青山潤三の世界・あや子版

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2009.5.4 湖北恩施 白いレンゲソウ 16

2011-03-03 09:39:09 | 湖北 恩施 長江ほか


(第16回)まとめ ≪中国の“里山ゲンゲ”4種について≫

中国科学院編(科学出版社刊)の中国植物志・第42巻第一分冊(1993年12月刊行)は、ゲンゲ属Astragalusを中心に組まれていて(他に同一亜族Coluteinaeに含まれる3属を収録)、ゲンゲ属278種の解説・189種の図版(線画)表示が成されています。

レンゲソウ(ゲンゲ)については、125番目に、Astragalus sinicus(中国名:紫云英)として、12行(他種とほぼ同じ分量かやや少なめ)の解説文と、図版で紹介されています。ゲンゲ属に於けるA.sinicusの位置付けは、8亜属中三番目の華黄耆亜属Sub-genus Astragalus(7section)、その第6-sectionの、傘序組Sect.Lotidium(8種)の一員、ということになっているようです。

8種中レンゲソウを含む5種(A.sinicusのほか、[124] A. tungensis洞川黄耆、[128] A.souliei蜀西巫山黄耆、[130] A.sutchuenensis四川黄耆、[131] A.wenxianensis文県黄耆)が図版表示されています。記述や図に於ける判断では、傘序組Sect.Lotidiumの共通項は、花序の小花が傘状(外側に向かって垂れ下がり気味という意?)に付くことのほか、果実が余り膨れないことと、葉がやや丸味を帯びる(ただし小型)ということぐらいのようで、いずれも花序は、レンゲソウのように(外観上の)散形とはならないようです。仮にある程度はレンゲソウに近いグループであるとはしても、レンゲソウのルーツを探る対象と成り得るような、ごく近い類縁関係には相当しないと考えられます。

図版に載っていない3種は、[126] A.yangtzeanus揚子黄耆、[127] A.wushanicus巫山黄耆、[129] A.fangensis房県黄耆。しかし、検索表では、どれもレンゲソウからは遠い位置に置かれていて、図版に示されている(レンゲソウとは明確に異なった特徴をもつ)各種と姉妹種関係にあるようです。検索表で見る限り、唯一レンゲソウと同一枝に置かれているのは、A.tungensis洞川黄耆ですが、子房などが無毛、という若干の共通点を持つにすぎず、それ以外の主要形質の特徴は、小葉が小さく細長いことなど、7種中最も隔たっているように思えます。

そもそも、傘序組Sect.Lotidiumの共通形質は、花序が“傘状”を呈している、という点だけのようであり、しかも、レンゲソウを除く7種は、いずれも花序が総状に伸長し、レンゲソウのように(外見上)完全な散形状になる種は見当たりません。Sect.Lotidiumのみならず、ゲンゲ属Astragalus全体を見渡しても、図に表示された全189種中、ごく数種だけが散形状の花序を呈していますが、それらの種は、ほかの形質が大きく異なっていて、レンゲソウとの間の強い類縁の想定には無理があります。

ということで、278種の中には、レンゲソウの姉妹集団たるべき「花序が集散型、種子が細長く、小葉が大型で幅広い卵型」の存在は、一種も見当たらない(*1)。むろん、この総説が発表されてから18年も経つわけですから、僕がチェックをし得ないでいるだけで、新たな分類体系によるレンゲソウ近縁種の知識が集積されている可能性は大いにあります。

とりあえず、上記の特徴を共有した、レンゲソウの姉妹集団(高山性の種を除く“里山性”の種に限る)を、僕なりにまとめてみました(レンゲソウ以外の和名は新称、産地名は僕の確認した地域のみ)。

■①レンゲソウ      浙江舟山・浙江杭州・広西桂林・湖北恩施・四川成都
□①bレンゲソウ(白花) 
■②ユンナンベニゲンゲ  雲南屏辺・雲南金平
■③ユンナンシロゲンゲ  雲南大理・雲南謄沖
■④オナガシロゲンゲ   湖北恩施

ガク裂片の長さは本体部分の長さとほぼ等しく、果実に軟毛を生じる→オナガシロゲンゲ
ガク裂片の長さは本体部分の長さとほぼ等しく、果実は平滑無毛
 花の色調は鮮やかなピンク部分と白色部に明瞭に分かれる(*2)→レンゲソウ
 花の色調は一様
   一様に紅色→ユンナンベニゲンゲ
   白色、または淡い紅色や黄色を帯びた白色→ユンナンシロゲンゲ

