トンネルを抜ければ、海が見える。
愛車のカローラは軽快な走りで国道を進んでいる。
「窓、開けてもいい?」
助手席の君はそう訪ねた。私は頷く。
ボタンを押し そして窓ガラスが下がる。
そのボタンを押した君の指がとてもきれいだった。
私は見逃さない。そうしたディティール・・・。
開いた窓から風が車内へと運ばれる。
そして、最高のタイミングでトンネルを抜けた。
海だ。
風に海の香りがまじる。
太陽が海を照らしている。
キラキラとよせる波。
車は右折し左に海を見る。
君は海を見て喜んだね。
「海っていいよね」
君のその言葉に私はどれほど嬉しかったか。
私は笑顔で返事をしたろ。
国道の脇には趣味のよい店が建ち並ぶ。
レストラン、サーフショップ
ホテル。
どの建物にも太陽の光は平等に注がれる。
私はサーモンピンクの建物が好きだ。
信号まちのあいだ、私はサングラスを外す。
そして君を見つめた。
レイバンのサングラスをダッシュボードにしまい
再び車を動かす。
「何か聴こうよ」君はそう言った。
私は無言でオーディオのスイッチを入れた。TUBE
夏を抱きしめて
車は静かに進む。君が着ていたポロシャツを私は忘れない。
目的地の駐車場にようやく到着。車を降りる。
まずは私から。すると突風が背後から吹き付けた。
私は帽子を吹き飛ばされた。
それを見て君は笑った。
初めて見た君の笑顔に私は心を奪われた。
車内にいる君を私はずっと見つめていた。
我に返りドアを開ける。そしていきなり
抱きしめた。
海岸にひろがる駐車場で私は君を抱きしめた。
開けたままの車のドア、そして聞こえるTUBE。
私はギュッと力を込めた。
あの時、君はどこを見ていたの。
私はカモメを見ていた。空を舞うカモメを。
高鳴る胸の鼓動はまるで空をかけていたのだ。
君のエネルギーを吸収したかった。潮の香りなどない。
君の記憶だけだ。
私は君を抱きしめたまま、無我となった。
こみ上げる喜びを永遠としたかった。
カモメは空を舞う。
何も考えずに 私のカローラの遥か上空を
舞う。
私たちを見ていたのかな。カモメは
抱きしめられている君に気づいたかな。
私と君、体はくっついた。
二人の間にはぬくもりだけがあった。
このぬくもりは私のものか、それとも君のか。
どちらにせよ、これ以上のない快適な温度だ。
人工にはだせない。出させやしない。
私は空ばかり見つめていたが それは怖かったのだ。
君を見るのが。君の顔を見つめなかった。
見つめたかったが。
君の吐息も
鼓動も
私は無視していたのだよ。
ただ手探りでぬくもりを求めた。
空は どこまでも蒼く
カモメは白いのだ。
ザザーン・・・
ザザーン・・・
どれくらいの時間が経過しているのだろうか。
「ねぇ、どうしたの」君はその言葉で沈黙を破った。
しかし私は答えなかった。その代わりに、もう一度
ギュッと力を入れた。声を出すのが怖かったんだ。
固く閉じた口をもしも開いたら
叫んでしまいそうで。
高揚した心の爆発が出てしまいそうだった。
どんな言葉になるのか分からない。
いや、おそらく叫ぶだけだったろう。
君が口を開いてから私は無我ではなくなり
そして今君を抱きしめていることを認識し
君の香りや開放的な潮風を一気に吸い込んだ。
体中がくすぐったくなり 胸が高鳴る。
目は天を仰いだままであるが
私の心は君を見つめていた。
私の記憶の中の君を呼び起こし
今抱きしめている君を創造する。
肉体は密着しているが 心はイデアの中の君を見るのだ。
天高く舞い上がる理想がなければ 想いは血液となり
下半身へとなだれ落ちるであろう。
そしてそれは性の欲望となり
女性としての君を求める。香り、肌の感触
全ては性のシグナルへと変わる
そうなれば君を見つめる我が目は
血の気をおび
体からは獣の息吹を発するだろう。
この場では無理だとしても
できるだけ早くに己の欲望を達成したくなる。
戦略的な思考とはそこから発生するものだ。
しかしそんなものは刹那だ。肉体の欲望などきりがない。
満たしては乾き そしてまた満たす。
この繰り返しとはいかに不毛な一生だろう。
私は目も覚めるほどの興奮を君から得ていた。抱きしめて。
君の力を借りて空を飛ぶほどに高揚できる。
魂が高まれば血液が下半身へ一極集中などしない。
君の香りは欲望のシグナルではない。魂の糧だ。
君をはなしたくない
はなしたくない 君をはなすくらいなら私は帰る
君は私の全てぎゅっとしていた腕を、といた。
君と私の体ははなれた。風がそっと、吹き抜ける。
君は目を閉じていたね。
居心地のよい寝床から抜けるような切なく
つらい瞬間だった。君にたよっていた私は
急な体温調節に追われていた。だがふと、君を見る。
改めて想う
なんて素敵な君。
私は両目でしっかりと直視した。そして君の奥に舞うカモメ。
全てが完璧だった。そう全てが自然だった はなれた君と、私。
ああ、はなれている。ふぅ。 さみしいなぁ。
グゥ となった君のおなか。それは空腹の合図である。
そうだ、何か食事をとろうではないか!
