アメリカ大統領のジョー・バイデンに、20年近くもアフガニスタンで続けていたの戦闘をやめ、兵士を引き上げると決断する権利が当然ある。外国の政府や外国のメディアがアメリカ政府の決断にとやかくいう権利はない。日本のメディアがアメリカ大統領をとやかく言うべきでない。
朝日新聞はバイデンやタリバンのことを悪く言うのをやめたようである。きょうの『〈オピニオン&フォーラム〉アフガン 失われた20年』で、アンドリュー・ベースビッチと山本忠道は、アフガニスタンへのアメリカの軍事侵攻に意味があったかを論じている。
ベースビッチは「軍事力頼みの国造り 米の幻想」という見出しで、1989年の冷戦終結後、ソビエト連邦の崩壊で、アメリカが世界の唯一の超大国になったことにうかれ、軍事力で世界を自分の似姿に変えようしたことを批判する。すなわち、アメリカが軍国主義に傾倒したと批判する。バイデンの軌道修正を正しい決断だと示唆する。
山本は「孤立せぬ道 国際援助で導いて」という見出しで、タリバン政権を孤立させずに、日本政府は戦後のアフガニスタン復興を支援していくべきだという。彼は、米国や日本や他の国々から「アフガニスタン側が消化しきれないベースで援助が注がれたため、その援助金で私腹を肥やすような腐敗が 国内で はびこった」と指摘する。また、タリバンが権力を握ったからといって、テロリストの温床になるとは言えない、という。
まだ、イスラム社会の研究者から言及がないが、イスラムを悪とする態度も改めないといけないだろう。アフガニスタンの多数派は、ペルシア語のアフガニスタン方言を話す。しかし、同じペルシア語を話すイラン人は、イスラム教のなかのシーア派であり、アフガニスタンのイスラムはスンナ派である。すなわち、宗教的には、隣国イランより、サウジアラビアやそれと陸続きの国々と近い。じっさい、アフガニスタンのガニ大統領は、アメリカ軍の撤退を前にして、アラブ首長国連邦(UAE)に逃亡した。
また、アルカイダやタリバンはサウジアラビアの財政的軍事的支援を受けていたといわれている。これに関するアメリカ側の調査報告書は極秘扱いだったが、じょじょに公開されてきており、この方面でも、アフガニスタン戦争の裏側が明るみにでるだろう。
きょうの朝日新聞3面のすみっこに、自衛隊輸送機の派遣に関して気になる記事がでていた。自衛隊輸送機の派遣は、日本人の退避のためではなく、「日本人ら」の退避のためになっていた。さらに驚くべきことに、つぎの文があった。
《日本政府は、日本人大使館員らを再びアフガン入りさせ、現地スタッフ本人かどうかを確認させる。》
日本人大使館員はすでに退避していたのだ。「日本人ら」は「現地スタッフ」とその家族のことで、彼らを退避させるために、自衛隊輸送機を派遣したのだ。もちろん、「現地スタッフ」とはアフガニスタン人のことである。
誰がどのような理由から「現地スタッフ」の退避=亡命を支援するために自衛隊輸送機の派遣を決めたのか。どうも外務省の官僚ではなく、防衛省の大臣、岸信夫のようである。名目がなんであれ、自衛隊輸送機を戦乱の地に派遣すること自体を目的にしたのではないか。岸は安倍晋三の弟であり、安倍の積極的平和主義を実践するためでなかったかと思う。
新型コロナとカブール陥落の混乱に隠れた自衛隊輸送機派遣の是非を、国会で議論すべきである。日本の平和主義をなし崩しにする、すなわち、日本のブランドイメージを地に落とすような行為はすべきでない。