昨日、臨時国会が招集され、安倍晋三首相の所信表明がなされた。
所信表明と言っても、何のために「臨時」国会を召集したかの「目的」と、何を決めたいのかの「目標」を語ったわけではない。
その意味で、会社で行われる通常の会議の冒頭のスピーチとは異なる。宴会のアイサツ見たいもんだ。
安倍晋三の所信表明は美辞麗句のオンパレードで、何が討議すべき問題か、わからなくなる。すべてを国がうまく進めているから、国民の皆様は眠っていてください、と言っているにすぎない。これを人は「愚民化(obscurantism)」と呼ぶ。「啓蒙(enlightenment)」の反対である。
これから、彼の所信表明から、いくつか、例をあげ、問題点を指摘しよう。
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「65歳を超えて働きたい。八割の方がそう願っておられます。」
「意欲ある高齢者の皆さんに70歳までの就業機会を確保します。」
ここで隠されているのは、「年金の問題」である。
国民の納めた年金は基金として将来のために確保されているはずである。ところが、年金基金は、政府によって、現在、株価高止まりと円安維持のために使われている。年金基金は、政府が良しとする経済政策のために、使用されている。
ここの根本的矛盾は、老人たちへの「年金」給付を現役世代の「年金」拠出でまかなうとする現状の制度では、年金基金がたまり、いっぽう、老人の比率が増加するという日本の人口構成予測から、その制度が維持できなくなるという予見である。いっぽう、政治家や役人は、たまった年金基金は、使わないともったいないからと、使ってしまう。
そういうわけで、65歳からの年金支給ではなく、70歳からの支給したいという、政府の意図が隠されている。
現実には、老人たちの多くは、貧しさゆえに、70代でも80代でも、働くことができれば、低い給料で働いている。いっぽう、50代でも、60代でも、老いゆえに働けなくなっている人もいる。
年をとれば、誰でも、遅かれ早かれ、手脚がしびれる、指が自由に動かない、腰や背骨が痛い、心臓が苦しい、目が良く見えなくなる、耳が聞こえなくなる、言葉がでてこない、頭痛がする、記憶できない。
働けなくなった老人たちを現役世代が支えるのも、制度の如何によらず、現実である。しかし、集めた年金が、政府の経済政策のために使われ、その恩恵が国民の一部にしか行かないというのは、どういうものか。私は納得がいかない。
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「全ての子どもたちの幼児教育、保育の無償化が実現しました。」
「来年四月からは、真に必要な子どもたちの高等教育も無償化いたします。」
「子育て世代の負担を減らします。」
これを、どうして「急速に進む少子高齢化」への挑戦の柱にしているが、意味がわからない。
夫の給料でやっていけないから、妻はスーパーのレジなどで働いている。けっして、「思う存分その能力を発揮できる、一億総活躍社会」の実現のために働いているわけではない。
育児や家事が意味のない仕事ではない。育児は、おさなごに、これから生きていく世界への信頼感を持たせ、安定した人格を形成するために必要な仕事である。できれば、親が十分な時間を育児にかけたい。
また、育児や家事の共有は、夫婦の相互理解を深めるに役立つのだ。
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「障害や難病のある方々が、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して、いきいきと活躍できる、令和の時代を創り上げるため、国政の場で、共に、力を合わせていきたいと考えております。」
国が障害者を法で定めただけも雇っていなかった。このことへの言及がなく、「一億総活躍社会」や「国政の場で、共に、力を合わせていきたい」とか首相が言っても信用できない。障害者を雇って、福祉政策立案過程に参加させるべきである。
民間での障害者雇用率が法を満たしていても、それが、「思う存分その能力を発揮できる」環境ではないのが現実である。私がNPOでパソコンを指導しても、いろいろなアプリが使いこなせるようになっても、特定子会社で、シュレッダーで紙を裁断するか、封筒貼り(封筒をつくること)か、部屋の掃除の仕事しかない。