「食事いこうか」と私 君は頷いた。
さぁて、どこへいこうか。
言っておくがこの辺り、私は熟知している。
全てを知っているといってもいい。計算を巡らす。
ハンバーガーショップにしよう。私は確認せずに決定した。
何故、君に確認しなかったのだろう。私たちは再び
カローラに乗り込んだ。なにげにTUBEが続いていた。
「もういいよ」ポチ オーディオ、オフ。
車は軽快に走り出す。日はまだ天高い。まだまだ今日は続くぞ。
そして、そばに君がいる。私は急に恥ずかしくなり
レイバンのサングラスをかけた。目を隠したので少しホッとする。
よし、今日はチャンスあらば君を抱きしめる。何度でも。
そう思った瞬間笑えてきた。いろいろ企む私。何も知らず座る君。
その君が可哀想になった。私はこれから突然君を抱きしめるだろう。
何度も。驚きとともにその瞬間を迎えるのだろう。
その絵を想い描くと悲しく、おかしく 切なくて淡い情景となった。
君の驚いた顔を想像してみた。思わず吹き出してしまった。
ハッとした。横に君がいるではないか。
咳払いだったことにしよう。
同じような感じで咳払いをしてごまかす。
だがしかし、そこでスイッチが入ってしまった。
君がおかしくてしかたない。
笑うとまずいからなおおかしい。
私はしばらく生きた心地がしなかった。
二人をのせたカローラ海岸線をひた走る。君と私をのせた車は走った。
海岸沿いの国道を まるで滑るかのように。
何かに吸い寄せられるかのように。私は目を細めハンドルを握る。
トンネルだ。しばらく海は見えなくなる。そしたら君はどこをみる。
壁を見るのか。目をつぶるとでも。アクセルを踏み込む。
加速するカローラ。トンネルではオレンジ色のライトがきれい。
もっと踏み込む。もっとスピードをくれ。君はどこをみるの。
壁を見ていたね。
私を見てほしい。レイバンをかけている私を。見つめてほしいよ。
デート中なんだし。ハワイじゃないよここは。君を抱きしめたくなった。
そうだ さっき抱きしめたんだ。オレンジ色のライトは突如
真っ白な日の光へと変わる。私の狂気は眠り
純愛と崇高な目が開いた。私たちを待つのは知る人ぞ知る
バーガー・ショップ。
そのコーナーのテーブルを目指す。君の満足する顔を見たくて。
カローラを操る私の心は踊る。TUBEは止めたけど
私の歌はどうだい。私は歌った。ビーチボーイズの
『マーセラ』ノリノリで歌った。頭、振り回してノった。
君を横目で意識して この喜びを。
TUBEより いいだろ へ。
大丈夫 君と私は 大丈夫
君と私は 大丈夫 大丈夫
張りつめる君への恋心が ロックする魂を燃やす
ハンドルをギュッと握って歌う。
バーガー・ショップはもうすぐだ。ウフフフフ・・・
車は海岸沿いの国道を走っている。真夏の昼下がり。
右てを木々が通り過ぎてゆく。何本もの木々が。
左は海。どこまでも蒼い海が続いている。
ついさっき開けた窓から風の音が聞こえる。
そして君がいる。 もう少しだよ。
バーガー・ショップはもうすぐそこだ。
私は心でそうつぶやいた。
声を出すかわりに、アクセルを踏んだ。
時間はにわかに経過していった。ほら、見て。
バーガー・ショップ。
この時も私は声を出していない。
右折のウィンカーを出す。「ここ?」
君は大きなサインボードを見て言った。
「嫌?」念のため、私は尋ねた。
車を右折させながら。「なんかすごいね」
私は君を見た。君は笑顔だった。
その表情を真夏の太陽が照らしている。最高だ。
バーガー・ショプの駐車場に車を止める。
キーを抜き、フと君を見る。君は自分でドアを開けた。
さっきは私が開けて車から出たばかりの君を抱きしめた。
そうか。だから今回は先に自分で。 んん。
やるな、おぬし。私はゆっくりとドアを開け
そして車からおり ドアを閉め
君へ駆け寄り抱きしめた。ガバッと。
バーガー・ショップの入り口。大きなパームツリーが二つ、
まるで門のように植わっている。蒼い空の下
茶褐色の瓦屋根がまぶしい。
私はクリーム色のペンキで塗られた戸を
開いて君を中へ通した。
建物の中は暗かったので目がなれるまでは
一瞬、暗闇のようだった。やがて店内が姿を現す。
外の強い日差しのせいで室内は青みがかっている。
照明はほとんどないのがこの店。
君は店内を見回していたね。
カウンターでマスターが一人たたずんでいる。
私たちの足音に気づいたマスターは顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
分かってる。どうせ客なんかいやしない。
だから私はいつもの席へ。テラスのすみの席。
白いペンキが一面に塗られたウッドデッキ。
そこに大理石でできた小さなテーブルが三つ。
さあ、この涼しい店内からもう一度
灼熱の屋外へでるのだ。君は言った。
「中で良くない?」私の返事は
「外も意外と涼しいよ」
とりあえず私だけ外へ出た。
そして腕を拡げ合図した。意味が伝わっただろうか。
君はしかめっ面。その顔がとてもきれいで
私は室内に戻り君を抱きしめた。
大丈夫 君と私は大丈夫。
半分を海にせり出したように建つバーガーショップ。
そのテラス席に私は君と向き合い座っている。
波の音がまるでBGM。
どんなに暑い日でもここは何故かすずしいんだ。
クーラーなんていらない。だろ。
真っ白なテーブル、そしてそこにあるメニュー。
私は既に決まっている。
君はいろいろ迷っていたね。いいよ、時間はいくらだってあるんだ。
そう。私たちには無限に時間がある。そう信じていた。
君のメニューを見つめる顔 あまりに素敵で
