6月11日(日)の朝日新聞に、1面トップに『自社株買い 過去最高 先月3.2兆円 東証通知受け』、3面トップに『利益分配 経営者に重責 自社株買い急増、株主還元偏重』という見出しの記事が載った。
この記事は、今年の4月から始まった株価の急騰の大きな要因が、3月の東京証券取引所(東証)が上場企業への「株価を意識した経営」を要請したこととするものである。
一昨年の後半から日本は株価低迷に突入していた。安倍政権での株の高値維持は、政府系金融機関が市場の株を買うことで実現していたが、2,3年前から、それも効果がなくなったのである。株価低迷は今年の3月まで続き、突然 4月から異常な急騰をして、「日経平均株価をバブル後の最高値圏まで押し上げ」た。
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「自社株買い」をはじめて知ったのは、私がまだ外資系会社に勤めていたときである。
営業部門に属する幹部社員のXが自社株買いのサイクルを知って株の売り買いをすると儲かると私に自慢気に話しした。
当時、私の勤める外資系会社の本社は長期低落の流れにあり、金融機関から派遣されたコンサルタントが経営に参加していた。金融機関は会社の株を大量に保有していたので、株価が下がると保有資産が減ることになり、金融機関の信用不安を引き起こすことになりかねない。それで株価を維持するために、会社に自社株を買わすのである。
その幹部社員Xはどのようして儲けたかを私に説明した。会社の決算発表があると株価が急に下がり、会社は自社株買いに走る、もとの株価に戻ると会社は買った株を少しづつ売り、つぎの自社株買いの資金を蓄える。このサイクルを知って、株価の底値で買い、株価がもとに戻ったとき売れば、必ず儲かると言った。
私の勤めた外資系会社の本社は、いまも株価を維持しているが、相変わらず長期低落の流れにある。
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「株価を意識した経営」とは、企業の株の時価総額が保有資産を上まわるようにとのことである。ところが、株価は企業の将来性を市場がどう評価するかであって、東証が上場企業に要請したからといって、すぐには上がらない。そこで、要請を受けた企業がいっせいに「自社株買い」に走ったのではないかが、朝日新聞の推理である。
株価のための「自社株買い」は長期低落の流れにある企業がとる奥の手である。
自社株買いによる株価の急騰は続かない。それを知らない若者が株を買って損をするのではないかと私は心配している。
日本では、企業が儲けた利益を貯め込んでいる。本来は、働いた人に報酬として還元するか、商品価格をさげて消費者に還元するか、研究開発や生産設備に投資すべきものである。株価を上げるために、自社株買いによって貯め込んだ利益を吐き出すのでは、国際競争力を失いつつある日本の製造産業をますます弱体化するのではないか。また、電力会社やガス会社は、エネルギー価格が想定したほど上がらず、棚ぼたの利益を得ている。消費者価格を下げて消費者に還元すべきではないか、と考える。
朝日新聞の記事は、「利益の分配が、目先の株価を上げる株主還元にかたよっていないか」「経営者が自社株買いを優先していると日本経済はどんどん縮み、労働生産性も下がる」と警告している。
朝日新聞の提起した「自社株買い」の自重をメディアはもっと取り上げるべきである。
もう昨日になるが、テレビで、岸田文雄は、女性の取締役を増やすために、東証の規則に女性取締役の割合を明記する、と言っていた。安倍晋三は日銀を政府の下部機関かのように言っていたが、岸田は東証を政府の下部機関かのように言っている。調べてみると、確かに東証のトップは財務省、金融庁の天下り先である。
したがって、今回の自社株買いの騒動は財務省か金融庁の幹部か金融機関の幹部が岸田に入れ知恵したのではと私は推理する。