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「昨年度、福島の農産品輸出は、震災前から四割近く増加し、過去最高となりました。外交努力により規制が撤廃されたマレーシアやタイへの桃の輸出が好調です。」
「これまでに三十二の国と地域で規制の完全撤廃が実現いたしました。引き続き、風評被害の払拭に全力で取り組み、東北の復興を加速してまいります。」
福島第1原発の汚染水問題が解決していないことを隠している。「農産品」と言い、「水産品」に言及しないのはそのためである。
また、原発再稼働の是非についても言及しない。
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「海外で急速にキャッシュレス決済が普及する中、日本を訪れる外国人観光客の七割が、キャッシュレスがあればもっとお金を多く使ったと回答」
「大胆なポイント還元により、キャッシュレス化を進め、インバウンド消費の拡大を通じて、全国の中小・小規模事業者の皆さんの成長へとつなげます。」
これなんて、本当なのか疑わしい。大手スーパーやモールでは、すでに、キャッシュレスで買い物できる。「ポイント」「キャッシュレス」「インバウンド」の片仮名語を並べ、人をバカにしている。
キャッシュレス化で金融が儲かるのも納得いかない。
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「沖縄の基地負担軽減に引き続き取り組みます。」
「普天間飛行場の全面返還に向けて、辺野古への移設を進めます。」
「沖縄の皆さんの心に寄り添いながら、一つひとつ、確実に結果を出してまいります。」
辺野古に、普天間より大きな飛行場を作り、どうして、「沖縄の皆さんの心に寄り添いながら」と言えるのだ。
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「政権発足後、強力にコーポレートガバナンス改革を進めた」
「会社法を改正し、全ての大企業に社外取締役の選任を義務付けます。」
現実問題として、社外取締役がいるところで、企業ぐるみの不正が起きている。
また、関西電力の原発部門のキックバック問題をどう考えるのか。
私がIBMを退職する前、キャノンとの共同子会社に派遣された同僚から、キャノンのキックバック体質について愚痴を聞いている。
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「懸案の貿易摩擦についても、自由、公正、無差別など、自由貿易の基本原則を、首脳たちと明確に確認することができました。」
「我が国は、これからも、自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく経済圏を、世界へと広げてまいります。」
「韓国は、重要な隣国であります。国際法に基づき、国と国との約束を遵守することを求めたいと思います。」
安倍政権が、ことしの7月に、韓国に対して、徴用工問題をチャラにせよという恫喝手段として貿易の輸出管理を行った。「自由、公正、無差別」の貿易とは、政府が貿易の輸出入を管理しないことである。
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「海洋プラスチックごみが、国際的に大きな課題となっています。大阪サミットにおいて、新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す、新しいビジョンを共有いたしました。」
具体的に日本政府が、各自治体がどうするのか、何にも目に見えてこない。
ゴミ分別を日々行っている私としては、集めたプラスチックごみがどう処分されているのか、その実態と、どこに問題の本質があるのかを知りたい。
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「『提案の進展を、全米千二百万の有色の人々が注目している。』」
「百年前、米国のアフロ・アメリカン紙は、パリ講和会議における日本の提案について、こう記しました。」
安倍晋三が所信表明の最後にこれをもってきた理由がわからない。どうも日本国に誇りをもってもらうために言ったようだが、当時の大日本帝国政府は逆の行動に出た。
第1次世界大戦でドイツが負けていることに乗じて、中国のドイツ領を占領した。また、ロシア革命で生じた内乱に乗じて、シベリアの利権を獲得しようとして出兵した。