また抱きしめようかと思ったが 止めておいた。
その衝動はとっておくことにした。「うん。決まった」と君。
オーダーしようと振り返ると すぐ後ろにマスターがいた。
植物に水をやっていた。「注文いいですか」
「ちょっと待ってくださいね」マスターは一度、店内に入り
メモを持って戻ってきた。君の注文はアボカド・バーガー。
この店の一押し。私はチーズ・バーガー。
マスターは笑顔でメモった。「少々お待ちを。」ふぅ。さて
オーダーも済ませたことだし いよいよトークしますか、
と思ったら君はお手洗いへ。君を私は目で追った。
店内でマスターが場所を説明している。
みんな君には親切だ。当然。君はきれいだから。
君が見えなくなって、私は海を見た。どこまでも蒼い海を
見たんだ。立ち上がって手すりにもたれた。
深呼吸した。海からの風が私を励ます。
今すぐ君を抱きしめたい。 あああ。
席に戻った私は手をテーブルにおき そして拳を握りしめた。
思いっきりリキんだ。
「どうしたんですか」いきなりマスターが横にいた。
そして私たちのバーガーをテーブルに置いた。
丁度のタイミングで戻る君。
「すごーい」この店のバーガーは私の中で一番なんだ。
「食べようよ」私は思わず笑顔になった。
でも君の表情は、台詞とは裏腹に陰りがあった。
何があったのだ、お手洗いで・・・
君と私は海岸にせり出したテラスでハンバーガーを食べている。
太陽はちょうど真上。真夏の正午。
波の音、海からの風どれも申し分ないが、
バーガーの味ももちろん最高であるが
私にとっては君といられることが何よりだった。
バーガーショップのマスターがこっちを見ている。
客は私たち二人だけ。
いるのはマスターをいれて3人だけ。とても
静かで 安らぐ。風は穏やかに吹いた。
日の光は優しく落ちた。かもめは静かに舞う。
蒼い空をかもめはゆっくりと舞っている。
空はどこまでも蒼い。無限に続いているようだ。
幸せな気分がそう思わせるのか。
無限の喜びを手にしているのか。
君を抱きしめ、私は透明になる。
不自然でもかまわない。
どう思われてもかまわない。
もう、私はここにいないのと同じだから。透明なんだ。
バーガーショップのテラスで私は君を抱きしめた。
食事中なのに ごめんね。
君のネガティヴなオーラを感じて
私は君からはなれ、自分の席に戻った。
そしておもむろに目の前のバーガーを食べた。
何か面白い話でもできればよかったが
あいにく私にそんな取り柄はない。
たまにマスターを見て笑うくらいだ。
一人でうけてしまって。
マスターの顔が面白いものだから。
すっかりテンションの下がってしまった君。
どうすればいいのか分からない私。
澄み渡る大空、優雅なかもめたち 憂鬱な君と私
どうして? 泣かないで・・・。
穏やかな光。それらに包まれている君と私は
どうしてなんとも言えない張りつめた
空間を切り取っていた。何もできない空気。
視線は宙を彷徨う。まるでかもめのように。
呼吸だけが、無意味に繰り返される。
波のように。その緊張感から私は尿意を催した。
「ちょっとトイレに行ってくる」私はここぞとばかり
つとめて明るく口を開いた。目は宙を泳いだままだが。
そして席を立ちテーブルを後にした。
去り際、横目で君を見た。君と目が合った。
私は肩で風をきりトイレへ向かう。
焦り、不安、虚脱感をふりきり トイレへ向かったんだ。
そして用をたして席へ戻ると
君はいなかった。 あああ
君は 君はどこへいってしまったの?君はいない
どこ? どこにもいない 君はいない
どこ? どこへいってしまったんだい?
どこへ行ってしまったんだい?
私が悪かった うわーっ
「どうかしましたか」
「私の連れがいなくなってしまって」
「そうでしたか」
「いったい、どこへいってしまったんだろう」
「どこへいかれたんですかね」
「 」
「大丈夫ですか」
「つらいです」
「ちょっと待っていてください」
「え」
「どうぞ」
「え、いいんですか」
「ええ、どうぞ」そう言ってマスターは私にプリンをくれた。
私があまりに不幸に思えたからか 気を使ってくれた。
真っ白のウッドデッキで一人 プリンを食べる。畜生、
うまい。
蒼い空、クソが カモメ、クソが クソだらけだ
クソ
プリンがおいしい。
君はいなくなってしまったけど私は君が好きだよ
君が好きなんだ 心からそう、言おう。
君が好きだ。大好きだ。
この大空に向かってそう言おう。
この大きな海に向かってそう叫ぼう。
私の想いのたけを打ち明けるんだ。何にもかまわない。
君が好きだ
君がいなくなってしまって、どん底に寂しいけどさ。
しかたないよな。もう君はいないんだから。
何を言おうと、遅いよな。私は深呼吸した。
押しつぶされそうになった胸に空気を送り込む。
肺の隅々まで新鮮な空気で満たす。
鼻からゆっくりと吐き出す。
肩の力をふと抜いて目の前の世界を見る。
ブッダも言ったよな、世界は美しい。
本当だ。世界は美しい。何もしなくても。
私一人でも。それは美しい。
君の方が美しいけど。
バーガーショップのテラスで
私は渋い顔で海を見つめている。
暗い店内から君は再び現れた。
それはまるで暗黒をつんざく一筋の光のように
私を貫いた。私は事態を飲み込めないばかりか
さっきまでの悲しみすら忘れ
その光のもとである君へ駆け寄った。
「ごめん、探した?電話かけてて」
もうどうでもいい。強く抱きしめた。
もう、どうでもいい。抱きしめる。
反省の気持ち、君の気持ちの確認
どうでもいい。君を抱きしめる。
うおおおおおお なんという嬉しさ
なんという快感伝わっているか 君へ、この喜びが!
