットを介した急進思想に阻止を含む反テロの具体的手段等の実行につき、欧州連合理事会議長およびEUの反テロ・コーデネーターからブリーフィングを受けた。 (筆者注3)
○2015年10月8日、9日のハイレベル「 急進主義の拡大に対処するための刑事司法会議(High-Level Ministerial Conference Criminal justice response to radicalisation)では、懸念される問題として、オンラインや刑務所内での勧誘行為による急進主義思想の拡大が指摘された。2015年9月18日には、議会や評議会にかわり理事会が『2005年テロ阻止条約』に署名した旨の「決定(Europe Convention on the Prevention of Terrorism (CETS No 196))」 (筆者注4)がなされた。また、2015年5月19日第125会期ではテロ阻止にかかる追加プロトコル(Additional Protocol to the Council of Europe Convention on the Prevention of Terrorism)が閣僚委員会で採択されている。同プロトコルは、2014年9月24日の国連安全保障理事会(U.N. Security Council)決議2178(2014))の適用となる、テロ目的の旅行や、そのような旅行に対する資金支援ならびに組織化行為を犯罪行為とすることを求めている。
○2015年4月28日、欧州委員会はすでに進行中である次の手段を含む、「EUにおける安全保障の課題(European Agenda on Security)」を明らかとした。1)2015年2月2日に「EUインターネットフォーラム」を立ち上げる、2)2015年7月1日にEurpol内に「インターネットテロ専門照会班(EU Internet Referral Unit)」を設置した。3)2011年に
「Radicalization Awareness Network:RAN」を創設、とりわけ2015年10月1日に新たな”RAN Centre of Exellence”を立ち上げた。4)EU加盟国をEU全体として支援すべくEurpol内に”European Counter- Terrorism Centre” を設置した。
〔急進化阻止に係る欧州議会の決議〕
2015年10月19に、欧州議会の市民の自由権、司法および域内問題委員会は、テロ組織による急進主義の拡大や勧誘行為を阻止するため、同委員会が積極的にまとめた報告(案)「1.6.2015 DRAFT REPORT」を公表した。このことは、2015年11月に予め議論がスケジュール化されていた。同報告の報告者であるラチダ・ダチ(Rachida Dati)はボーダーレスを実現化した「シュンゲン条約」エリア内で自由に域内を旅行する急進主義のEU市民たる「hotbeds」を引用し、このような加盟国の共通の脅威に対すべき点を訴えた。同報告は、域外との金融の流れに関する透明性の改善によるテロ資金源の閉鎖のニーズ等を指摘し、世界の地域やEUだけに止まらず国際的な対処が求められるグローバルな事象であるという認識を明らかにしている。
○同報告は、問題が起きてからとる手段ではなく、宗教問題を含む教育面での重要な考え方をはぐくむことが協調されるべきとしている。
○インターネットの重要な役割は、違法なメッセージのオンラインによる情報配信を阻止すべく、サービス・プロバイダーにその法的責任を十分充足させることにある。
○最後に同報告書は、「EU市民の安全保障は彼らへの自由権の保障と両立しない問題ではない」と述べ、EUにおける基本的人権の尊重を強調している。
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(筆者注1) 筆者のグログでも2010年時点で「2010年11月22日、欧州委員会(担当委員:セシリア・マルムストロム(Cecilia Malmstrom))はEU市民の保護強化のためのEUが直面する緊急的なセキュリティ脅威に対処すべく長期的な「EU域内セキュリティ強化のための行動戦略目標(EU Internal Security Strategy in Action)」(全41項目)(以下「戦略目標」という)を採択した旨公表した」ことについて詳しい解説を行っている。この中で、筆者ブログが取り上げている「2011年~2014年の戦略目標およびその実現のための行動計画(Five Strategic Objectives and Specific Actions for 2011-2014)」が厳密に実施されていたら、今回のテロ事件は起きなかったといえようか。ここまで経緯も含めた解説は内外メデイアでもまず見ない。
(筆者注2) 筆者の略歴は入手不可である。Oravという姓はマケドニアではないか。
(筆者注3)オラフ氏のブログでは、2015年10月8日,9日のJHAの議題等には言及しているが、さらに同会議での結論「2015.10.8 欧州連合理事会「Council conclusions on strengthening the use of means of fighting trafficking of firearms」反テロ目的の武器の搬送との戦い」については直接言及していない。この点は、今回のテロ攻撃の事前取締りの不十分さを物語るものと考えられる。
(筆者注4)2015.10.24欧州連合理事会決定「COUNCIL DECISION (EU) 2015/1913 of 18 September 2015 on the signing, on behalf of the European Union, of the Council of Europe Convention on the Prevention of Terrorism (CETS No 196)」を参照されたい。
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