戦前の大日本帝国政府は、世界侵略に参加して、領土を拡大しようとしていたのである。
そして、その結果、所信表明の冒頭にあるように、「日本国憲法の下、第一回の国会、初の国会が開かれた昭和22年、戦争で全てを失った我が国は、いまだ、塗炭の苦しみの中にありました」という事態を迎えたのである。
安倍晋三の所信表明は、言葉に対する私の不信を深めるだけである。
私自身を含め、新型コロナの騒ぎで、ほかの問題からみんなの目をそらされている。新型コロナ対策は大事な問題だが、トンデモナク腐りきった安倍晋三が政権の座にすわりきっていることを、忘れてはならない。
きのう、3月23日のBS TBSの『報道1930』で、森友問題への安倍とその妻の関与を隠すために、財務省近畿財務局職員の赤木俊夫が公文書の改ざんを上司に強要され、財務省幹部や特捜に追い込まれて自殺したことを、新型コロナを押しのけて、取り上げた。この判断を私は評価する。
番組のゲストは、自民党参院議員の林芳正、元NHK記者の相澤冬樹、弁護士・元検事の若狭勝であった。
本当のことをいえば、日本にとって、東京オリンピックが新型コロナで中止であろうと延期であろうと、そんなことはどうでも良い。そんなのは、安倍晋三が目くらましに仕組んだ猿芝居にすぎない。今年の夏にオリンピックが行えないことは、誰の目にも明らかだ。それより、新型コロナの早期診断と治療の体制を整えるべきだ。
赤木俊夫の妻は、3月18日、国と改ざんを事実上指示したとされる財務省の佐川元理財局長に、1億1000万円余りの損害賠償を求める訴えを大阪地方裁判所に起こした。そして、残された3通の遺書を公開した。
翌日の国会で、森友問題に端を発した公文書改ざんの再調査の要求にたいし、安倍首相と麻生財務大臣は「財務省が2年前に出した報告書で調査は尽きている」「自死した赤木さんの手記に新事実はない」と言い張り、再調査を拒否した。
そのうえで、安倍は「真面目に職務に精励していた方が自ら命を絶たれたことは、痛ましい出来事であり、本当に胸が痛む思いだ」と述べた。なんと遺族の心を踏みにじるものだろう。前にも、赤木の妻は麻生に亡き夫の墓に線香をあげて欲しいと訴えたが、それも拒否されたという。
この問題をずっと追ってきた元NHK記者の相澤冬樹は、遺書につぎのような「新真実」が書かれており、第3者による再調査が必要だと指摘している。
「すべて、佐川理財局長(当時)の指示です。」
「本省理財局中村総務課長(当時)をはじめ田村国有財産審理室長などから(近畿財務局の)楠部長に直接電話があり、(改ざんに)応じることはやむを得ないとし、美並近畿財務局長(に)報告したと承知しています。」
「美並局長が全責任を負うと言っていました。」
「(会計)検査院への説明は「文書として保存していない」と説明するよう事前に本省から指示がありました。」
「平成30年2月の国会で(中略)麻生財務大臣や、太田理財局長(当時)の説明(中略)は、明らかに虚偽答弁なのです。」
これらは、公開された報告書にはないと相澤はいう。
元衆議員で元検事の若狭弁護士は、公文書改ざんを財務省ぐるみで行ったのは重大な犯罪で、国民のひとりとして、個人として、大阪高検に告発したという。ところが、不起訴にされて終わったという。
「新しい真実がない」と安倍や麻生が言うのは、彼らが読んだ報告書にはその事実が すでに 書かれていたからではないか、と若狭は言う。
赤木の妻は、安倍首相らが再調査しない考えを示したことについて、「安倍首相らは調査される側で、再調査しないと発言する立場ではない」とし、「第三者委員会を立ち上げてほしい」と3月23日に訴えた。
3月22日のJBpressで、伊東乾は、「…森友学園を巡る公文書改ざんに関与させられて追い詰められ、心を病み、2018年3月7日自ら命を絶った」と簡単に言い切れない、特捜部のすざましい追い詰めがあったのではと言う。残されたメモから、特捜が全責任を赤木ひとりに押し付けようと、したと伊藤は推測する。
2017年6月23日に赤木以外の全員が配置転換され、また、森友問題関連の資料がすべて処分されてなくなった。そして、6月28日18:30に大阪地検特捜部が来庁し、改ざんだけでなく、籠池に便宜を図ったと、赤木を追い詰める。
赤木はメモにつぎのように書く。
「問題の土地取引があったとき、(赤木は)当該部署に配置されていません。したがって、土地の取引そのものについては何も知りません。知っているのは「改竄」だけで、これについては、極めて不本意ながら「実行犯」にさせられてしまっていた…。」