君の拒否反応、今は感じない。
まるで私を受け入れてくれているかのようだ!
君の胸が私に当っている。なんという喜び!最高だ。
このまま唇と唇を重ねてしまおうか。あああ
もう我慢できてない
このまま君を してしまおうか
あのマスターさえいなければな。
青空は再びその広がりを
カモメは再び翼のはためきを取り戻したかのようだ。
寄せる波 優しい風 まるで永遠のように続く時間を
与えてくれているかのようだ。何もいらないのだ。
君がいてくれれば 他には何もいらない。
至福の喜びは私を寛大な大人にした。
スッと腕をとき 真面目な顔で君を見つめた。
奇麗だな~ 「デザート、食べよう」
「うん」
私はマスターを呼びつけさっきのプリンをオーダーした。
ついさっきマスターがくれた あのプリンだ。
おいしいことは知っている。「お待たせしました」 ス
何!さっきと違う。
一瞬焦るが、なんとか冷静を保つ。
君は私を見つめていた。何故か、目を合わせてくる。
なんとも好意的な視線だ。
一体トイレで何があったのだろう。そしてプリンを口に入れる。
「ん」「おいしい」といって笑顔になった。
私は吸い込まれそうだった。
真っ白なペンキで塗られたウッドデッキ。
そこは幸せで溢れていたのだ。
~ 10年後 ~
あの、 バーガー・ショップでの思い出は
今も私の心に深く刻まれています。
淡く、切なくそして眩かったあの日。
そのあとも君と私は楽しい日々を過ごしました。
つきあってから1年4ヶ月のある日
それとはなしに君が言い出した別れ話。
君と私の関係は終りましたね。別に、つらくはなかったよ。
でもよく思い切れたよね、君は。
だって楽しい日だってあったじゃん
思い出したときさ、なんかいい日だったなって
ゆうのあったでしょ。
まるで君はエクスカリバーで切り裂くみたいにさ
二人の思い出もぶった切っちゃったようなもんだよ。
私は悲しむというよりは、その切断面の鮮やかさに
驚いたというかさ、君のことを全く理解してなかったってね。
ふう。
時間が、経過したから今こうして語れる。
10年という歳月が、私にこれを語らせている。
少し前だったら無理だったな。そんなものを皆に伝えようなんか
できないし、しようという発想がまず湧かない。
今、私は部屋で一人ブログを打つ。
当時とは違って営業の仕事をしている。口べただったあの頃とは違う。
今は保険のセールスをやってるんだ。顧客の8割は女性。
なんかさ、人の心を読むってゆうのかな
そういうのができるようになってさ。今、もし君とあったら
あの日をもう一度後追いできるのなら
私はどうするだろう。結構、自信あるよ。
もっとエンジョイできたと思うんだ。私と君は。
ローレックスつけてるから、今の私は。あの時はGショック。
目を閉じてみよう。リラックス。
左耳にはエンジン音。
そう、トンネルを抜ければ、海が見える。
愛車のカローラは軽快な走りで国道を進んでいる。
「窓、開けてもいい?」
助手席の君はそう訪ねた。私は頷く。
ボタンを押し そして窓ガラスが下がる。
そのボタンを押した君の指がとてもきれいだった。
私は見逃さない。そうしたディティール・・・。
しばらく見つめ続けた。運転なんか、関係ねえ。
開いた窓から風が車内へと運ばれる。
そして、最高のタイミングでトンネルを抜けた。
海だ。風に海の香りがまじる。
太陽が海を照らしている。キラキラとよせる波。
車は右折し左に海を見る。君は海を見て喜んだね。
何故か、私は涙を流す。
「海っていいよね」私は笑顔で返事をする。
見えているかい?私のローレックス。
国道の脇には趣味のよい店が建ち並ぶ。
レストラン、サーフショップ
ホテル、「オアシス」。
君と私の思い出がつまったホテル。
私はサーモンピンクの建物が好きだ。
信号まちのあいだ、私はサングラスを外す。そして君を見つめた。
レイバンのサングラスをダッシュボードにしまい再び車を動かす。
「何か聴こうよ」君はそう言った。
私は無言でオーディオのスイッチを入れた。TUBEの夏を抱きしめて
今じゃ懐メロ。なぜかものすごい哀愁に襲われる。
なんか人の心をつかむいろんなテクとかあったけど
この曲聞いてると、なんか なんか、違うのかなって
私、なんか間違えてるのかなってだから無言になっちゃって。
車は静かに進む。10年前と全く変わらず。
君が着ていたポロシャツを私は忘れない。
今じゃそんなの着てる人だれもいないよ。
目的地の駐車場にようやく到着。車を降りる。
まずは私から。すると突風が背後から吹き付けた。
私は帽子を吹き飛ばされた。それを見て君は笑った。
初めて見た君の笑顔に私は心を奪われた。
車内にいる君を私はずっと見つめていた。
我に返りドアを開ける。そしていきなり
抱きしめた。
どうだ?
どうなんだ?