(*1)図版が示されていない3種を含むSect.Lotidiumの5種は、いずれも同じ報文により記載されていて(1915年)、うち、A.wushanicus巫山黄耆の摸式産地(固有種)の四川省(現・重慶市)Wushan巫山は、恩施とは目と鼻の先の三峡沿岸の都市。従って、この種が“オナガシロゲンゲ”に相当する可能性は大いにあると思う。図示は成されていず、記述のみで判断すると、小葉が大きく幅広いこと、および子房(オナガシロゲンゲでの確認は果実)に軟毛を生じる点では一致します。花色が“粉紅色”とあるのは、“淡く紅色を帯びた白花個体”と同義と考えて良いのかも知れません。ただし、花序は、レンゲソウのように傘形(≒散形状)とは記していず、他の種同様に疏松近傘形(≒総状)と記されています。また、最も特徴的であるべきガク裂片の形状については、余り詳しくは述べられていません(少なくても、長く伸長するとは書かれてはいず、むしろ長さ0.5~1.5㎜と、他の種同様に短く記されている)。ほかに、A.fangensis房県黄耆も摸式産地が湖北省西部(西北部)ですが、恩施からの距離はより遠く、A.sinicusとの共通形質も、より少ないように思われます。

(*2)竜骨弁、翼弁の基半部が白色、旗弁の内側が白地にピンク条、その他は濃ピンク色。



【写真Ⅰ】ガク裂片の差違を示す

左:レンゲソウ/右:オナガシロゲンゲ(ともに湖北省恩施)




【写真Ⅱ】レンゲソウ近縁群4種
●花序は散形。●小葉は大型卵形で幅広く先端が陥入。●朔果は著しく丸くはならない。●植物体に剛毛を生じない。

上段左2枚:レンゲソウ(左=浙江省舟山島、右=湖北省恩施)
上段右2枚:ユンナンベニゲンゲ(左=雲南省金平、右=雲南省屏辺)
下段左2枚:ユンナンシロゲンゲ(左=雲南省大理、右=雲南省騰沖)
下段右2枚:オナガシロゲンゲ(湖北省恩施)
(ほかに、雲南省保山~騰沖間の高黎貢山山頂付近の湿性草地で、著しく小型の集団を撮影・観察していますが、それについての見解は改めて述べたいと考えています)



【写真Ⅲ】各地産を含めたガク裂片の比較(オナガシロゲンゲのみが著しく細長く伸長し、他の各種と明確に異なることが分かります)

一段目:レンゲソウ
左端と2枚目[白花]:湖北省恩施市、3枚目と4枚目:浙江省舟山島、5枚目:広西壮族自治区龍勝県、右端:湖北省建始県
二段目と三段目:オナガシロゲンゲ
二段目:湖北省恩施市、三段目左2枚:湖北省建始県、右4枚:湖北省巴東県
四段目左2枚:ユンナンシロゲンゲ
左端:雲南省騰沖市、左から2枚目:雲南省大理市
四段目3~5枚目:ユンナンベニゲンゲ
雲南省屏辺県
四段目右端:雲南高黎貢山産の小型種







【写真Ⅳ】種子

上左:レンゲソウの若い果実(湖北恩施)、上右:オナガシロゲンゲの若い果実(湖北恩施)下左:ユンナンベニゲンゲの若い果実(雲南屏辺)、下中:ユンナンベニゲンゲの熟した果実(雲南屏辺)、下右:ユンナンシロゲンゲの若い果実と熟した果実(雲南大理)



【付記】
以前にも説明しましたが、Astragalus sinicus(漢字名:蓮華草/中国名:紫云英)に対しては、「ゲンゲ」「レンゲソウ」の2通りの和名が、ともに日常的に使用されています。ちなみに、正しい和名はこの2つのどちらかで「レンゲ」と呼ぶのは間違い、という指摘もありますが、何の根拠もないと思います(権力者とか教科書とかの柵で、いつの間にかそうなったのでしょう)。私見では、「レンゲ」「ゲンゲ」「レンゲソウ」どれで呼んでも良いのではないかと思います。当ブログでも、まちまちの名で呼んでいますが、別に意味はありません(一応、今回のまとめの項に於いては、A.sinicusの種名を「レンゲソウ」、属名と近縁3種の新称和名語尾、および漠然とした対象については「ゲンゲ」と統一しています)。

少し前に、コメント無しで写真だけを羅列した、ゲンゲ属(と思われる)の各種の中にも、四川省ミニャコンカ中腹産の白花種や、陝西省秦嶺山脈産の白花種のように、外観の印象がレンゲソウに良く似た種が幾つかあります。氷河末端の高山的環境に生育する前者や、花序が明らかな総状となり、小葉が小さくて幅広くならない後者などについては、(雲南高黎貢山産の小型種共々)項を改めて検証していきたいと考えています。




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