「母さんどうしたの。何か急用があったの」
「ああ、澄夫かい。別に急用と言うこともないんだけ
どね。父さんの法事をどうしようかと思ってね。チョ
ット相談したかったんだよ」
「そうか今年は7回忌だったね。もうそんなに時間が
過ぎたんだね」
「そうなんだよ。それでどうしようかね」
「母さんに任せるって言うことも出来ないから、僕の
方でなんとかするよ。そのうちに打ち合わせに家に帰る
から」
「そうしてくれると助かるよ。それでいつ帰ってくる
んだい」
「そだなあ...。すぐというわけにはいかない事情
があるんだけど、今月中には帰ることが出来ると思う」
「何しろ来月のことだからね、出来るだけ早く帰ってき
ておくれね」
「わかった。また近いうちに電話するよ。母さんも身
体に気を付けてくれよな」
「それからね。もう一つあるんだよ。前から言っていた
ことだけど、お前の結婚の話なんだけどね。まだその気
がないのかい」
「その話は、家に帰ったときに話すよ。じゃ、また電話
掛けるから」
佐々木は父の7回忌か、はやいものだなーもう7年も
経ったのだと少し感傷的になってしまったが、そんな時
間はなかった。北館主任教授に言われた政府失踪者調査
に参加するかどうかを考えなければならない。各分野の
専門家が突然失踪している。しかも世界的な規模で発生し
ていると言うことは確かに重大なことだ。敗戦後の日本
から誘拐したような話ではなさそうだと思うが実態は全
く不明だと言うことだ。何のために失踪するのだろうか。
今自分一人で考えてもデータが何にもないので考えよが
いことに気がついて佐々木はそのプロジェクトに参加し
て原因と目的を解明してやろうと決心した。
このことは口外するなと言うことなので親友の馬場に
も相談できない。明日北館主任教授に参加したい旨を伝
えることにしてその件は今日は棚上げすることにした。
佐々木は今日届いた専門学会誌を取り出してパラパラ
とページを繰っていたが疲れが出てきて眠ってしまった。