まるでなにも変わっていないのではないか。
君の前では私は私。やり手のセールスマンではない
無口で、むっつりした君のことを大好きなただの私でしか
ないんだ。このまま君をはなしたくはない。
はなせば、この淡い空想も溶けるのだろう。
その先に待つ二人の分かれが。
だから、君をはなしたくはないよ。
目を開けると飲みかけのウメッシュ。
ほほには涙がつった後。
窓の外は夜。
あああ、夏休み。
~コメント欄へつづく~
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愛車のカローラは軽快な走りで国道を進んでいる。
「窓、開けてもいい?」
助手席の君はそう訪ねた。私は頷く。
ボタンを押し そして窓ガラスが下がる。
そのボタンを押した君の指がとてもきれいだった。
私は見逃さない。そうしたディティール・・・。
開いた窓から風が車内へと運ばれる。
そして、最高のタイミングでトンネルを抜けた。
海だ。
風に海の香りがまじる。
太陽が海を照らしている。
キラキラとよせる波。
車は右折し左に海を見る。
君は海を見て喜んだね。
「海っていいよね」
君のその言葉に私はどれほど嬉しかったか。
私は笑顔で返事をしたろ。
国道の脇には趣味のよい店が建ち並ぶ。
レストラン、サーフショップ
ホテル。
どの建物にも太陽の光は平等に注がれる。
私はサーモンピンクの建物が好きだ。
信号まちのあいだ、私はサングラスを外す。
そして君を見つめた。
レイバンのサングラスをダッシュボードにしまい
再び車を動かす。
「何か聴こうよ」君はそう言った。
私は無言でオーディオのスイッチを入れた。TUBE
夏を抱きしめて
車は静かに進む。君が着ていたポロシャツを私は忘れない。
目的地の駐車場にようやく到着。車を降りる。
まずは私から。すると突風が背後から吹き付けた。
私は帽子を吹き飛ばされた。
それを見て君は笑った。
初めて見た君の笑顔に私は心を奪われた。
車内にいる君を私はずっと見つめていた。
我に返りドアを開ける。そしていきなり
抱きしめた。
海岸にひろがる駐車場で私は君を抱きしめた。
開けたままの車のドア、そして聞こえるTUBE。
私はギュッと力を込めた。
あの時、君はどこを見ていたの。
私はカモメを見ていた。空を舞うカモメを。
高鳴る胸の鼓動はまるで空をかけていたのだ。
君のエネルギーを吸収したかった。潮の香りなどない。
君の記憶だけだ。
私は君を抱きしめたまま、無我となった。
こみ上げる喜びを永遠としたかった。
カモメは空を舞う。
何も考えずに 私のカローラの遥か上空を
舞う。
私たちを見ていたのかな。カモメは
抱きしめられている君に気づいたかな。
私と君、体はくっついた。
二人の間にはぬくもりだけがあった。
このぬくもりは私のものか、それとも君のか。
どちらにせよ、これ以上のない快適な温度だ。
人工にはだせない。出させやしない。
私は空ばかり見つめていたが それは怖かったのだ。
君を見るのが。君の顔を見つめなかった。
見つめたかったが。
君の吐息も
鼓動も
私は無視していたのだよ。
ただ手探りでぬくもりを求めた。
空は どこまでも蒼く
カモメは白いのだ。
ザザーン・・・
ザザーン・・・
どれくらいの時間が経過しているのだろうか。
「ねぇ、どうしたの」君はその言葉で沈黙を破った。
しかし私は答えなかった。その代わりに、もう一度
ギュッと力を入れた。声を出すのが怖かったんだ。
固く閉じた口をもしも開いたら
叫んでしまいそうで。
高揚した心の爆発が出てしまいそうだった。
どんな言葉になるのか分からない。
いや、おそらく叫ぶだけだったろう。
君が口を開いてから私は無我ではなくなり
そして今君を抱きしめていることを認識し
君の香りや開放的な潮風を一気に吸い込んだ。
体中がくすぐったくなり 胸が高鳴る。
目は天を仰いだままであるが
私の心は君を見つめていた。
私の記憶の中の君を呼び起こし
今抱きしめている君を創造する。
肉体は密着しているが 心はイデアの中の君を見るのだ。
天高く舞い上がる理想がなければ 想いは血液となり
下半身へとなだれ落ちるであろう。
そしてそれは性の欲望となり
女性としての君を求める。香り、肌の感触
全ては性のシグナルへと変わる
そうなれば君を見つめる我が目は
血の気をおび
体からは獣の息吹を発するだろう。
この場では無理だとしても
できるだけ早くに己の欲望を達成したくなる。
戦略的な思考とはそこから発生するものだ。
しかしそんなものは刹那だ。肉体の欲望などきりがない。
満たしては乾き そしてまた満たす。
この繰り返しとはいかに不毛な一生だろう。
私は目も覚めるほどの興奮を君から得ていた。抱きしめて。
君の力を借りて空を飛ぶほどに高揚できる。
魂が高まれば血液が下半身へ一極集中などしない。
君の香りは欲望のシグナルではない。魂の糧だ。
君をはなしたくない
はなしたくない 君をはなすくらいなら私は帰る
君は私の全てぎゅっとしていた腕を、といた。
君と私の体ははなれた。風がそっと、吹き抜ける。
君は目を閉じていたね。
居心地のよい寝床から抜けるような切なく
つらい瞬間だった。君にたよっていた私は
急な体温調節に追われていた。だがふと、君を見る。
改めて想う
なんて素敵な君。
私は両目でしっかりと直視した。そして君の奥に舞うカモメ。
全てが完璧だった。そう全てが自然だった はなれた君と、私。
ああ、はなれている。ふぅ。 さみしいなぁ。
グゥ となった君のおなか。それは空腹の合図である。
そうだ、何か食事をとろうではないか!