特捜部は赤木に全責任を押しつけようとして、自殺に追い込んだのだという。そして、それに失敗すると、いまは、全責任を籠池夫妻に押し付けている。
伊東はつぎのように言う。
「しかし、精神科の加療を受けつつ自殺(未遂を含む)した人を身近にもつ一個人として思うのは、これはいわゆる、疾病に基づく「発作的・衝動的な希死念慮」ではないということです。冷静な意識を最期まで保ったままの、覚悟の自殺、「憤死」と呼ぶしかない、凄まじい最期だった。」
安倍晋三が東京オリンピックのために良くやった などと たわごとを言わず、もっと怒らないといけない。
きのうは、第201回国会の開幕で、安倍晋三の施政方針演説があった。全文が、官邸のウエブサイトにかかげられている。
読むと、その各見出しはこれまでと同じである。ただ、「1 はじめに」と「7 おわりに」とは、安倍晋三らしい響きがある。妙に感傷的である。
冒頭の「1 はじめに」は つぎではじまる。
《 五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に、国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則(よしのり)さんでした。
八月六日広島生まれ。十九歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が、戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って、高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを、世界に力強く発信するものでありました。》
締めくくりの「7 おわりに」は つぎではじまる。
《 「人類は四年ごとに夢をみる」
一九六四年の記録映画は、この言葉で締めくくられています。》
別に感傷的な言葉を首相が語ることは悪いことではないが、間に挟まれた中身が悪い。安倍がキーワードを官僚に投げかけ、官僚が自分に都合のよいことを詰め込んだだけで、よくこんな身勝手な施政方針を安倍は平気で読み上げることができたのか、と思う。
たぶん、安倍は、日本国民がバカで だれも中身を気にせず、話し手の表情と声の調子だけで演説を評価している、となめきっているのであろう。
ここでは、「五 一億総活躍社会」を取り上げてみよう。ここは、(全世代型社会保障)、(子育て支援)、(一億総活躍社会)に、トピックが分かれている。
(全世代型社会保障)の本当の中身は、老人にたいする切り捨てある。年金の支給の開始時期を75歳まで遅らすことを、「年金受給開始の選択肢を、七十五歳まで広げます」と提案している。また、医療費に関しては、「七十五歳以上であっても一定以上の所得がある方には、窓口での二割負担を新たにお願いする」ことを提案している。
この老人切り捨て施策を、耳障りよくするため、この春から、大企業では、同一労働同一賃金がスタートします」と始める。そして、混乱させるため、「三千億円を上回る、ものづくり補助金、IT補助金、持続化補助金により生産性向上への支援」という、無関係な施策を挟んで、みなさん、年とっても働きたいでしょうと、「七十歳までの就業機会を確保します」と語る。
じっさいには50歳から老化が進み、若いときのように体も頭も働かず、賃金はさがり、若いものにバカにされる。日本では年功序列というが、そんなものは30年前のバブルがはじけたときから、崩れている。退職金の額をさげるために、退職近くの雇用者の賃金を意図的に下げる。一部の管理職だけが高い給料をとっている。普通の年寄りは安い賃金で働いているのである。最低賃金制が最後の頼みになっている。
(子育て支援)もよくわからない内容だ。
現状では、女の人が働くといってもレジやコンビニ弁当作りのような単純労働である。男の人の仕事の多くもそれと大差がない。そんなに、「一億総活躍」という素晴らしい仕事が世の中にあるはずがない。金持ちが収奪するためには、賃金労働者が必要である。賃金労働者の数をふやすために、「保育の受け皿整備を進め、待機児童ゼロを実現」しようとしているのではないか。親がこどもをいつくしんで育てることができる経済的環境、時間的余裕こそ大事ではないか。また、集団保育や教育の質を問題にしなければならないのでは。
