きのう、川勝平太が静岡県知事の辞職願いを県議会議長に提出した。職業差別の発言で物議をかもしたことが、辞職の理由らしいが、マスメディアのあら捜しに嫌気がさしたのではないかと私は思う。私には、言葉尻をとらえただけの非常に政治的な策謀にメディアが乗ったように見え、本来は彼が辞職する必要はないものと思う。
この背景の1つに、リニア新幹線の工事問題があると思う。リニア新幹線の開通を妨げている勢力のシンボルの1つに、川勝平太がメディアや保守系の人々から見えるのだろう。
リニア新幹線の抱える問題は、ウィキペディアの中央新幹線の項に簡潔にまとめられている。東海道新幹線が何かあったときのための代替策として中央新幹線がもともと企画されていたが、そこに、2011年にリニア新幹線という怪しげな技術案が採用されたことに問題の発端がある。
2014年に環境庁が石原伸晃大臣を経由して太田昭宏国土交通大臣に提出した意見書は、リニア新幹線建設計画に、つぎの環境問題を指摘した。
JR東海の計画では品川―名古屋区間の86%がトンネルとなり、このトンネルが多くの水系を横切るので、「ひいては河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い」。
また、トンネル工事で発生する大量の土砂をどうするかの検討と施策が、土砂崩れの災害を防ぐために、求められる。
さらに、「本事業の供用時には現時点で約27万 kWと試算される大量のエネルギーを必要としているが、現在我が国が、あらゆる政策手段を講じて地球温暖化対策に取り組んでいる状況下、これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」。この約27万 kWは、中部電力の電力供給能力のほぼ1%にあたる。
私から見ると、リニアの選択はエネルギー効率からみれば、馬鹿げた選択である。一番エネルギー効率の良いのは、地上に車輪がついた鉄道である。リニアは鉄道より早いというが、鉄道のスピードを制限しているのは、現状の線路が曲がりくねったり、坂を上がったり下がったりして、車体のスピードとともに安定性が悪くなるからである。したがって、リニアのように初めから線路をまっすぐにし、線路の勾配を緩やかにすれば、いくらでも鉄道はスピードを出せるのである。
東海道新幹線が何かあったときのための代替策として中央新幹線があるなら、輸送量も問われる。しかし、JR東海のリニアの計画では、その輸送量は東海道新幹線よりはるかに劣る。これは、現状のリニアの技術的問題に由来する。
また、ほとんどトンネルで途中駅も限定されるから、観光列車との価値も少ない。コロナで一段とテレワークが進んだので、ビジネス利用の増加も期待できない。
また、日本の中央構造線(大断層)を横切ることになるので、黒四ダム建設に劣らない難工事が予測される。建設費は大きく膨らむだろう。
したがって、リニア新幹線の経済効果は、その工事を請け負う土建屋だけにとどまり、できたあかつきには、なぜ、こんなお荷物になるものを日本社会は必死で作ろうとしたのか、後悔することになるだろう。
私は、このように、リニア新幹線にいかなる明るい期待をいだけない。だれが、政治家やメディアをだましたのだろうか。リニア研究の予算を確保するために、技術者幹部が軽い気持ちで明るい未来を誇張したためではないか、と想像している。
<世の中には、技術的夢として研究しつづけ、実現してはならぬものがある。>