「食事いこうか」と私 君は頷いた。
さぁて、どこへいこうか。
言っておくがこの辺り、私は熟知している。
全てを知っているといってもいい。計算を巡らす。
ハンバーガーショップにしよう。私は確認せずに決定した。
何故、君に確認しなかったのだろう。私たちは再び
カローラに乗り込んだ。なにげにTUBEが続いていた。
「もういいよ」ポチ オーディオ、オフ。
車は軽快に走り出す。日はまだ天高い。まだまだ今日は続くぞ。
そして、そばに君がいる。私は急に恥ずかしくなり
レイバンのサングラスをかけた。目を隠したので少しホッとする。
よし、今日はチャンスあらば君を抱きしめる。何度でも。
そう思った瞬間笑えてきた。いろいろ企む私。何も知らず座る君。
その君が可哀想になった。私はこれから突然君を抱きしめるだろう。
何度も。驚きとともにその瞬間を迎えるのだろう。
その絵を想い描くと悲しく、おかしく 切なくて淡い情景となった。
君の驚いた顔を想像してみた。思わず吹き出してしまった。
ハッとした。横に君がいるではないか。
咳払いだったことにしよう。
同じような感じで咳払いをしてごまかす。
だがしかし、そこでスイッチが入ってしまった。
君がおかしくてしかたない。
笑うとまずいからなおおかしい。
私はしばらく生きた心地がしなかった。
二人をのせたカローラ海岸線をひた走る。君と私をのせた車は走った。
海岸沿いの国道を まるで滑るかのように。
何かに吸い寄せられるかのように。私は目を細めハンドルを握る。
トンネルだ。しばらく海は見えなくなる。そしたら君はどこをみる。
壁を見るのか。目をつぶるとでも。アクセルを踏み込む。
加速するカローラ。トンネルではオレンジ色のライトがきれい。
もっと踏み込む。もっとスピードをくれ。君はどこをみるの。
壁を見ていたね。
私を見てほしい。レイバンをかけている私を。見つめてほしいよ。
デート中なんだし。ハワイじゃないよここは。君を抱きしめたくなった。
そうだ さっき抱きしめたんだ。オレンジ色のライトは突如
真っ白な日の光へと変わる。私の狂気は眠り
純愛と崇高な目が開いた。私たちを待つのは知る人ぞ知る
バーガー・ショップ。
そのコーナーのテーブルを目指す。君の満足する顔を見たくて。
カローラを操る私の心は踊る。TUBEは止めたけど
私の歌はどうだい。私は歌った。ビーチボーイズの
『マーセラ』ノリノリで歌った。頭、振り回してノった。
君を横目で意識して この喜びを。
TUBEより いいだろ へ。
大丈夫 君と私は 大丈夫
君と私は 大丈夫 大丈夫
張りつめる君への恋心が ロックする魂を燃やす
ハンドルをギュッと握って歌う。
バーガー・ショップはもうすぐだ。ウフフフフ・・・
車は海岸沿いの国道を走っている。真夏の昼下がり。
右てを木々が通り過ぎてゆく。何本もの木々が。
左は海。どこまでも蒼い海が続いている。
ついさっき開けた窓から風の音が聞こえる。
そして君がいる。 もう少しだよ。
バーガー・ショップはもうすぐそこだ。
私は心でそうつぶやいた。
声を出すかわりに、アクセルを踏んだ。
時間はにわかに経過していった。ほら、見て。
バーガー・ショップ。
この時も私は声を出していない。
右折のウィンカーを出す。「ここ?」
君は大きなサインボードを見て言った。
「嫌?」念のため、私は尋ねた。
車を右折させながら。「なんかすごいね」
私は君を見た。君は笑顔だった。
その表情を真夏の太陽が照らしている。最高だ。
バーガー・ショプの駐車場に車を止める。
キーを抜き、フと君を見る。君は自分でドアを開けた。
さっきは私が開けて車から出たばかりの君を抱きしめた。
そうか。だから今回は先に自分で。 んん。
やるな、おぬし。私はゆっくりとドアを開け
そして車からおり ドアを閉め
君へ駆け寄り抱きしめた。ガバッと。
バーガー・ショップの入り口。大きなパームツリーが二つ、
まるで門のように植わっている。蒼い空の下
茶褐色の瓦屋根がまぶしい。
私はクリーム色のペンキで塗られた戸を
開いて君を中へ通した。
建物の中は暗かったので目がなれるまでは
一瞬、暗闇のようだった。やがて店内が姿を現す。
外の強い日差しのせいで室内は青みがかっている。
照明はほとんどないのがこの店。
君は店内を見回していたね。
カウンターでマスターが一人たたずんでいる。
私たちの足音に気づいたマスターは顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
分かってる。どうせ客なんかいやしない。
だから私はいつもの席へ。テラスのすみの席。
白いペンキが一面に塗られたウッドデッキ。
そこに大理石でできた小さなテーブルが三つ。
さあ、この涼しい店内からもう一度
灼熱の屋外へでるのだ。君は言った。
「中で良くない?」私の返事は
「外も意外と涼しいよ」
とりあえず私だけ外へ出た。
そして腕を拡げ合図した。意味が伝わっただろうか。
君はしかめっ面。その顔がとてもきれいで
私は室内に戻り君を抱きしめた。
大丈夫 君と私は大丈夫。
半分を海にせり出したように建つバーガーショップ。
そのテラス席に私は君と向き合い座っている。
波の音がまるでBGM。
どんなに暑い日でもここは何故かすずしいんだ。
クーラーなんていらない。だろ。
真っ白なテーブル、そしてそこにあるメニュー。
私は既に決まっている。
君はいろいろ迷っていたね。いいよ、時間はいくらだってあるんだ。
そう。私たちには無限に時間がある。そう信じていた。
君のメニューを見つめる顔 あまりに素敵で