(一億総活躍社会)では、パラリンピックに合わせて「バリアフリー社会の実現」を提案している。これに賛同するが、政府機関で障害者雇用の法規定を守っていなかったことに言及していないのは納得できない。政府は 障害者を「企画部門」で「政策決定」に 積極的に雇っていかないと「バリアフリー社会の実現」をできない。そうでないと、それを名目にして、自民党支持基盤の一部企業にお金が回るだけになる。何が「バリアフリー」かを判断するのは、障害者自身でなければならない。
もう一度言う。安倍は、日本国民がバカで だれも中身を気にせず、話し手の表情と声の調子だけで演説を評価している、となめきっている。
きょう1月16日の朝日新聞《憲法季評》で、安倍政権が、「定義」が難しいという理由で、国会議員の質疑に答えることを拒否すると、憲法学者の蟻川恒正が、怒っていた。
国会議員は、政府を監視するための国民の代表として選ばれたものである。政府は国民にサービスするところであるから、国民の代表に、「定義」が難しいという理由で、質問に答えないということは、許されない。
(1) 「功労・功績」
昨年12月17日の野党合同ヒアリングで、安倍後援会関係者を含む(桜を見る会の)全ての招待者に功労・功績があったのかと尋ねられた内閣官房参事官が、「『功労・功績』といったものの定義がなかなか難しい」と答えた。
質問者は、桜を見る会に招待する基準が何かを知りたかったはずである。
しかし、昨年の11月8日に国会で「『自治会』や『PTA』の活動をも『功労・功績』としなければならない」と首相が答えたため、参事官が追い詰められたからだと蟻川は思いはかる。
すなわち、「自治会」や「PTA」の活動は別にきわだった功労・功績ではないから、何かさらなる説明が求められることを恐れたからだ。安倍晋三の選挙区の人だから、と言うわけにいかないと、参事官は思っているのである。
(2) 「反社会的勢力」
同じく、反社会的勢力の人間に桜を見る会の招待状がなぜ送られたかの質問に、内閣は「『反社会的勢力』の定義については、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定した。
なぜ、「定義は困難だ」ということを閣議決定したのか。これは、公明党の発言を縛るためと思う。しかし、反社会的勢力の人間とは誰かは、メディアに名前がすでに出ていたのである。安倍晋三が関与しているとの非難を抑えるためである。
(3) 「侵略」「植民地支配」
安倍政権の閣議決定は今に始まったものではない。
安倍内閣は、2013年5月、「国際法上の侵略の定義については……確立された定義があるとは承知していない」とする答弁書を閣議決定し、2015年3月には、再び、「『植民地支配』及び『侵略』の定義は様々な議論があり、答えることは困難だ」とする答弁書を閣議決定した。
蟻川は、「国連総会は、1974年、『侵略の定義に関する決議』を採択し、侵略の公的な定義を下している。それをないと言う国家は、これから侵略を始める国家か、さもなければ、過去にした侵略を侵略ではないと言おうとする国家である」と書く。
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言葉が定義できないというのは、私はあなたと話しできないというのに、ひとしい。蟻川は、そんな態度では、憲法改正のまともな議論ができないという。私は、話し合いを拒否する安倍晋三をゲバ棒で突いてやりたいと思う。
4年前の8月14日、終戦70年を迎えるにあたり、安倍晋三は、閣議決定のうえ、内閣総理大臣談話を出した。
いま読むと、構成もよいし、情感あふれる名文である。しかし、本当のことではなく、聞いて心地の良いことを言っているだけだ。ここに、安倍晋三に騙される人たちの出てくる要因がある。
安倍晋三の話を注意深く聞くか、彼の行ったことで検証しないといけない。
談話は29の段落からなる。
書き出しの第1段落は次である。
《 終戦七十年を迎えるにあたり、先の大戦への道のり、戦後の歩み、二十世紀という時代を、私たちは、心静かに振り返り、その歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならないと考えます。》
非常にまっとうなことを言っている。しかし、「心静かに」という語句が、安倍晋三の巧妙さを表わしている。「振り返り」だけで充分なのに、この語句を付け加えることによって、聞き手の心に、自己の正当性を訴えている。
