青山潤三の世界・あや子版

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日本国内絶滅第1号種オガサワラシジミと、ルリシジミ、スギタニルリシジミについて(その6)

2024-03-06 21:10:46 | 日本の蝶、中国の蝶





オガサワラシジミLycaenopsis(Celastrina)ogasawaraensis ♂

小笠原母島乳房山南面Jul.6,1977



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典型Celastrina11種の続き(ルリ-オガサワラ-スギタニ・ウラジロcomplex以外の種)

*概ね大型種



6:オオヒマラヤルリシジミ(仮称) gigas

大型種だが、雄交尾器の形状はsugitanii‐hersiliaとほぼ相同。分布圏西端のcomplexの一員と考えても良いかも知れない。 



7:ニシヒマラヤルリシジミ(仮称) huegelii

2ssp.ヒマラヤ西部‐中部。雄交尾器形状は外観が似通った以下の各種よりもargiolusやhersiliaに近い。



8:アリサンルリシジミ oreas

8spp.アッサム、東南チベット、雲南、四川、台湾、浙江、陝西、山西、朝鮮半島など。

以下4種は♂交尾器形状が類似する。



9:morsheadi

2spp. 東南チベット、雲南北部。



10:オオアリサンルリシジミ(仮称) perplexa

2spp.

>10a: perplexa 四川西部。●

>10b: kuroobi 雲南北部 (Yoshino2002:Eliot & Kawazoe1983の時点では未記載)。●



11:キタアリサンルリシジミ(仮称) filipjevi

2ssp. 極東ロシア、中国東北部、朝鮮半島。



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オガサワラシジミに最も近縁の現存種は、北半球広域に分布するルリシジミargiolus、あるいは東アジアに固有のスギタニルリシジミsugitanii-ウラジロルリシジミhersilia complexの2種(2上種)に

間違いない。それなりに古い時代に両者の祖先集団から派生したのか、比較的新しい時代になってルリシジミ移動集団の特化に拠るものか、どちらかはともかくとして。



でも、何れの集団とも外観はまるっきり似ていない(あとで述べる北イラク産ルリシジミなどを別として)。



狭義のCelastrinaには、ルリシジミ+(スギタニルリシジミ+ウラジロルリシジミ)のほかに、アリサンルリシジミとその関連数種が含まれる。♂交尾器に関しては、様々な部位が顕著に異なる南方系のホリシャルリシジミとは違って、全体的にはルリシジミ+(スギタニルリシジミ+ウラジロルリシジミ)と共通している。相違点は、valvaの概形が上下に幅広いまま前後に広がり、ampullaの腕状遊離部が後方に伸びずに押しつぶされた状態になること。全体的に大振りで、コンパクトで寸詰まりな傾向のオガサワラシジミとは反対方向に特徴が示されていることになる。



ただし、(サイズの大小を別にすれば)外観の印象(♂翅表の濃紺色、黒い縁取り、裏面の青色鱗など)は意外と両者(オガサワラシジミとアリサンルリシジミ類似種の一部)で共通する。従って、アリサンルリシジミ(とその関連種)の存在も、オガサワラシジミの成立に関わる何らかのヒントを秘めていると思える(祖先形質の共有)。



僕がこれまでの報文(「中国のチョウ」「週刊中国の蝶ルリシジミ」「中国胡蝶野外観察図鑑」など)で「アリサンルリシジミoreas」としてきたのは同定間違いである。それについてのエクスキューズを行っておく。



僕のメインフィールドは、雲南省西北部の梅里雪山や雲南四川省境山地。これまでに撮影した蝶の多くが、この地域の集団である。そこで普遍的に見られる種が、僕にとっての「中国の蝶」の基準になっている、と言う側面がある。もちろん、中国全体から見れば、ごく辺境の地であり、この地域での「普通種」が、中国の蝶を代表しているわけではないことは分かりきっているのだけれど、無意識の上で、ついつい「ポピュラーな種」と見做してしまっている。



例えば、シロチョウ科のAporia lhamoとか、タテハチョウ科のNeptis imitansとか、セセリチョウ科のPedesta bivittaとか、はじめのうちは種名が分からずに戸惑っていた。それぞれ外観に極めて特徴をもつ、少なくともこの地方に於いては最普通種なので、名前が分からないわけがない、と楽観していたのだけれど、同定できるまでに随分と時間を擁してしまった。



この“オオアリサンルリシジミ雲南亜種”もその一つ。何しろ、普通種も普通種。場所によっては、夏の最中にはこの蝶しか見られない、というほど、一面に群がり飛んでいるのである(そういえば70年代の父島のオガサワラシジミもそうだった)。というわけで、てっきり誰もが知っている中国産蝶類の最普通種のひとつ、と思い込んでいた。すなわち「アリサンルリシジミ」だと。



Eliot&Kwazoeには、アリサンルリシジミに類似した3種が図示されている。Huegelii(東北インド産亜種oreoides)、oreas(東南チベット産の新亜種baileyi)、perplexa(四川省康定産の新種)。



しかし、手許に多数の写真がある雲南省北部産の特徴は、どれにも当て嵌まらない。翅表の外縁沿い黒帯が広い点はperplexaに相当するが、この個体群のもう一つの顕著な特徴の一つである前翅裏面外縁沿い下半部の黒斑の発達は見られない。その特徴に関してはhuegelii oreoidesが相当するが、翅表の黒帯は発達せず、産地も離れている。ということで、(きちんと照合することなく)「多数の亜種を擁するoreasの一つだろう」と、アリサンルリシジミと同定しておいたわけである。もっとも、oreasとperplexaの♂交尾器には大きな差はないので、アリサンルリシジミの同定が、完全な間違い、というわけではないのだが。



その後、裏面黒紋の発達状況を除けば、Eliot&Kawazoeが記載したperplexaに違いは無さそうだ、ということに気付いたのだが、産地が異なることもあって、oreasのままで示していた。今回、ネットで様々な検索を行っていたら、新たなperplexaの新亜種記載を見つけた。特徴も産地(標高に1000m前後の差はあるが)もほぼ一致。改めて、四川省産をperplexa原名亜種、雲南省産をperplexa kuroobiとしておく。



僕が撮影した四川省産perplexa原名亜種は、Eliot&Kawazoeに図示されたタイプ標本には見られない後翅裏面基半部の青緑色鱗が出現する(古い標本では消失?)。雲南省亜種kuroobiともども♂翅表は濃紺色で、外縁に沿って黒帯が広がる。オガサワラシジミと興味深い共通点である。



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オオアリサンルリシジミ原名亜種Lycaenopsis(Celastrina)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ原名亜種L.(C.)perplexa perplexa

四川省四姑娘山南面Jul.30,2010





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi ♀

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省迪庆大雪山麓翁水村Jul.16,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.11,2010

*右個体、左はタッパンルリシジミ、背後はウラジロルリシジミ(スギタニルリシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2010





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014

*右はツバメシジミ(ウスズミツバメシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Jul.25,2014





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.10,2011





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.11,2011





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Aug.12,2011

*sampling個体(下はルリシジミ)





オオアリサンルリシジミ雲南亜種L.(C.)perplexa kuroobi

雲南省梅里雪山明永Sep.12,2010



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全然無関係だけれど、、、ついでに。

翅型や翅色がオガサワラシジミによく似たユンナンフチベニシジミLycaena(Kulua)yunnani

雲南省梅里雪山雨崩 Jun.13,2009












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