また抱きしめようかと思ったが 止めておいた。
その衝動はとっておくことにした。「うん。決まった」と君。
オーダーしようと振り返ると すぐ後ろにマスターがいた。
植物に水をやっていた。「注文いいですか」
「ちょっと待ってくださいね」マスターは一度、店内に入り
メモを持って戻ってきた。君の注文はアボカド・バーガー。
この店の一押し。私はチーズ・バーガー。
マスターは笑顔でメモった。「少々お待ちを。」ふぅ。さて
オーダーも済ませたことだし いよいよトークしますか、
と思ったら君はお手洗いへ。君を私は目で追った。
店内でマスターが場所を説明している。
みんな君には親切だ。当然。君はきれいだから。
君が見えなくなって、私は海を見た。どこまでも蒼い海を
見たんだ。立ち上がって手すりにもたれた。
深呼吸した。海からの風が私を励ます。
今すぐ君を抱きしめたい。 あああ。
席に戻った私は手をテーブルにおき そして拳を握りしめた。
思いっきりリキんだ。
「どうしたんですか」いきなりマスターが横にいた。
そして私たちのバーガーをテーブルに置いた。
丁度のタイミングで戻る君。
「すごーい」この店のバーガーは私の中で一番なんだ。
「食べようよ」私は思わず笑顔になった。
でも君の表情は、台詞とは裏腹に陰りがあった。
何があったのだ、お手洗いで・・・
君と私は海岸にせり出したテラスでハンバーガーを食べている。
太陽はちょうど真上。真夏の正午。
波の音、海からの風どれも申し分ないが、
バーガーの味ももちろん最高であるが
私にとっては君といられることが何よりだった。
バーガーショップのマスターがこっちを見ている。
客は私たち二人だけ。
いるのはマスターをいれて3人だけ。とても
静かで 安らぐ。風は穏やかに吹いた。
日の光は優しく落ちた。かもめは静かに舞う。
蒼い空をかもめはゆっくりと舞っている。
空はどこまでも蒼い。無限に続いているようだ。
幸せな気分がそう思わせるのか。
無限の喜びを手にしているのか。
君を抱きしめ、私は透明になる。
不自然でもかまわない。
どう思われてもかまわない。
もう、私はここにいないのと同じだから。透明なんだ。
バーガーショップのテラスで私は君を抱きしめた。
食事中なのに ごめんね。
君のネガティヴなオーラを感じて
私は君からはなれ、自分の席に戻った。
そしておもむろに目の前のバーガーを食べた。
何か面白い話でもできればよかったが
あいにく私にそんな取り柄はない。
たまにマスターを見て笑うくらいだ。
一人でうけてしまって。
マスターの顔が面白いものだから。
すっかりテンションの下がってしまった君。
どうすればいいのか分からない私。
澄み渡る大空、優雅なかもめたち 憂鬱な君と私
どうして? 泣かないで・・・。
穏やかな光。それらに包まれている君と私は
どうしてなんとも言えない張りつめた
空間を切り取っていた。何もできない空気。
視線は宙を彷徨う。まるでかもめのように。
呼吸だけが、無意味に繰り返される。
波のように。その緊張感から私は尿意を催した。
「ちょっとトイレに行ってくる」私はここぞとばかり
つとめて明るく口を開いた。目は宙を泳いだままだが。
そして席を立ちテーブルを後にした。
去り際、横目で君を見た。君と目が合った。
私は肩で風をきりトイレへ向かう。
焦り、不安、虚脱感をふりきり トイレへ向かったんだ。
そして用をたして席へ戻ると
君はいなかった。 あああ
君は 君はどこへいってしまったの?君はいない
どこ? どこにもいない 君はいない
どこ? どこへいってしまったんだい?
どこへ行ってしまったんだい?
私が悪かった うわーっ
「どうかしましたか」
「私の連れがいなくなってしまって」
「そうでしたか」
「いったい、どこへいってしまったんだろう」
「どこへいかれたんですかね」
「 」
「大丈夫ですか」
「つらいです」
「ちょっと待っていてください」
「え」
「どうぞ」
「え、いいんですか」
「ええ、どうぞ」そう言ってマスターは私にプリンをくれた。
私があまりに不幸に思えたからか 気を使ってくれた。
真っ白のウッドデッキで一人 プリンを食べる。畜生、
うまい。
蒼い空、クソが カモメ、クソが クソだらけだ
クソ
プリンがおいしい。
君はいなくなってしまったけど私は君が好きだよ
君が好きなんだ 心からそう、言おう。
君が好きだ。大好きだ。
この大空に向かってそう言おう。
この大きな海に向かってそう叫ぼう。
私の想いのたけを打ち明けるんだ。何にもかまわない。
君が好きだ
君がいなくなってしまって、どん底に寂しいけどさ。
しかたないよな。もう君はいないんだから。
何を言おうと、遅いよな。私は深呼吸した。
押しつぶされそうになった胸に空気を送り込む。
肺の隅々まで新鮮な空気で満たす。
鼻からゆっくりと吐き出す。
肩の力をふと抜いて目の前の世界を見る。
ブッダも言ったよな、世界は美しい。
本当だ。世界は美しい。何もしなくても。
私一人でも。それは美しい。
君の方が美しいけど。
バーガーショップのテラスで
私は渋い顔で海を見つめている。
暗い店内から君は再び現れた。
それはまるで暗黒をつんざく一筋の光のように
私を貫いた。私は事態を飲み込めないばかりか
さっきまでの悲しみすら忘れ
その光のもとである君へ駆け寄った。
「ごめん、探した?電話かけてて」
もうどうでもいい。強く抱きしめた。
もう、どうでもいい。抱きしめる。
反省の気持ち、君の気持ちの確認
どうでもいい。君を抱きしめる。
うおおおおおお なんという嬉しさ
なんという快感伝わっているか 君へ、この喜びが!