この後、第2段落から第10段落までが「先の大戦への道のり」の振り返りである。第2段落から第4段落の初めまでは、日本が欧米による植民地政策に抗し、アジアやアフリカのヒーローのようにも読めるが、現実の歴史は異なる。
日本は、1895年に台湾を植民地化し、1910年に韓国を植民地化し、1932年に中国北部を「満州国」と称して植民地化した。
第1次世界大戦では、中国のドイツ領を占領し、戦後、日本領土にしようとしたが、欧米から非難され、手放した。
1917年のロシア革命にともなう内乱では、日本は欧米とともに白軍(反革命)支援の名目でシベリアに派兵し、シベリア南部を占領しようとしたが、失敗に終わった。
この時代の日本は欧米による植民地政策に抗したというよりも、欧米の領土拡張競争に加わったという方が適切である。
第4段落では、1931年の「世界恐慌」にともなう「経済のブロック化」によって「日本経済は大きな打撃」を受け、「外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しよう」とした、と歴史を振り返る。
これは、経済的に追い詰められたから武力をふるったような表現だが、米国との戦争の直接的な理由は、1928年に始まる日本の中国侵略を米国にたしなめられ、1941年に日本側から米国に開戦したものである。
第11段落は次のように、戦争の時代を総括する。
《 これほどまでの尊い犠牲の上に、現在の平和がある。これが、戦後日本の原点であります。》
これも不思議な表現で、「尊い犠牲」とは何のことを言っているのかわからない。第7段落から第10段落にかけて、それを定義しているつもりだろうが、具体的に何を言っているのかわからない。
第9段落は
《 戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。》
で閉じるが、誰が何のために「傷つけた」のかが書かれていない。
第10段落は
《 何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。》
で始まるから、「傷つけた」のは「我が国」とも読める。しかし、「苛烈なものです」がすぐ後に続くので、「戦争が悪い」という感傷で終わる。
すると、「尊い犠牲」とは、「戦争は苛烈なものです」という認識を共有するためのものになってしまう。そんなことのために、みんなが死ななければならないのか、兵士の性欲を満たすために膣を捧げなければいけないのか、あまりにも馬鹿げている。腹だたしい。
第12段落から第29段落からは、日本の決意を述べたものである。
このなかで、注目すべきは、第17、18段落と、第19~22段落、第23段落である。
第17段落はつぎのように適切なことを言っている。
《 ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。》
それなのに、安倍政権は、現在、韓国の慰安婦や支援者が慰安婦像をつくったことで、韓国政府を非難し、また、徴用工やその支援者が裁判所に賠償を訴えたことで、韓国政府を非難する。「辛い記憶は癒えることない」のだから、日韓政府の争い事項にしてはならないのである。
第19~22段落では、日本から損害や苦しみを受けた人々から、戦後、日本が「寛容な」扱いを受けてきた、という事実を語っている。ならば、韓国国民にたいして、日本政府も寛容な態度を取れないのか。
慰安婦像を日本大使館前に立てたって いいじゃないか。「癒えることのない辛い記憶」が、それで、少しでも軽くなれば、すばらしいことではないか。
韓国の最高裁で賠償の判決が出たのだから、訴えられた日本企業が賠償金を払うことを日本政府が邪魔しなくたって いいじゃないか。
「辛い記憶」は「新しい喜び」によってのみ風化していくのである。
第23段落は次である。
《 あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。》
そうなら、戦争の記憶を引き継いだ「私たち」は、歴史を書き換えることなく、「癒えることのない辛い記憶」の人々に、「寛容なこころ」で向き合って、争わないことがだいじではないか。
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次の官邸のウェブサイトで、戦後70年安倍談話は、いつでも読める。
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html