君の拒否反応、今は感じない。
まるで私を受け入れてくれているかのようだ!
君の胸が私に当っている。なんという喜び!最高だ。
このまま唇と唇を重ねてしまおうか。あああ
もう我慢できてない
このまま君を してしまおうか
あのマスターさえいなければな。
青空は再びその広がりを
カモメは再び翼のはためきを取り戻したかのようだ。
寄せる波 優しい風 まるで永遠のように続く時間を
与えてくれているかのようだ。何もいらないのだ。
君がいてくれれば 他には何もいらない。
至福の喜びは私を寛大な大人にした。
スッと腕をとき 真面目な顔で君を見つめた。
奇麗だな~ 「デザート、食べよう」
「うん」
私はマスターを呼びつけさっきのプリンをオーダーした。
ついさっきマスターがくれた あのプリンだ。
おいしいことは知っている。「お待たせしました」 ス
何!さっきと違う。
一瞬焦るが、なんとか冷静を保つ。
君は私を見つめていた。何故か、目を合わせてくる。
なんとも好意的な視線だ。
一体トイレで何があったのだろう。そしてプリンを口に入れる。
「ん」「おいしい」といって笑顔になった。
私は吸い込まれそうだった。
真っ白なペンキで塗られたウッドデッキ。
そこは幸せで溢れていたのだ。
~ 10年後 ~
あの、 バーガー・ショップでの思い出は
今も私の心に深く刻まれています。
淡く、切なくそして眩かったあの日。
そのあとも君と私は楽しい日々を過ごしました。
つきあってから1年4ヶ月のある日
それとはなしに君が言い出した別れ話。
君と私の関係は終りましたね。別に、つらくはなかったよ。
でもよく思い切れたよね、君は。
だって楽しい日だってあったじゃん
思い出したときさ、なんかいい日だったなって
ゆうのあったでしょ。
まるで君はエクスカリバーで切り裂くみたいにさ
二人の思い出もぶった切っちゃったようなもんだよ。
私は悲しむというよりは、その切断面の鮮やかさに
驚いたというかさ、君のことを全く理解してなかったってね。
ふう。
時間が、経過したから今こうして語れる。
10年という歳月が、私にこれを語らせている。
少し前だったら無理だったな。そんなものを皆に伝えようなんか
できないし、しようという発想がまず湧かない。
今、私は部屋で一人ブログを打つ。
当時とは違って営業の仕事をしている。口べただったあの頃とは違う。
今は保険のセールスをやってるんだ。顧客の8割は女性。
なんかさ、人の心を読むってゆうのかな
そういうのができるようになってさ。今、もし君とあったら
あの日をもう一度後追いできるのなら
私はどうするだろう。結構、自信あるよ。
もっとエンジョイできたと思うんだ。私と君は。
ローレックスつけてるから、今の私は。あの時はGショック。
目を閉じてみよう。リラックス。
左耳にはエンジン音。
そう、トンネルを抜ければ、海が見える。
愛車のカローラは軽快な走りで国道を進んでいる。
「窓、開けてもいい?」
助手席の君はそう訪ねた。私は頷く。
ボタンを押し そして窓ガラスが下がる。
そのボタンを押した君の指がとてもきれいだった。
私は見逃さない。そうしたディティール・・・。
しばらく見つめ続けた。運転なんか、関係ねえ。
開いた窓から風が車内へと運ばれる。
そして、最高のタイミングでトンネルを抜けた。
海だ。風に海の香りがまじる。
太陽が海を照らしている。キラキラとよせる波。
車は右折し左に海を見る。君は海を見て喜んだね。
何故か、私は涙を流す。
「海っていいよね」私は笑顔で返事をする。
見えているかい?私のローレックス。
国道の脇には趣味のよい店が建ち並ぶ。
レストラン、サーフショップ
ホテル、「オアシス」。
君と私の思い出がつまったホテル。
私はサーモンピンクの建物が好きだ。
信号まちのあいだ、私はサングラスを外す。そして君を見つめた。
レイバンのサングラスをダッシュボードにしまい再び車を動かす。
「何か聴こうよ」君はそう言った。
私は無言でオーディオのスイッチを入れた。TUBEの夏を抱きしめて
今じゃ懐メロ。なぜかものすごい哀愁に襲われる。
なんか人の心をつかむいろんなテクとかあったけど
この曲聞いてると、なんか なんか、違うのかなって
私、なんか間違えてるのかなってだから無言になっちゃって。
車は静かに進む。10年前と全く変わらず。
君が着ていたポロシャツを私は忘れない。
今じゃそんなの着てる人だれもいないよ。
目的地の駐車場にようやく到着。車を降りる。
まずは私から。すると突風が背後から吹き付けた。
私は帽子を吹き飛ばされた。それを見て君は笑った。
初めて見た君の笑顔に私は心を奪われた。
車内にいる君を私はずっと見つめていた。
我に返りドアを開ける。そしていきなり
抱きしめた。
どうだ?
どうなんだ?
まるでなにも変わっていないのではないか。
君の前では私は私。やり手のセールスマンではない
無口で、むっつりした君のことを大好きなただの私でしか
ないんだ。このまま君をはなしたくはない。
はなせば、この淡い空想も溶けるのだろう。
その先に待つ二人の分かれが。
だから、君をはなしたくはないよ。
目を開けると飲みかけのウメッシュ。
ほほには涙がつった後。
窓の外は夜。
あああ、夏休み。
~コメント欄へつづく~
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